異世界の魔王軍で、なぜか「備品管理」を任された僕。地味な仕事だと思っていたら、備品一つ一つが美女幹部たちの運命を左右していた

トムさんとナナ

異世界の魔王軍で、なぜか「備品管理」を任された僕。地味な仕事だと思っていたら、備品一つ一つが美女幹部たちの運命を左右していた

## 第一章 転生先は魔王軍の倉庫係


僕は目の前に山積みされた武器や防具、そして得体の知れない薬品の瓶を見て、呆然とした。これが今日から僕の仕事らしい。いや、ついさっきまで東京の小さな商社で在庫管理をしていたはずなのに、どうしてこんなことに……


僕、佐藤健太郎は、毎日残業続きでついに過労で倒れて病院に運ばれた。そして次に目が覚めたとき、なぜかここにいた。


「異世界転生」なんて、小説やアニメの中だけの話だと思っていたのに。


「おい、新入り!」


振り返ると、燃えるような赤い髪をポニーテールにまとめた美女が立っていた。黒い軍服に身を包み、腰には大きな剣を下げている。整った顔立ちだが、その表情は険しく、明らかに機嫌が悪そうだ。


「あ、はい!」


「私は魔王軍第三師団長のアカネ・クリムゾンだ。お前が新しい備品管理係か?」


「は、はい。佐藤健太郎です。よろしくお願いします」


赤髪のアカネは僕を値踏みするような視線で見回すと、鼻で笑った。


「なんだ、この頼りなさそうな男は。本当に備品管理なんてできるのか?」


「が、頑張ります!」


「まあいい。とりあえず、私の愛剣『紅蓮』の手入れ用品を用意しろ。明日の作戦で使うんだ」


そう言って、アカネは腰の剣を抜いて僕に見せた。確かに美しい剣だが、刃こぼれがひどく、柄の部分も傷だらけだ。


「えーっと、この剣の手入れ用品は...」


僕は慌てて倉庫の奥を探り始めた。前世で培った在庫管理スキルを活かして、武器手入れ用のオイルや研磨剤を探す。しかし、この倉庫は本当にぐちゃぐちゃで、どこに何があるのか全く分からない。段ボール箱が無造作に積み上げられ、武器や防具が雑然と置かれている。まるで台風が通り過ぎた後のような状態だ。


「おい、まだか?」


「すみません、もう少しお待ちを...あった!」


ようやく見つけた武器手入れセットを持って戻ると、赤髪をポニーテールにしたアカネの表情が少し和らいだ。


「ほう、意外とやるじゃないか」


「ただ、気になることがあるんですが...」


「何だ?」


「このオイル、使用期限が三年前に切れています。研磨剤も固まっちゃってますね」


アカネの顔が青くなった。


「なに?それじゃあ剣の手入れができないじゃないか!明日の作戦で使えなかったらどうするんだ!」


「大丈夫です。代替品を探してみますので」


僕は倉庫中を駆け回り、使える手入れ用品を集めた。期限内のオイル、まだ柔らかい研磨剤、それに布も新しいものを見つけた。探している間に、この倉庫がいかに管理されていなかったかがよく分かった。貴重な物品が床に転がっていたり、同じ商品が複数の場所にバラバラに保管されていたりしている。


「これでどうでしょうか」


「...」


アカネは黙って用品を受け取ると、その場で剣の手入れを始めた。古いオイルを丁寧に拭き取り、新しいオイルを塗り込む。その手つきは驚くほど繊細で、まるで愛する人でも撫でるかのような優しさがあった。刃を一筋一筋研磨していく姿は、戦闘時の荒々しさとは全く違って見えた。


「すごく綺麗になりましたね」


「当然だ。この剣は私の相棒なんだからな」


手入れを終えたアカネの表情は、先ほどとは全く違って穏やかだった。赤い髪が夕日に照らされて、本当に美しく見える。


「新入り...いや、佐藤だったか。ありがとう。助かった」


「いえいえ、これが僕の仕事ですから」


「そうか...」


アカネは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、剣を鞘に収めた。


「また何かあったら頼む。じゃあな」


そう言って立ち去ろうとしたアカネだったが、数歩歩いたところで振り返った。


「あ、そうそう。明日の作戦が成功したら、お礼をしないとな。何か欲しいものはあるか?」


「え?いえ、特には...」


「遠慮するな。何でも言ってみろ」


「それじゃあ...この倉庫の整理整頓をする許可をいただけませんか?」


アカネは目を丸くした。


「整理整頓?それがお前の願いか?」


「はい。みんなが必要なものをすぐに見つけられるようにしたいんです」


「...変わった奴だな。分かった、好きにしろ」


アカネが去った後、僕は改めて倉庫を見回した。確かにぐちゃぐちゃだが、よく見ると貴重な物品がたくさんある。高級な武器、希少な魔法道具、珍しい薬品類。これらを適切に管理すれば、きっと魔王軍の役に立てるはずだ。


