ラバゼド教

まーしー

ラバゼド教

虚言壁の奴っているよな?

ああ、俺は別にそうじゃない。

だけど世の中には意味のない嘘をつく奴ってのが少なからずいるわけだ。

明らかに嘘って分かるのにさ。指摘すると別のウソをついて。

見てて恥ずかしくなるよ。

嘘ってのは結局、自分に返ってくるもんなんだよ。

くわばらくわばら。


■ ■ ■


ピロン

机の端に置いていた携帯電話が子気味の良い音を鳴らす。

手に取ると、知らない番号からのSMSが届いていた。

「誰だこれ?」

パスワードを入力しメッセージを開く。

『この番号、度会君の携帯であってますか?

 突然すみません、覚えてますでしょうか。

 中学の時同じクラスだった、市川です。』

市川、市川・・・

「あー、思い出した。市川さんだ」

クラスでも地味目な女の子で目立ってはいなかったし、交流もほとんどなかったのでさっきまで忘れていた。

成人式にも来ていなかったと思う。

『度会です。久しぶり。突然どうしたの?』

あまり何も考えず、返事をする。

連絡してきたという事は何らかの用事があるという事だ。

何年もあっていない、連絡も取っていない仲での用事。

純粋に興味があった。

『返事ありがとう。よかった。

 私今、〇〇市に住んでるんだけど、度会君はもう東京とかに行っちゃってるのかな?』

いまいち真意が読めない。

まあでも知らない仲ではない。暇だし、とりあえずこのメッセージのラリーを続けてみよう。

『俺は△△市だよ。結局地元から出られないんだよね』

個人情報とは言えないレベルで探りを入れる。

返事はすぐ帰って来た。

『ほんと?よかった~!

 今度会えるかな?△△のカフェあるでしょ?そこで』

なぬ?

突然のカフェのお誘い。

地味目とは言え、決して不細工では無かった女子からのお誘い。

いや、思い返すと結構かわいかったかもしれない。

そんな女子からのお誘い。

これは・・・これは・・・春が来たか・・・?


まてまて、落ち着け。分かっている。

これはあれだ。ネットで見た。勧誘だ。

宗教、ないしマルチの勧誘だこれ。


薄暗い部屋をうっすらと照らすパソコンに手を伸ばし、勧誘の手口を調べる。

出るわ出るわ。

久しぶりの同級生からの連絡。すぐに直接会いたがる。

7割マルチ、3割宗教。


決して期待していた訳ではない。

しかし何だろう。

好きでもないのに、向こうに何かされた訳でもないのに振られた気分だ。

なんだか腹が立ってきて。

ネットでさらに手口を調べる。

なるほど、喫茶店等に呼び出し、複数人で取り囲む。

都合の良い返事を貰えるまで軟禁状態にしてしまう、か。

いいだろう、こちとら暇を持て余しているパートタイマーだ。

この苛立ちはその大元に返すに限る。


『あー、あそこね。家から近いからいいよ。

 いつにする?日付は近い方がいいな』

素早く携帯に打ち込み送信すると、返事はすぐに来た。

『明日の昼過ぎとか、どうかな?』


少し早いが準備は今からでも十分に間に合う。

『OK、じゃあ明日の13:00にカフェで』

短くそう送信すると、俺はパソコンに向き合い、台本を組み立てた。


「見てろよ、暇人を騙そうとするとこうなるって、しっかりと叩きこんでやる!!」


 ■ ■ ■


集合時間10分前


少しばかり早い時間についてしまった。

指定のカフェの前で携帯を眺めていたら、急に声をかけられた。

「度会君、かな?髪型変わってて最初違う人かと思っちゃった」

声の方を向くと、一人の女性。

白いワンピースに長い黒髪。顔は、めちゃくちゃかわいかった。

「もしかして・・・市川さん?」

「そう、私、昔から結構変わったでしょ?」

めちゃくちゃ変わった。もはや地味目の女の子という印象は無い。

決して派手ではないが、何処に出しても恥ずかしくない美女だった。

「うん、正直驚いた・・・声かけてもらってよかったよ。こっちからは気づけなかった」

さておき

彼女は一人だった。

てっきり複数人で来るのかと思っていたが、どうやらそうではない様だ。

「それにしてもあっついね~、度会君汗すごい、これ使って」

彼女はハンカチを手渡してきた。ピンクの可愛らしいハンカチだ。

申し訳ないと断ったが、いいっていいって、と押し切られ、受け取る。

「汗吹いたハンカチなんてとても返せないよ・・・洗ったってイメージ悪いでしょ?」

「ううん、大丈夫。あ、度会君もう少しで誕生日でしょ?

