第3話 蝋の翼


 ——デルタとの闘いは激烈に加速していった。


「喰らえッ!!」

「甘いッわーーッ!!」


 デルタの攻撃はヴァラックに届かず、蹴りは腕のガードに威力を殺される…

 …だが反対に、ヴァラックの攻撃も…


殴打オウラーァッ!!」

「ごぼッ…〜ッアアアア!」


 ——手ごたえが…いやむしろ最初に比べても徐々にダメージの効きが悪くなっている…いや…


「っぐう!(ヴァ…ヴァラックさんの攻撃・・が…)」

「ふんっ!!(蹴り飛ばす…ッ!!)」

ガシッ!!

「!」


 まさか捕まれるとは思わず、静かに驚き瞳孔を僅かに小さくする、だが反対に奴—デルタはというと、あまり驚いた表情はない…むしろ何かを発見したような…。


「離…せッ!!」

「…!(『パワー・・・落ちてる・・・・』…ッ!)」


 …そう、ヴァラックの『急速な弱体化』だ…。明らかに一目で分かるほど速度が落ちてきているうえ、簡単に足刀を掴み取れてしまった。


「ふん…!!」

ふわっ!

 デルタは私の足首を握りおもむろに持ち上げた、もがく私をまるで棍棒のように持ち上げたのだ。


「くっ…(なんだ!?アイツの膂力が上がっ…いや!)」

「私が弱っていってるのかッ!」


 流石にここまでの力差が現れ始めては、否が応でも察さざるをえない…。


「ふっ…!」


 ヴァラックは掴まれていない方の脚を、伸ばして開脚し振り子のように遠心力をつけて数度の回転をした。これにより、デルタの手首は無理な方向に曲がってしまうため、デルタは堪らず足首の拘束を解いた。


「っ!(掴み続けるのは無理か…)」

「はぁ…ふー…ッ…」

「ッハァ…ハァ…ッ(…こんな事は初めてだ…ッ何故、何故力が急速に落ちた!?)」


だらり…と、気付けば、ヴァラックから大量に汗が滴る…その時ひとつの説が思い付いた。


「ハァッ…ッウ…(まさか…ッ)」

「(暖気にやられてる・・・・・・・・!?)」


 ——そう…ヴァラックは暑さに・・・尋常じゃなく弱い・・・・・・・・のだった…


「ハァ…ング…ハァ…ッ」


 ——デフォルトで川の生水を飲めるほど体内温度が高く細菌やバクテリアが活性化するのが困難なほどに…、その他にもいままで『暑さ』を異常なレベルで無意識下に『唾棄している・・・・・・』。

 …つまり、高すぎる体温が—


「…ッ運動能力を低下させてるのか…ッ」

(不味い…ッ呼吸がし辛くなってきた…ッ!暑過ぎて酸素を吸うのも辛い…ッ!)

「(何故か弱体化して…いる…。)」


「…ならば…攻めるなら今ーッ!!」


 崩れたペースを直すために、剣対策の防御の構え…上段…顔の横で構えるも、目は白み・・…呼吸は喉を震わせるような・・・・・・・・・…そんな呼吸音をしながら、吸い込む空気が暑過ぎて酸素を取り込む前に吐き出してしまっている。


「グ…ッ」


 …そんな様子を見たデルタは一瞬迷うも、ヴァラックの瞳の奥は静かに闘志の炎を揺らしていた…。

 ヴァラックの瞳を見たデルタはその闘志に、逆に圧倒されてしまいそうになる…そんな強い瞳を向けられたのだ、返さなければ無礼というもの…と、青龍刀をヴァラックに投げ捨て、突進を開始する。


ガキョンッ!

「ふー…ッ…ふー…ッおえ…ッ…」

(この一撃…で、決めるッ!)