「よし、頑張ろう」


その時、倉庫の入り口に影が差した。


「あの、すみません」


振り返ると、今度は美しい青い髪の女性が立っていた。白い法衣に身を包み、手には杖を持っている。その上品な佇まいから、魔法使いだということが分かる。


「はい、何かご用ですか?」


「申し遅れました。私、魔王軍の宮廷魔術師をしている月城瑠璃と申します。回復ポーションをお借りしたいのですが...」


「瑠璃さんですね。回復ポーション...」


僕は再び倉庫の奥を探し始めた。薬品棚を調べていくと、確かに回復ポーションがあった。しかし...


「すみません、瑠璃さん。このポーションたち、全部使用期限が切れています」


「え?」


青髪の瑠璃の顔が真っ青になった。


「そんな...明日の作戦で負傷者が出たときに使えないじゃないですか」


「大丈夫です。こちらをどうぞ」


僕は棚の奥から、まだ期限内のポーションを取り出した。実は在庫を調べているときに見つけていたのだ。期限内のものは少数だったが、緊急時には十分な量がある。


「あった!ありがとうございます、佐藤さん」


瑠璃はほっと安堵の表情を浮かべた。


「でも、どうして期限内のものがあると分かったんですか?」


「実は、さっきから倉庫の在庫を調べていたんです。期限や品質をチェックして、使えるものと使えないものを分類してました」


「そんなことを?」


「はい。これが僕の得意分野なので」


青い髪が美しい瑠璃は感心したような表情で僕を見つめた。


「すごいですね。今まで誰もそんなことをしてくれませんでした」


「そうなんですか?」


「ええ。前の備品管理係の人は、とりあえず物を置くだけで、管理らしいことは何もしていませんでした。おかげで、いつも必要なときに必要なものが見つからなくて困っていたんです。先月も、魔法の実験中に必要な試薬が見つからなくて、大変な目に遭いました」


「それは大変でしたね」


「本当に助かりました。あの、もしよろしければ、今度お菓子をお持ちしますね。お礼をしたいので」


瑠璃の頬が少し赤くなった。


「え、いえ、そんな大したことは...」


「いえいえ、遠慮しないでください。私、お菓子作りが得意なんです」


「お菓子作りが?」


「はい。魔法の研究で集中力が切れたときに、息抜きで作るんです。手作りクッキーなんていかがでしょうか?」


そう言って、瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は本当に綺麗で、青い髪が夕日に映えて、僕は少しドキドキしてしまった。


「それでは、また明日お会いしましょう」


「はい、お疲れ様でした」


瑠璃が去った後、僕は倉庫の片付けを始めた。まずは大まかな分類から。武器類、防具類、薬品類、雑貨類に分けて、それぞれの状態をチェックしていく。この作業は前世でも慣れ親しんだもので、自然と手が動く。


しかし、作業をしているうちに、この倉庫の問題の深刻さが分かってきた。期限切れの商品が大量にあるし、同じ商品が複数の場所に分散して保管されている。在庫数も全く把握されていない。これでは、必要なときに必要なものが見つからないのも当然だ。


「これは大変な作業になりそうだな」


でも、不思議とやる気が湧いてくる。アカネと瑠璃、二人とも本当に困っていたし、僕の仕事で彼女たちが助かるなら、頑張る甲斐がある。


## 第二章 地味な仕事の本当の価値


翌日、僕は朝早くから倉庫の整理整頓に取り掛かっていた。武器類、防具類、薬品類、それに雑貨類を分類し、使用期限や品質をチェックしながら配置していく。


「おお、もう始めてるのか」


振り返ると、赤い髪をポニーテールにしたアカネが立っていた。昨日とは打って変わって、機嫌が良さそうだ。


「おはようございます、アカネさん」


「おはよう。随分と片付いてるじゃないか」


「まだまだですが、少しずつ進めています」


アカネは倉庫を見回しながら感心したような表情を浮かべた。昨日のぐちゃぐちゃな状態と比べると、確実に整理されている。武器は武器でまとめられ、薬品は薬品でまとめられている。


