楽しいおじいちゃん

トシキ障害者文人

第1話 楽しいおじいちゃん

僕が、あるデパートに、バスに乗って、買い物に行った帰りのバス停で待っていると、向こうから首にタオルを巻いて、帽子を被り、リュクサックを手に持ったニコニコ笑顔のおじいちゃんがやってきた。季節は夏。夕暮れ時。おじいちゃんは僕に話しかける。

「いや~。あついのう~。なに、あんちゃんよ。俺はな。毎日、ここにきてんだ。」

「えー。毎日ですか。おじいさん金持ち。何買うの?ご飯の材料かい。」

「いや、違うのよ。毎日ここにきて、冷房で涼んでいるんだよ。」

「えー。うまいね。冷房の節約に、なおかつ、店内の品物を見て楽しんで、若者を見て楽しんで。」

「そうだんべ。美味しいんだよ。うまく頭を使って、生きるのだよ。」

「それで、おじいちゃんは、何も買わないのかい?」

「いや~。今日は、焼き肉のたれだ。家族でやるんだよ。」

「へぇー。力つけて、長生きだ。焼肉パーティー、楽しいね。」

そこへ、バスがやって来た。

「おじいちゃん、またね!」

僕は、帰途のバスに乗り込んだ。おじいちゃんは、違う行先だったのだ。

おじいちゃんは、楽しい雰囲気だった。


僕の好きなおじいさん作家に、五木寛之さんがいる。写真を見ると、目じりが下がり、ロマンスグレーで、柔らかい雰囲気の楽しいおじいちゃんである。五木さんの最新作を読んだ。いいこと書いてある。安心する。僕は、高校時代から、五木さんの本を愛読しているので、若いころの苦労は知っていた。


僕の住む施設の会長さんに、映画に誘われた。「お金は払えませんよ。」と僕が言うと、「いいんだよ。」と言う。柔らかい声音である。僕は行くことにする。チケットを渡される。見ると、『90歳。何がめでたい』とある。いい機会だ。

会長さんは、車で、僕を、乗せていくという。四国から娘夫婦がやって来るそうだ。「ぜひ、会いたいです。」と僕は言う。なんと、65歳から、ものすごく努力して、この施設を立ち上げた会長さん。僕の尊敬するお方だ。現在、息子さんに、施設経営を引き継ぎ、87歳の農業が趣味の楽しいおじいちゃんである。


本当に、功徳を積んだ人は、こんな感じの人になるのではないだろうか。誰でも話せる楽しいおじいちゃんである。55歳の僕には、まだ、先の話だけどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楽しいおじいちゃん トシキ障害者文人 @freeinlife

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画