 だが、またも顔を僅かにずらして刃先をマスク弾く、顔を戻した時にその瞳に映り込むデルタは、両腕をクロスしたままの前傾姿勢で向かってきたのであった。


「喰らえ…質量の恐ろしさッ…!『水害・モウ・ドウ・…」

「ふッふッふッー…『ヴラック・…」


 流石というべきか、ヴァラックはその突進を予知したように、迎え討とうと目論み…構えを僅かに変えた…。…その構えは大きく肋骨を開くように両腕を背面に伸ばす、デルタの前傾姿勢とは反対の背中を仰反るうえ、両腕を大きく開いた構えであった。


 そして今…衝突する。


犇流れフローディアン』!!」

「アント』!!!」


 2m越えパワータイプの2人がぶつかり合う衝撃は凄まじいの他なく、ヴァラックの両拳がアリ・・のように、コメカミに突き刺さる…それに対しデルタの突進は、ヴァラックの顎を正確に捉えていた。


「ゴバぉッ!?(僅かに…力負けした!?)」

「—ッうぉおおお!!」

(今!この時に…全てを出しきれ…ッ!)


 若干の拮抗ののちに、ヴァラックの両拳が"ズルリ"とでコメカミから滑り、ヴァラックを更に押し込む。


「ぐ…ッ!?(鼻血で拳が滑り落ちた!?)」

「おおおああああ!!(も…もう力がぁぁ…!)」

((負けるッ!!!))


 あまりの威力に、ヴァラックは拳を解除し、吹き飛ばされそうになるのを我慢するほかない…勝利・・は不可能だと悟り、この攻撃を防ぐことだけに注力した。

 互いが互いに限界ギリギリの一進一退の攻防戦…、デルタは押し切ろうと腰に力を入れる…、ヴァラックは押し切られまいと地面を削りながら耐える…。


「私は!!」

「!!」

「私は、アナタを倒せると…信じているッ!!」


 その咆哮を聴いたヴァラックは、目元を弛めた。

 ——この女がただのチンピラな筈がない…と…。


「バハァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 …私は更に力を振り絞った…、ここじゃない…『私が負けるのはここじゃない・・・・・・』…『アイツが勝つのはここじゃない・・・・・・』…、そんな直感を得たのだ。


空から墜とすか力で倒すか水牛デルタ!」

ムキ…ッ!

「ぐぅ!?(またパワーが戻ってきた…っ!?)」


 ヴァラックは目を剥きながらも、仰け反った上体を起こして、むしろ背を曲げた力を込めやすい体勢に持っていった。

 ズリ…ズリ…ッと、互いの汗で衝突部が僅かにズレてきて、最終的には肩と肩、手と手を組み胸を押し付け合いながら、額と眼力をぶつけ合う勝負へと変じてきた。


「ここでオマエデルタを…デルタオマエを挫いてやるッ!」

「なぁ!?」


 ヴァラックのあまりの膂力の変化に対応出来ずに、腰の入った「とっつかみ」が仰け反ってしまう。…一方ヴァラックは、そんなデルタを見つめながら思いに馳せる。


「オアアアアアア!!」

(—ここでコイツを屈せば…)

「アアアアアッバッハハーーーーッ!!!」


(次はもっと・・・・・強くなる…ッ!!)

 —私はな…知っているのだ。

 ——こうゆうヤツ・・・・・・は、折れば折れるほど強くなる・・・・…と。


「負けないッ!!」

「いいやここは私に譲ってもらう!!」

バッ!!!


 デルタの何度目かわからない咆哮に、ヴァラックが答える…、互いが互いの言葉に反発するように同時に取っ組み合いををやめ、半歩下がり拳を構える。…しかし、2人の目には同じ闘志の炎が揺らめく。


「『牛の頭突き・モウ・ドウ!!」

「『ヴラック・…!!」


 二人は鏡合わせのように顔の横に構えた拳を叫ぶように技の名前を言いながら…拳がクロスする。


犇群カウ・ボーイ』!!!」

「コング』!!!」


「ぐうッ!!」

「!(…当たったッ…!!)」


 デルタの拳が先に触れる…、ヴァラックは目を剝きマスクの下から流血した、それと同時にデルタに拳が到着したのだった。


「ガ……ぁッ…!!」


 ヴァラックを捉えていたデルタの拳がずり落ちるのと同時に、デルタは地面に撃沈するのだ。


「フーーーーーーー……」


 デルタが気を失うのと同時に、ヴァラックはデルタにあてた拳を、残身…そして構えを戻す…、その目は真っすぐデルタと相撃った空間を見つめていた。

 —構えを解き、いつものように深く息を吐く…しかしその息は『重くなく』、むしろその吐息は『軽く清々しい』ものであった、ヴァラックはひどく満足した様子で真っ直ぐにデルタへ近づく。


