ツイン・シスター ~異世界、公爵双子姉妹はのほほん令嬢生活~

滝川 海老郎

第1話 旅立ち

 アルテイシア暦一二五四年。


「エリシア、ルーナ」

「はい、お父様」

「なんでしょう。お父様」


 私と妹のルーナが揃ってお父様へ返事をしました。

 イケオジの父親ですが最近、顔色は悪く、疲れが溜まっているようでした。

 私エリシアとルーナは双子の姉妹。今年八歳になります。


「来週から数年間、アルバディリア王国へ行ってもらう」

「それって旅行とかではないのですよね?」

「もちろん違う。留学でもないが……まあ、なんだ、視察だとでも思っておけ」

「はい」


 むむむと唸って考えているルーナはなんだか、かわいらしい。

 私も困惑していましたが、アルバディリア王国といえば森の国といわれる森林地帯で有名なわりと裕福な国でした。

 ここサーシリア王国の西隣で、仲はそれほど悪くはありません。


「わかりました」

「エリちゃん、いいの?」

「はい。どうせ、ここにいても暇ですしね」

「本は、全部読んじゃったんだっけ」

「そうですね。書斎のは、それからお母様の本棚も」

「エリシア、そんなに読んだのか」

「ええ、まあ」

「ごほん。とにかく、行ってこい。勉強にはなる」

「了解いたしましたわ」

「ルーナもわかりました。行ってまいります、お父様」


 ということで私とルーナはしばらく国を後にすることになりました。

 ちなみに書斎の本棚は誰が読んでもいい本だけ収蔵されていて、ほかの本はお父様の個室にあるようです。


 ところで、私は転生者でした。

 生まれは地球。ビルに学校に車にバス。

 女子高生だったのは記憶にありますが、その後どうなったのか覚えていません。

 きっと、なにかショックなことがあって死んでしまったのでしょう。

 ルーナは普通だし、前世で妹がいたり双子だった記憶もありません。


 準備期間はあっという間に過ぎ、出発の日になりました。

 ルーナもまだ幼いわりには聡明で、しっかり準備をしたようでした。


「それでは、いってまいります」

「さようなら、お父様。ばいばい、パパ」


 ルーナが父親、パオロ・ディタンジェン公爵に抱き着きます。

 私も代わってもらい、父親と抱擁を交わしました。

 お母様は横で泣いており、メイドたちが慰めていました。


 馬車に私たち二人、それからメイドのセリナが乗り込みます。


「出してくださいな」

「はいよぉ」


 御者のおじさんに挨拶をして、出発します。


 目の前にはセリナが、隣にはルーナが座っていました。

 対面式で四人乗りの馬車です。

 もう一つの座席には荷物が置かれています。

 ルーナを見ると、目が合いました。


 見事な銀髪に真っ赤な目。

 血のように赤い、綺麗な光彩。

 私も同じ色をしています。

 銀髪はさらさらで長く伸ばしており、少しウェーブしていました。

 私は前髪がおかっぱカットなのに対して、ルーナは真ん中分けとなっています。


「ビーフジャーキー」

「あら、もうですか?」

「はい、くださいな」

「しょうがないですねぇ、エリシアお嬢様は」


 ビーフジャーキーは、もちろんこの大陸の言葉では異なり「牛肉の干し肉」のことだけれど、心の中ではそう呼んでいます。

 そう言いつつセリナはバスケットからビーフジャーキーの袋を出して渡してくれます。

 もぐもぐと食べました。

 塩辛いのと肉のうまみ。

 ディタンジェン公爵領は小麦だけでなく畜産も盛んです。

 この牛肉は厳選された赤身肉で、とてもおいしいのです。


「お姉ちゃん、わたしも」

「はいはい、はい、あーん」

「あーん」


 妹ルーナにも口に入れてあげて、もぐもぐと食べます。

 ほっぺが動いて子リスみたいでかわいいのです。


 私たち姉妹はとても仲がいいです。

 あまり喧嘩もしないし、なんというか馬が合います。

 だから、お互いを好き合っていました。


「おいち! お姉ちゃんありがとう」

「うんうん」


 ビーフジャーキーをしまって、周りの景色を楽しみます。

 馬車は田舎道をコトコトと進んでいきます。


 かなり進んで途中、湖の畔で休憩をしました。


「さあさあ、お嬢様たち、ここでお昼ですよ」

「やった」


 時間も経てばお腹もすきます。

 今日も春の陽気でいい天気です。


 シートを広げ、その上に四人で座ります。

 御者のおじさんと思っていたけど、よく見れば騎士様でした。


「さあ、エルリック殿も」

「かたじけない」


 腰には剣を差しており、中年ではあるものの、ベテランの風格でした。

 農家の御者さんたちとはだいぶ違います。

 よくよく見れば、この人も父親にも負けないくらいのイケオジでした。


 みんなでサンドイッチを広げます。

 ふわふわ白パンに、レタスと薄切りのチキン、トマトも薄切り、そしてチーズにマヨネーズ。

 転生者である私は食にうるさく、マヨネーズもサンドイッチも私が提案したものでした。


「ふふん、おいしいね、お姉ちゃん」

「うん、ほら。マヨネーズついてる」

「ありがと」


 ルーナのほっぺについていたマヨネーズをティッシュで取ってあげると、お礼を言われました。

 メイドのセリナも微笑ましそうに、こちらを見ていました。


「この、サンドイッチとかいうものも、なかなかおいしいですね」

「でしょ、エルリックさん」

「はい。なんでもエリシアお嬢様が考えたとか」

「そんなんじゃないわ。お母さまの本棚にあった料理本を参考にしましたのよ」

「そうでしたか」


 そういうことにしておいてあります。

 転生者なのは秘密です。

 この世界にも宗教があります。アディリック教という世界宗教で、この大陸の西側ではほとんどの国が国教としています。

 アディリック教では、死んでしまうと天に召されて、天国で過ごすとされているので、転生というのは一種の異端とみなされる可能性がありました。

 過去に転生者だという話も聞いたことがありませんが、東の国々では違う宗教があり、そちらでは輪廻転生という概念が普及しているらしいのです。

 ちらっと歴史書に書いてあったけれど、あまりよくは書かれていなかったので、こちらではそういうことなのだろうと思われます。


「ごちそうさまでした」


 みんなで挨拶をして再び馬車に乗りました。


 隣国までは馬車で飛ばして三日ほど。旅はまだ続きます。


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