第7話 闘技国
「あー…涼しい…。」
カラカラカラ…
門を抜け闘技国に入国したヴァラックは、建物の中で風にうたれていた…。
内門付近の陽の熱さはすでに体から抜けていた、独特の反復する軽快な駆動音を奏でる「魔法道具」をボーっと緩く見つめる。
「ここいい店だな…」
「「「「まだ入店したばっかりですよ!?」」」」
そこは闘技国内に存在する飲食店、暖かな暖気に包まれた闘技国の地であるはずだが、この建物の中でヴァラックは汗一つ掻くことなく静かに座っていたのだ。
ただ歩いただけで大汗を掻いてフラフラと立つのもつらそうにしていたヴァラックが、建物に入っただけでリラックスできるようになったのだ。
「いいや、なんて素晴らしい魔法道具なんだ…」
「『魔法涼風機』ですね、日当たりの強い建物だと割と設置されてますよ?」
「買い…だな」
それは蒸し暑い空気を冷やして涼しい風を吹かす魔法道具であった、魔法石で動くピストン機構によって高速回転するファンによって冷やされて、室内温度が緩やかに下がる仕組みだ。
ヴァラックは清々しい表情で納涼を楽しむ、途中でニコやかな店員がメニュー表を持ってきたので、遠慮なく沢山の料理を注文させてもらった。
「そうだな…これとこれとこれと…そうだなこれはサイズ大で頼めるか?」
「もちろんでございます!それと当店では大ジョッキ1杯分の氷を
「ほう
あまりにもテキパキした注文にデルタたちは唖然とする…ここら辺の大通りに面するような店は軒並み割高なのだ、驚きもする。
…だがヴァラックは大量に注文して、メニュー表をアハートに渡す…アハートは「いいんです?」と遠慮がちに聞きながらメニュー表を受け取る。
「金は割とある、この間
「そ、そんなモンスターいるんですね…」
「?…、ああそういや闘技国周辺ってモンスターあんまりいないんだっけか…」
ヴァラックは思い返す…、ルアンの街にいるエミは確か闘技国出身であったと、エミのやつがルアンの街に来たのは、闘技国にモンスターがいないから経験としてきたとか何とか言っていたな…、と冷たい飲み物を呷りながら「ふっ…」と考える。
「えぇ…一応強いモンスターで『
「そろそろ保護モンスターに指定されそうで、本当に目を張るのは居ません。」
「『明王大熊』か…、ああ、あの見た目を選り好みし過ぎて中々ツガイにならないあの『明王大熊』か。」
「ええ、その熊です」とイマチュイアが言うと、あまりに直球な返事にヴァラックたちは笑い声を我慢出来ずに口から噴き出す…
デルタたちもヴァラックの言葉に釣られて笑ってしまい、イマチュイアは頬を膨らませて肩を震わせる。
「う…うぅ…でも、実際個体数めっちゃ少なくなってるんですよ!」
「まぁな…そういえば一説には、腕の太さが雌へのアピール…らしいですね。」
「あ…、姉さんそれデマらしいですよ?」
「…なんて顔してんだデルタ…おいおい大した間違いじゃないんだから、そんな恥ずかしがるなよ」
たわいもない会話をダラダラと喋りながら食事を楽しんだ、デルタの恥ずかしがっている姿をみて、ヴァラックはやっぱりコイツ可愛いな…なんて思うのは自然な事である。
「ん…?アハート、それは魚のフライか?」
「はい!ヴァラックさんのはステーキですか?」
「おう、これウメェよ」
本当に…本当にこんなに実りのない会話を続けた、しかしヴァラックにとってその会話すらも経験のないものであったのだ。
自身が自然にこんな年相応に笑っているのに気づいたのは、酔いが回ってきた時の事であった。
んっ…んっ……ブフゥーー…
「バハー…ッ…、そういや、この国ってあの闘技国だよな?」
「"グビーーッ"…ブハッ…えぇ、世界一の娯楽国家ですよ」
「てっきり何処でも殺し合いしている国だと思ったが…そうでもないんだな」
もう食事場も人が少なくなってきた辺りで、ヴァラックはデルタと杯を交わしていた、3人娘はまだまだ酒は早いなと思ったので、遠慮は要らないと一言添えて今は3人仲良くデザートを頬張っている。
そんな様子をデルタと微笑みながら酒をしゃくる…、ふと気になったのがこの国についてだった。
「そんな殺伐とした国じゃ…ありませんよ!」
「闘技国は、本格的に強者同士の戦いを娯楽として観戦する国…それを闘技国っていいます、そんな修羅の国じゃありませんって」
「なるほど…、確かにあまり闘技国で有名な冒険者とか聞かないな」
「『
