第3話 防波堤
フェリーが、離島へ着いた。港をでてからたったの34分。
あっという間の船旅。
甲板へ出てゆくと、防波堤の船着き場に、10人ほどフェリーを待つ人が並んでいた。
60代か70代の女性の二人組は、日傘をさしてなにかチラシを手に持っている。
プリントされているのは誰だろう、若い男性の演歌歌手のようだ。
きっと自宅のテレビでこの歌手をみて、ファンになっていたのだろうか。
楽しそうに笑っている彼女たちを見て、可愛いな、と思った。
彼女たちの後ろにいる、サングラスをかけた男性は、明らかに釣り人のいでたち。
クーラーボックスの口を開けて、なかの魚を覗いている。
すれ違いざまにちらりとみると、大きな黒い魚が何匹も入っていた。
「大っきいなぁ、これは何ですか?」
誰かが釣り人に尋ねた。自慢気な釣り人。
「メジナだよ。うまいよぉ」
へぇ、メジナか。白身だったっけ。
お刺身にするとぷりぷりしておいしかったと思う。
離島へ、フェリーに乗って釣りをしに来る人。
このフェリーは昼の便。夕にもう一便あるのだから
きっとこの釣り人は、昨夜ここへ来て、一泊して夜釣りを愉しんだに違いない。
夜の海は怖くないのかな。明け方の海はきれいだろう。
コンクリートの防波堤から海を見下ろすと、
コバルトブルーとターコイズブルーの世界。
これは、切り取って持ち帰りたい色。でも、決して切り取れない色。
手に取ろうとしても届かないのは、いつだって、海の青と空の青。
小さな魚の群れが、くるくると円を描きながら泳いでいる。
防波堤に沿うように沈められた、鉄のような黒い檻。
あれ、よくみえないけど、多分、サザエが入っているんだな。
サザエ、アワビ、伊勢海老、それからそれから。
ああ、どれか、食べたいな。
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