CHAPTER Ⅵ:天上層〈オルハ編〉

第31話:「遡行(Elevate)」

地下最下層から塔を垂直に貫く、一本のエレベーターシャフト。


ゴウン、ゴウン――低く響く駆動音だけが、無機質に時間を刻んでいた。

それは心臓の鼓動よりも遅く、だが確実に頂上へ近づいていく音だった。


なぜ、素直にエレベーターに乗ることを選んだのだろう?

側壁を破壊することも、地下から地上へ抜けるトンネルを掘ることもできたはずだ。


(……あるいは、そう考えるたびに干渉を受けていた?)


頭上を回転しながら浮遊する光輪型デバイス、ロジエル。

おしゃべりで皮肉屋だったその声は、今はもうほとんど聞こえない。


「ねえ、ロジエル……」

呼びかけてみる。


《……はい。なんでしょう、トーカ》


返ってきた声は、かつての軽やかさを欠いていた。

ただの案内装置のように、無機質で淡々としている。


(私の考えていることも、お見通しなんでしょ?)

心の中で唱えるが、ロジエルは沈黙したままだ。


《まもなく屋上エリアに到着します》

《あなたの旅は……もうすぐ終わる》


労いなのか、別れの言葉なのか。

それすらも判別できないほど、声は遠かった。


やがて、エレベーターの動作が緩やかに停止する。

扉が開き、外界の光が視界を白く満たした。

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