—デルタ曰く、闘技国はあくまでも娯楽として在する国らしい、この国には大小問わず10数ヶ所の闘技場があるらしく、それぞれ武器専門や魔法専門の闘技場といった感じに区分されているのだとか。
その中でも最も古く歴史ある国の中央を陣取る巨大円状闘技場…。
「『
「武器、魔法、兵器…すべてありの1対1のトーナメント形式の毎月行われる
「?…賭場…?」
ヴァラックはなぜ「賭場」なのか分からなかった、だがデルタが言うにはこのコロシアムが大きくなった要因に、ここ「闘技国」で行われる非殺傷の戦闘を観戦し賭け事をするのが、当時最大の賭け事であったのだとか。
その名残で今でも「常識的な範囲」で金銭が飛び交うらしい。
「ですが白金貨数枚は今でも投げる貴族は…いますね」
「ほぅ…、私も一度賭けてみたいな…」
「平均的に金貨2~3枚くらいですよ」
酒の勢いで賭けてみるなんて言ったがちょっと勢いに任せてしまったかなと一瞬固まるが、平均的掛け金を聞いて「(んまぁいいか…)」と酒で言葉を流し込む…。
だがデルタはそんな様子のヴァラックより、ある一つのヴァラックの疑問に小首を傾げるのだ。
「…出ないんですか?」
「”ぐびぃー…”んん…見ごたえある戦い方じゃないし…」
「そういうの…気にするんですね」
ちょっと顔を伏せ気味に肩身狭く酒を呷るヴァラックに、若干きゅんとしながらも数刻前の戦い方を思い出して「確かになぁ…」と杯を傾ける。
__…デルタの頭にチョップが降り注ぐのは火を見るよりも明らかであった。
「ぶふぉッッ!!!」
○飲食店、店前
「ヴァラックさん!ありがとうございます~!」
「おうよ」
会計を済ませた一行は、飲食店の扉を跨ぎお腹いっぱいに食事を終えたことに満足した様子であった、特に最年少のアハートはデザートの持ち帰りまで奢ってもらえて、釣り目も今はどこか緩やかに下がっていた。
「奢っていただきありがとうございます。」
「「「ありがとうございます!!!」」」
「ふ…、かまわんさ」
ヴァラックは四人から感謝されて結構嬉しくなった…、一人っ子でルアン街でも基本奢られる(※エミは除く)ヴァラックはアハートらに謎の庇護欲を抱く…、いわゆる『お姉ちゃん』の気持ちになっていたのだ。
…いや、この場合はアハートの妹力が高いのか?…そんなことを思いながらも、アハートはイマチュイアとホリーナに頭を撫でられながらニコニコして、ヴァラックとデルタはその様子を優しい目で見つめていた。
「「よかったね~」」
「///」
「…可愛いです…よね」
「…『
スキル持ちなのかと疑うほどに庇護欲が湧くのだ…、アハートの純粋な心がヴァラックら年上に刺さるからだろう。
「……アツ…」ボソッ…
ジワリ…ぽたぽた…
__サンサンに照らされ熱された道でヴァラックは再び汗を滴らせる、乾いた砂色の地面を色濃くする水滴に、3人娘は顔を合わせてヴァラックに詰め寄る。
「ど…どうし…た?」
「!私らがお礼に、ヴァラックさんの服選びましょうか!」
「うんうん!」
「ちょっと高いですが、今のヴァラックさんに『おすすめの服』があるんですよ!」
3人娘の提案にヴァラックは目を丸くする、確かに今の服はルアンの街で買った服である…つまり一年中寒い極寒の地で購入した服なため、いくら半袖とはいえ寒冷地使用なのだ。
…とはいえ一応、ヴァラックの服は耐寒耐熱加工されているものではあるのだ、覆われている部分はそこそこ遮熱されている服で、これ以上の耐熱の服があるのだろうかと疑問である。
「おすすめ?」
「「「『
「すぐ行こう」
「ヴァラックさん判断が…早い…!」
——イマチュイア曰く、街の装飾商店街には多くの加工屋があるようだ、闘技国には戦う人々が集まる為そのニーズに合わせて武装類を多く扱う店もあるのだとか。
「ヴァラックさん…大金貨…いやヴァラックさんに釣り合うモノなんて白金貨数枚は覚悟して…下さいよ?」
…他種族が在するこの世界において、いい服と言えばほとんどが「オーダーメイド」なのだ、普通の服と言えど大金貨数枚は当然という顔で値札が掛けられるのだ。
しかし、ヴァラックは「ククク…」っと大汗を掻きながら指を振るのだった。
「私の総資産白金貨200枚」
「「「「ぶふっっっ…!!!??」」」」
——ヴァラックは大金持ちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます