甘い匂いに誘われて

Nemo

ある少年の記憶

 クラスメイトのAが三日前から行方不明になった。


 先生によると、最近この町からいなくなる人が増えているらしい。


 まさか人身売買とかじゃないよな?


 そのせいでどの部活動も中止。つまんないったらない。


 授業が終わり、いつもより早めに下校。


 友人と別れて家までの長い道を歩く。


 ふわり。


 どこからか甘い匂いが。


 スンスンと鼻を鳴らし、匂いの元を探る。


 匂いが濃くなるにつれ、頭がぼわーんとしてきた。


 どれだけ歩いただろう。


 気がつけば霧が漂う森の中にいた。


 森?この町に?


 と、足下がくらりとバランスを崩す。


 その拍子に、ツルリとマンホールほどもある穴へと落ちた。


 視界が悪く、まったくわからなかった。


 ボチャン!と派手な音を立てる。


 ヌメリとした甘ったるい液体を全身で浴びた。


 匂いの元はここだったのだ。


 慌てて抜け出そうとするが、穴の中はどこもツルツルとして登れない。


 まるで。


 そう、まるでウツボカズラの中だ。


 ゾワリ。


 背筋が震え、嫌な想像をしてしまう。


 今自分がいるのは、巨大な食虫植物の中なのでは?


 ありえない!


 そもそもウツボカズラの袋は地面に埋まったりしない。


 こんな場所に生えるはずもない。


 ならこれは何だ。


 もがいても、もがいても、掴める場所がなければ上には行けない。


 全身がヒリヒリする。


 服に穴が。


 ダメだ。


 意識が……。

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甘い匂いに誘われて Nemo @s54Gz0

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