DOLL

球根

第1話プロローグ


 突然だが、私は死んでいる。


 幽霊というわけではない。

 生前、ホラーやオカルトの類は好きではなかったし、幽霊の存在は信じていなかったし、私自身、現に「幽霊なんかではない」と自覚しているのだから、どうも、説明に困る。

 なんと言えばいいのだろう。


 でも死んだのだ。


 初めて死んだ。

 死んだのは生まれて初めて、と言ってもいい。いや、どっちも同じか。


 今、私は死体である。

 焼かれては、まだない。

 つまり、ピチピチホヤホヤの死体。

 ちなみに、ドライアイスで冷たくなってるはずだ。不思議と寒さは感じない。重たくもない。


 ……これ、どーなんの?


 私は、単純に疑問に思う。

 これから、通夜が終わり、葬式が終わり、そうなると火葬されるはずだ。

 焼かれたら、熱い、のか。痛い、のか。いやでもドライアイス乗せられても寒さは感じないし、痛覚も死んでいるから、大丈夫なはずだ。

 その後、私の意識はどうなるの?

 幽霊となって存在し続けるのか、それとも肉体と共に消えるのか。


 正直に言って、私はどうでもいい。


 よし。


 今日は、私、愛沢みりやの通夜だ。


 私はアイドルグループ「doll❤︎愛」のメンバーで、結構人気はあった方だと思う。メンバーは五人。もちろん、センターを張っていて、一度私の推しになったら、推し変するオタクは少なかったと思う。そのくらい、まあ私には魅力はあったってことだ。というか、超超超負けず嫌いで、歌もダンスも、表情管理もメチャクチャ頑張ってたもんね。


 生前の私、えらいえらい。


 まあ、顔も可愛いし?

 メイクしたら、だけどね。

 メイク、ヘアセット、二時間かけてましたから。

 ちなみに、この死化粧、ざっと十五分くらいでやられた。解せない。解せない。涙袋命なのに、描いてくれなかった。

 死体だから基本的には目、ずっと瞑ってるし、一重の目も最近整形したばかりで二重だから、アイプチもバレないし、これで十分っちゃあ十分か。死人だから全て仕方ないこと。我慢。我慢。


 ちなみにまだ若い私がなんで死んだか、というと、

 自殺?

 事故?

 なんて思うんじゃないかと思う。


 違う。突然死んだのだ。

 何の苦しみもなかった。

 「眠るように」という表現が当てはまる。


 死んだ瞬間は自分でもわからなかった。

 「気づけば」死んでいたのだ。


 愛沢みりや。

 愛沢みりや。

 愛沢みりや。


 ああ、可愛い名前。

 可愛い顔。

 完璧なスタイル。

 

 私は、今、完璧な死体となったのだ。

 

 今日は、私、愛沢みりやの、通夜。

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