「これだけ整理されてると、確かに探し物が見つけやすそうだな」


「そうです。それに、在庫の状況も一目で分かるようになります」


「在庫の状況?」


「はい。たとえば、こちらの武器用オイルですが、残り三本しかありません。このペースだとあと三週間でなくなりますので、近いうちに補充が必要ですね」


「そうか...今まで在庫管理なんて全然できてなかったからな」


赤髪のアカネは少し申し訳なさそうに頭を下げた。


「いえいえ、みなさん戦闘で忙しいですから。これは僕の仕事です」


「佐藤...」


「あ、そうそう。昨日お渡しした剣の手入れセット、調子はいかがでしたか?」


「ああ、完璧だった。おかげで作戦も大成功だったぞ」


アカネは嬉しそうに笑った。その笑顔は昨日の険しい表情とは全く違って、とても魅力的だった。


「それは良かったです」


「本当にありがとう。約束通り、お礼をしないとな」


「いえいえ、お気持ちだけで十分です」


「そうはいかない。何かリクエストはないか?」


僕は少し考えてから答えた。


「それでしたら、倉庫の備品購入リストを作らせていただけませんか?不足している物品を補充したいんです」


「購入リスト?」


「はい。現在の在庫状況を調べて、必要な物品をリストアップしたいんです。期限切れのものを新しいものに交換したり、不足しているものを補充したりしたいんです」


アカネは驚いたような表情を浮かべた。


「お前って、本当に変わってるな。普通なら金や宝石を欲しがるところだろうに」


「僕は、みなさんの役に立てることが一番嬉しいんです」


「そうか...」


アカネは僕を見つめながら、何かを考えているようだった。赤い髪が朝日に照らされて美しく輝いている。


「分かった。購入許可を出そう。予算の範囲内で、好きに買い物してくれ」


「ありがとうございます!」


その時、倉庫の入り口から声がした。


「おはようございます」


青い髪の瑠璃が手作りクッキーの入った箱を持って現れた。


「瑠璃さん、おはようございます」


「昨日はありがとうございました。約束通り、クッキーを焼いてきました」


「ありがとうございます。でも、そんなお気遣いしていただかなくても...」


「いえいえ、私の趣味でもありますから」


青髪の瑠璃はにっこりと微笑んだ。アカネはその様子を見て、まるで僕との約束を邪魔されたとでも言いたげな不満そうな顔をした。


「あ、アカネさんもいらっしゃったんですね」


「ああ、ちょっと用事があってな」


「よろしければ、アカネさんもクッキーをどうぞ」


「いや、私は甘いものは...」


「美味しいですよ」


僕がクッキーを一口食べると、本当に美味しかった。甘さ控えめで、上品な味がする。バターの香りが口の中に広がって、とても上質な仕上がりだ。


「わあ、本当に美味しいです!」


「ありがとうございます」


瑠璃は嬉しそうに頬を染めた。その様子を見ていた赤髪のアカネが、なんとなく手を伸ばした。


「じゃあ、一つだけ...」


「はい、どうぞ」


アカネがクッキーを食べると、その表情が和らいだ。


「...美味い」


「本当ですか?」


「ああ。意外と甘すぎなくて食べやすい」


「良かった」


瑠璃は安心したような表情を浮かべた。


「あの、瑠璃さん」


「はい?」


「今度、魔王軍の他の幹部の方々とお茶会をしませんか?佐藤さんにみなさんを紹介したいんです」


僕は驚いた。まさか瑠璃からそんな提案をしてもらえるとは思わなかった。


「お茶会?」


アカネも戸惑っているようだった。


「はい。せっかくですから、みんなで親睦を深めましょう。佐藤さんも他の幹部の方々のお仕事を知れば、もっと良い備品管理ができるのではないでしょうか?」


「それは良いアイデアですね。ぜひ参加させてください」


僕は幹部の皆さんと知り合えるチャンスだと思った。それぞれがどんな武器や道具を使っているのか知れば、より適切な備品管理ができるはずだ。


「じゃあ、私が皆さんに声をかけておきますね。今度の休日はいかがですか?」


「大丈夫です」


赤髪のアカネは複雑そうな表情のままだったが、結局参加することになった。


「決まりですね。楽しみです」


瑠璃は嬉しそうに手を叩いた。


その後、二人が去ってから、僕は改めて倉庫の整理に取り掛かった。クッキーを食べながら作業をしていると、不思議と気分が良い。こんな風に、仲間に支えられながら仕事ができるなんて、前世では考えられなかった。