「…」


「お前がのは、わかった…。」


 ヴァラックはポケットを漁りながら、デルタを回復させようとを取り出したのだが、それを見たチンピラ3人組はそれをみて驚いた。


「なッ!?」

「ヴ、ヴァラックさんそんな高価なモノ・・・・・*…!」

「コイツになら…別に痛くない」

きゅぽっ!


 …三人組が驚いた理由はその「ポーション*」であった…。



☆ポーション


 —回復系ポーションの種類品質は主に3種類。


〇水色のポーションは、擦り傷に打撲や骨折程度に効く

水色のポーションロー・ポーション

〇緑色のポーションは、欠損レベルの傷も部位・・さえ残っていれば治り…、単純な構造の内臓なら治せる

緑色のポーションミディアム・ポーション

〇赤色のポーションは、生きていて全身の4割強の欠損までなら完全回復が出来る…

赤色のポーションハイ・ポーション


 それぞれ上から、水色のポーション銀貨7枚…緑色のポーション金貨5枚…そして赤色のポーション金貨25枚と大変高価である。

 この世界の農民の平均月収が「金貨12枚」であると考えると、月の家に引く水栓代※水道代のようなものが銀貨5枚…、そう…最低レベルのポーションですら水栓代を超す値段…中位のポーションなどそうそう帰るものではないのだ…。


——


「私はコイツ…デルタに敬意を持つ」


ちょろちょろちょろ…


 3人組の静止を振り切り高価なポーションをデルタに振りかけたのだ…、ポーションは打撲などの外傷には振りかけて使うのだ。


「…ぅう…」

「あ!姉御の意識が戻った!」

「ようシスター、大丈夫か?」


 デルタが目を覚ましながら上体を起こす…、3人組は高価なポーションを使ったヴァラックに懐疑的な3人組をよそに、デルタはヴァラックの視線を向けるために顔を上げる。


ちょろろ…

「ヴァラぼぼぼ…」

「ヴァラックさん!!姉御が溺れてる!?」

「ストップ!ストップッ!!!」


 ヴァラックは「あぁ!」とわざとらしくおどけると、ポーションを顔面から外してポーションを渡すのだが、3人組の慌てる姿に’’ヘラッ’’とふざけて見せる。


「ごふッ…ごふ…ヴァラックさん…」

「お前がいい奴なのは分かった。」


 「よいしょ…」と地べたにヴァラックは尻を着ける、デルタは咳払いをして目の前に座るヴァラックに視線を合わせる。

 …拳を除き、初めてまともに交差するヴァラックとデルタの視線に、3人組は少し緊張感を空気に漂わせながら軽く身構える…。


「よし…話し合うか」

にや…


 ——ヴァラックの体に付着していた血を手で拭い、’’ピッ!’’っと血振るいをする、慣れない高揚感に若干戸惑うも…この高揚感に身を任せながら目の前の相手デルタに会話を持ちかける。


「…急…です…ね」

「何事も、すべて唐突に起こるもんだぜ?」


 …ケラケラ笑うヴァラックは、間違いなくルアンの街にこもっていた時より楽しそうに笑うのだ、デルタや3人組を置いて一人で楽しそうに笑う…。


——


○場面は大きく変わり…~ルアンの街~


ジューー…じゅわっ!

「よ…っと」

「…ヴァラックは楽しくやってる…かな」


 いつもの家でヴァラックを思う大男…ガルンは、鼻唄交じりに今日もフライパンを振るう。その顔には僅かな哀愁と、確かな『嬉しさ』に溢れていた。

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