第2話 異常な通知数

「はるのー!」


仕事帰り家桜家について、大声で遥乃の名前を呼びつつ急ぎ足で階段を上る。一応、おばさんに許可は貰っている。


「遥乃!」

「あ、悠斗くん」


大声をだして遥乃の部屋の扉を勢いよく開けると、布団を被っていた遥乃はガバッと起き上がり、パァーとした笑顔で俺の名前を呼んだ。


「どうしたの?昨日の今日で」


起き上がった遥乃は、俺の方へ四つん這いで近寄ってくる。


「昨日の今日も何も、これはなんだぁ!」


近くによってきた遥乃にアプリのLIMEアイコンの、通知件数を見せつける。


「わ、すごい件数。悠斗くん、通知こまめに見ないと」

「これは、今日1日分だ!」


アプリを開いて、登録している友達リストを見せる。1番上にある遥乃の名前の横に、456と表記されている。


「あ、その」


スマホの画面を見せつけられた遥乃は、明らかおどおどし始め俺から少しづつ離れていく。


「それに、昼休憩で1回見てるから、これよりさらに多いだろ」

「違くて」

「なにがだ」

「だってぇ」


俺の問いつめに涙目になっている遥乃が口を開く。


「なんか、悠斗くんが仕事に行ってるって思ったら、なんか私のことがちっぽけに思えて、すぐにでも捨てられちゃうんじゃって思ったら、止まんなくて」


言われて見ると確かに遥乃の送ってきた内容は、遥乃の言う捨てないで的なものが多い。


「それはわかったけど、この量はちょっと」

「だ、だって悠斗くん返信してくれないから。1回既読ついた時は、嬉しかったけど」


昼休憩の時、送られていたLIMEを確認して、既読をつけはした。なにか送ろうと思ったけど、タイミング悪く呼び出されてしまい、返信できなかったけど。


「ほんとなー、俺捨てるなら面と向かって言うから」

「てことは、今言いに来たってこと!?やだやだ!捨てないで!改善するから!まだ離れたくない!」


またか。


「まだ捨てないって」


まあ、大量の通知連絡はスマホが1秒に1回レベルで鳴ってたのもあって、先輩たちに心配されて言い訳が面倒だったけど。


「ほんと?」

「ほんとほんと。そんなことよりさ」


遥乃とのトーク画面の一番上を連打して、一番古い会話を遥乃に見せる。


「なんで、始動時間が11時代なんだ?」


俺が一番気になっていたのはここだった。昨日俺は、遥乃に生活リズムを取り戻すよう言ったはずだ。それなのに、トーク連打が11時代始動というのは、おかしいだろう。このめんどさだ、早起きしていれば始まる時間はもっと早いはずなんだ。そして、俺の予想を裏付けるように遥乃の目は泳いでいる。


「お前、昨日寝たの何時?」

「わかんないけど、多分4時ぐらい」

「ちゃんと寝ろ」


俺の言葉にまた捨てられると思ったのか、すぐにすがりついてくる。


「ごめんなさい!ごめんなさい!で、でも理由があるの」

「聞こうじゃないか」

「悠斗くんと会えたら、心がなんだかぽわぽわして、また会えると思ったら緊張して寝れなくって」

「小学生か」


確かに遥乃と付き合った日は、俺もそんな感じで緊張して上手く寝れなかったけど。


「じゃあなんで、それでこんな酷いLIMEが送られてくるんだよ」

「たぶん、起きた時の低いテンションが、マイナス思考を加速させちゃって。ああ、私ってほんとダメな女」


ため息をついた遥乃は、体育座りで横に倒れる。とても、めんどう多重人格なんか?てくらい、マイナス思考のテンションに差がある。


「思考回路が悪すぎるな」

「す、捨てないよね」

「だから、捨てないって。言いすぎると、捨てるかもだけど」

「わかった、言わない。言わないから」


良かった。とりあえずは大丈夫な、はず。とりあえずは、様子見ってとこかな。


「ところで遥乃、お前なんでそんなに思考がマイナスなんだよ」

「だって、悠斗くんが近くにいないんだもん」


近くにいないから、捨てられるんじゃって、思考に行き着くのか。今の遥乃に求められるというのは、こう嬉しいような、怖いようなものがある、嬉しいは嬉しいけど。


「今会いに来てくれるのも、十分嬉しいけど本当は、ずっとここで私と話してて欲しいし、最低でもLIMEには10個に1個は返して欲しいけど」


おもー。


「と、とりあえずそこを改善する努力をしよう」

「改善って?」

「許可が取れるなら、1週間だけ一緒に住もう」

「え!ほんと!」


俺の出した提案に遥乃は、少し暗くなっていた表情が一気に光を取り戻す。


「で、その間にお前の不健康な睡眠と、この迷惑な連投を辞めさせる」

「めい……」

「てことで、話をつけに行こう」

「う、うん。なんか、ごめんね」


少しの間ではあるけれど、一緒に住む計画を簡単に立てた俺たちは、1階へおばさんの許可をもらいに向かった。


「失礼します」

「三嶋くん、遥乃までどうしたの2人とも改まって」


リビングに入るとおばさんは、俺と遥乃の顔を見てか驚いた様子。しっかりと話すために、おばさんの前に座らせてもらい口を開く。


「唐突なのですが、1週間ほど遥乃さんを僕に預けることは可能ですか?」

「預けるって、一緒に住むってこと?」

「おおー話の早い」


良かった、昨日みたくこじれなくって。今回のは、しっかり言ってるから拗れ用はないけど。


「遥乃と?同居?」

「はい。遥乃さんの許可は貰っていて」


てか、遥乃いま成人してるんだったな。許可貰う必要なくね?なんなら、ニートだし。


「そうねぇ、なら三嶋くんがこっち来なさいよ」

「え、いいんですか?」

「いや、逆よ」


不安そうな顔をしていたおばさんが、不安そうな声で続ける。


「遥乃と同居していいの?まだ新生活で慣れてないでしょうし、それに遥乃よ?」

「あ、あ〜。それならー、お願いします」

「え、どういうこと?ねえ、悠斗くん、悠斗くん」


話を掴めていない遥乃が俺の肩を掴み、激しく揺する。そんなのはほとんど気にせず、話を進める。


「えっと、それじゃあいつから俺は、泊まればいいでしょうか」

「まあ、準備もあるでしょうから、明日からでどう?」

「了解しました。明日、仕事帰り来させていただきます」

「てか、なんで急に?」

「いやですね、おたくの娘さんが――」

「あ、まって悠斗くんまって!」


遥乃静止など聞かずにスマホを開いて件のトーク画面を、お母様にお見せする。


「うわぁ」


トーク画面を見せられたお母様は、黒いものを見るような苦い顔になり、遥乃の方を向いた。


「遥乃、ニートはまだいいけどこれは、ちょっと」

「ち、違うの。お母さん、ほんと待って理由があるの!」



「じゃあね、悠斗くん」


半泣きの遥乃が、玄関で俺に手を振る。俺がお母様にトークのことを話したところ、割と普通目に遥乃は怒られたため今は涙目だ。


「それじゃあ、明日。くるから、一応もう1回言うけどちゃんと寝ろよ」

「うん。わかってる」


これで寝てくれてれば、楽なんだけど難しそうだし、そこまでは追求しないでおこう。


「じゃ、また明日」


最後に同じことを言って、家桜家を後にした、空はもう真っ暗だしなにか食べて帰ろう。

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