 今あんまりお金なくて何も渡せないけど、そのハンカチ、あげるよ」

「え?」

誕生日を知られていたことにも驚いたが、女の子からハンカチを送られるというイベントが意外過ぎてきょどってしまう。

「なんか申し訳ないな・・・市川さん誕生日は?」

「私の誕生日はもう終わったよ~、あ、気にしないでね、高いハンカチじゃないから、逆にこんなのでごめんね」

謝られてしまった。なんなんだこの空間は。

「じ、じゃあ入ろうか」

気恥ずかしさを隠せないまま、カフェの扉を開けて中に入る。

ボックス席に案内されるまま、向かい合う形で座る。

「アイスコーヒーと、市川さんは何にする?」

「あ、私もアイスコーヒーで」

ウェイターに注文を通し、市川さんの顔を見ると、向こうもこちらを見ていた。

自然目が合う。

「ごめんね、急に呼んじゃって。お話したい事があって」

「あー、別に用事なかったからね。気にしないで。

 で、話って何かな?」

頭のどこかで考えてた、「ワンチャンあんじゃね?」は、既に消えている。

なにせこんな美人が俺を相手にいい感じな話を持ってくるはずがないからだ。

「うん、じゃあ早速。度会君って、今幸せ?」

ほらきた、早速来たぞ。

しかもこのパターンは宗教だ。3割、レアパターンを引いたぞ。

「幸せって・・・どういう事?」

「言葉通りの意味。毎日楽しいかなって」

テンプレ来た、脳内を素早く宗教モードに切り替える。

「あー、うん、最近はね、結構楽しいし、幸せだよ」

「ほんと?何かいいことあったんだ」

くくく、俺の先制攻撃でスキを与えない、これが今回の作戦だ。

行くぞ!

「うん、拠り所っていうのかな?漠然とした不安が、もうなくなったっていうかさ」

「へえ、すごい、何かしたの?」

「ラバゼド教っていうさ、宗教に入信したんだよ」

これが俺の攻撃、宗教勧誘される前にこっちから架空の宗教を勧誘する作戦だ。

逆に勧誘される立場になったらおとなしく立ち去るだろう。

彼女のほうを見やると、驚いた顔で呟いた。

「ラバゼド・・・教?」

「そうなんだよ、ラバゼド神に由来する比較的新しい宗教でさ、

 それのおかげで俺もう毎日が楽しくって楽しくって」

ちらりと彼女の顔を見やる。

怪訝な顔を想定していたが、どうにも反応が違う。

宗教勧誘をやっているだけあって、逆にこういう話はなれているのだろうか?

「そうなんだ!それはいい事だね。どんな宗教なの?」

興味を持ってきたか、だが問題ない。こちとら勧誘文句まで考えてきているのだ。

ある程度詳細は詰めてきている。

「んー、簡単に言うと。

 既存の多くの宗教は、死後の世界や来世といった、死んだ後に重きを置いているでしょ?

 天国に行くために、来世に良い暮らしをするために今を我慢し、良い行いをする。

 ラバゼド教はそうじゃないんだ。

 死後の世界や来世は存在しない。だから今を楽しく生きようっていう、そういう教えなんだよ。

 ラバゼドではこの考えを『ユイテ』って言うんだ」

昨日適当に考えた内容を、さもそれっぽく語る。

「でもそれだと、自分勝手になっちゃうんじゃない?