前世では、毎日一人で黙々と在庫管理をしていた。誰からも感謝されることもなく、ただひたすら数字と向き合う毎日だった。でも、ここでは違う。僕の仕事が、直接誰かの役に立っている。それがはっきりと分かる。


「よし、頑張ろう」


改めて気持ちを引き締めて、僕は作業を続けた。


## 第三章 お茶会で見えてきた個性


休日の午後、魔王軍の会議室で茶会が開催された。青髪の瑠璃が用意したお茶とお菓子を囲んで、幹部の皆さんが集まっている。


「皆さん、改めて紹介します。新しい備品管理係の佐藤健太郎さんです」


瑠璃の紹介で、僕は少し緊張しながら頭を下げた。


「はじめまして、佐藤健太郎です。よろしくお願いします」


「第一師団長の黒崎雅美よ。よろしく」


黒髪をショートカットにした美女が、凛とした表情で挨拶した。弓を専門とするだけあって、姿勢が良く、鋭い眼光をしている。背筋がぴんと伸びて、まさに武人という感じだ。


「第二師団長の白河桜子です。お疲れ様」


ピンクの髪をツインテールにした可愛らしい外見だが、体格は他の幹部より一回り大きく、重装備を扱うのも納得だ。でも、その笑顔はとても温かく親しみやすい。


「第四師団長の緑川美波だ。まあ、よろしく」


緑の髪をポニーテールにした美女は、どこかクールな印象がある。短剣使いというのも、その俊敏そうな体つきを見れば理解できる。あまり感情を表に出さないタイプのようだ。


「第五師団長の黄金茜香よ。お疲れさま」


金髪をロングヘアにした美女は、魔法剣士らしく杖と剣の両方を携帯している。どこか上品な雰囲気があり、貴族の出身かもしれない。


「皆さん、よろしくお願いします」


僕は改めて挙拶をした。こうして見ると、本当に個性豊かな方々ばかりだ。


「で、佐藤は一体何者なんだ?」


黒髪ショートの雅美が単刀直入に質問してきた。


「えーっと、前世では在庫管理の仕事をしていました」


「前世?転生者なのか」


「はい」


「ほう、それは珍しいな」


「転生者って珍しいわね。初めて見たかも」


ピンクのツインテールの桜子が興味深そうに僕を見つめた。


「で、どんな能力があるんだ?」


緑髪ポニーテールの美波が冷静に尋ねてくる。


「特別な能力は...在庫管理とか、整理整頓とか、そういう地味なスキルしか...」


「地味って、そんなことないでしょう」


青髪の瑠璃がフォローしてくれた。


「佐藤さんのおかげで、備品がすごく管理しやすくなったんです」


「そうなのか?」


金髪ロングの茜香が興味を示した。


「はい。期限切れの物品を見つけてくれたり、在庫の過不足を教えてくれたり」


赤髪ポニーテールのアカネも説明に加わった。


「実際、昨日の作戦でも佐藤の管理した装備が役に立った」


「へえ、それはすごいじゃない」


桜子が感心した表情を浮かべた。


「でも、地味な仕事よね」


美波がぽつりと呟いた。


「そんなことないよ」


瑠璃が慌ててフォローする。


「備品管理って、実はとても重要な仕事なのよ」


「まあ、確かにそうだけど...地味な仕事の割には、すごく重要なことなんだな」


美波は考え込むような表情を浮かべた。


その時、雅美が口を開いた。


「実は、私も佐藤に相談したいことがあるんだ」


「え?」


「私の愛用している矢なんだが、最近調子が悪くてな」


黒髪ショートの雅美は腰の矢筒から一本の矢を取り出した。見た目は普通の矢だが、矢尻が少し変わっている。よく見ると、複雑な魔法陣のような模様が刻まれている。


「これは特殊な矢ですね」


「そうだ。魔法を込めて作られた矢で、敵の防御を貫通する効果がある。しかし、最近威力が落ちているような気がするんだ」


僕は矢を手に取って観察した。矢尻の部分に細かい傷があり、羽根の部分も少し傷んでいる。魔法陣の模様も一部が薄くなっているようだ。


「おそらく、メンテナンス不足ですね。特殊な矢は定期的な手入れが必要です」


「手入れ?」


「はい。専用のオイルで清拭して、羽根の部分も整える必要があります。それに、魔法陣の部分も特別な手入れが必要かもしれません」


「そんな専用オイルがあるのか?」


「倉庫にあったと思います。確認してみますね」


僕は頭の中で倉庫のレイアウトを思い浮かべた。確か、特殊武器用のメンテナンス用品の棚があったはずだ。


「ありました。今度お持ちします」


「本当か?助かる」


雅美は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は普段のクールな印象とは全く違って、とても魅力的だった。