 みんながみんな自分勝手だと、どこかにシワ寄せが来ちゃうんじゃないかな?」

おや、意外と興味を持ってきたか。

なるほど、少しばかり想定外だが、問題ない。

「ユイテは自分勝手にしろって教えじゃないんだ。

 今を楽しく生きようというのは自分だけの話じゃなく、『バーリ』全体のってことで。

 あ、バーリっていうのはラバゼドの信者の事ね。

 本当にざっくり言うと、バーリ皆で幸せになるための互助組織って感じかな?

 だからと言って他の宗教の信者を蔑ろにしたりとか、犯罪に手を染める様な事は無いよ」

自分でも驚いたが、スラスラと喉の奥から言葉が出る。詐欺師の才能を感じる。

「バーリの為に汗を流す。他のバーリも、自分の為に汗を流す。

 結果、皆が家族のようになり、同じ目的を持った仲間となる。

 だから今を頑張れる、今が楽しくなるんだ」

なんだかラグビーの「ワンフォアオール」みたいな話になってしまったが、まあ上出来だろう。

「すごい!確かにそうだね。同じ考えの人達が争わずに助け合う、とっても素敵」

おやおや、どうにも嘘がうますぎたか、とても好感触だ。

「でもすごい良い教えの宗教なのに、あんまり有名じゃないよね?ラバゼド教」

む、これも想定外の質問だ。

予定ではもはやドン引きされていて、「あ、興味ないか、じゃーねー」と帰る段階だ。

我ながら立派な宗教を立ち上げすぎたか。

万が一本当に興味を持って入信希望となっても困る。

少しばかりダークな面を追加し、引き下がってもらおう。

「んー、実はラバゼド教だけど、ちょっと暗い一面もあってね。

 あんまり大きな声では言えないんだけど」

彼女は首を縦にうんうんと振っている。

「実はね。バーリの数はそんなに多くないんだ。

 というのも、ラバゼド教は何年かに一回、とある儀式を行うんだ。

 その儀式ではバーリの中から一人選ばれて、ラバゼド様に捧げられる。

 つまり、人身御供があるんだよ」

「それって・・・生贄ってこと・・・?」

「そうそう、『マバラヤ』っていうんだけどね。

 バーリの中で一番若い人がそれに選ばれるんだ。

 そして、選ばれたバーリにはラバゼド神の象徴であるスミレが手渡されるとか」

なんとなく知っていた白いスミレの花言葉の「死」からいろいろとでっちあげてしまった。

なんというか本当に自分の才能が恐ろしい。

「そっか」

彼女は短くつぶやいた後、こちらの顔を見てほほ笑んだ。

あ、やっぱりかわいい。

「そこまで知ってるんなら、間違いないよね?」

おや、ちょっと反応が想像を超えるどころか意味が分からないぞ。

「驚いた、度会君"も"バーリだったんだね。

 『メイヤ』も『マートナ』もそんな事言って無かったから」

ん?ん?何が起きている?

「本当によかった。

 こんな中でバーリになったってことは、そうだよね。

 私ね、不安で不安でしょうがなかったんだ。覚悟が無かったんだよ。

 でも、度会君はバーリだった。覚悟の上でバーリになった。私ほんと空回りしちゃったよ。

 試す様な事してごめんね。

 ラバゼトって厳格だから、興味本位とかだといけないと思って」

ちょっとまて、彼女にからかわれているのか?

目元に涙まで浮かべているが、訳が分からない。

「私がバーリの中で一番若かったから。このままだとマバラヤになっちゃうからさ・・・」

(私の誕生日はもう終わったよ~)

彼女の言葉が頭の中でリフレインする。

つまり、俺は彼女より”若い”事になる。

「来月はもう九年に一度の『テールグスフ』の儀式でしょ?

 『ごめんね』、って言わなくていいのが、ほんとにうれしい。

 私、度会君に入信してもらって、マバラヤを押し付けるつもりだったの。ひどい女だよね」

訳が分からない。

からかっている感じではない。

彼女はまるで、まるで本当にラバゼド教の信者であるかのように。


「私ね、ラバゼド教に入って本当に良かったと思うの」


冷房の効いているカフェなのに汗が頬をつたう。

手に持っていたハンカチで汗をぬぐうが、つい落としてしまう。

机の上で広がったハンカチの隅には、白いスミレのモチーフが縫われていた。

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