「私もお願いがあるの」


今度はピンクのツインテールの桜子が手を上げた。


「私の盾なんだけど、最近重く感じるのよね」


桜子は背中に背負っている大きな盾を見せた。確かに重そうだが、それ以外に問題があるようには見えない。ただ、よく見ると金具の部分に汚れが溜まっているのが分かる。


「重く感じる?」


「そう。前より動きが鈍いの。盾が原因かしら?」


僕は盾を見つめて考えた。重装備の専門知識はないが、前世でモノづくりの現場を見たことがある。


「もしかして、関節部分に汚れが溜まっているかもしれません」


「関節部分?」


「はい。盾を装着するストラップや金具の部分です。そこに汚れが溜まると、動きが悪くなることがあります」


「なるほど」


「清掃用具をお持ちしますので、一度点検してみましょう」


「ありがとう!」


桜子は目を輝かせた。その無邪気な笑顔は、見ているこちらも嬉しくなってくる。


「私は...」


緑髪ポニーテールの美波が少し躊躇いがちに口を開いた。


「どうしました?」


「短剣の切れ味が落ちてるような気がするんだ」


美波は腰の短剣を抜いて見せた。刃は綺麗に手入れされているようだが、確かに少し鈍っているような印象がある。刃の角度も微妙にずれているかもしれない。


「研磨が必要ですね」


「研磨?自分でやってるつもりなんだが...」


「短剣は特殊な研磨方法があります。倉庫に専用の砥石があったと思います」


「そんなものが?」


「はい。今度お持ちしますね」


「...ありがとう」


美波は少し照れたような表情を浮かべた。普段クールな彼女の、こんな表情を見るのは珍しい。


最後に金髪ロングの茜香が話しかけてきた。


「私の場合は、魔法の触媒なのよね」


茜香は手に持っている杖を見せた。杖の先端には美しい宝石が埋め込まれている。サファイアのような青い宝石で、とても高価そうだ。


「魔法の触媒?」


「そう。この宝石なんだけど、最近魔力の伝導率が下がってるような気がするの」


「魔力の伝導率...」


僕は宝石を見つめた。魔法のことは分からないが、宝石の表面に薄い汚れのようなものが付いているのが見える。まるで指紋のような跡や、魔法を使った際の残滓のようなものかもしれない。


「もしかして、宝石の表面に汚れが付いているからかもしれません」


「汚れ?」


「はい。特殊な研磨剤で清拭すれば改善するかもしれません」


「そんな研磨剤があるの?」


「倉庫で見かけました。今度確認してみますね」


「ありがとう」


茜香は上品に微笑んだ。その優雅な仕草は、やはり貴族出身なのではないかと思わせる。


「みんな、佐藤さんに甘えすぎじゃない?」


青髪の瑠璃が苦笑いを浮かべた。


「でも、専門的なアドバイスをもらえるのは嬉しいわね」


雅美が答えた。


「そうね。今まで誰も詳しく教えてくれなかったし」


桜子も同意した。


「そうか...今まで適当にやってたからな」


美波が反省するように呟いた。


「備品管理って、本当に奥が深いのね」


茜香が感心した表情を浮かべた。


「いえいえ、僕も勉強になります。皆さんの武器や装備を拝見させていただいて、とても勉強になりました」


「謙遜しなくても良いのよ」


瑠璃が微笑んだ。


「本当に、佐藤さんがいてくれて良かった」


その言葉に、僕は心が温かくなった。地味な仕事だと思っていたけれど、こうやって皆の役に立てているのは嬉しい。


「ありがとうございます。これからも頑張ります」


茶会はその後も和やかに続き、皆さんとの距離が縮まったような気がした。それぞれの個性や悩みを知ることができて、より良い備品管理ができそうだ。


## 第四章 備品一つで変わる運命


茶会から数日後、僕は約束通り、幹部の皆さんの装備品メンテナンス用品を用意していた。


「雅美さんの矢用オイル、桜子さんの盾清掃用具、美波さんの短剣砥石、茜香さんの宝石研磨剤...」


一つ一つ確認しながら、配送準備を進める。この作業は楽しい。みなさんの喜ぶ顔を想像すると、自然と笑みがこぼれてくる。


「佐藤!」


振り返ると、赤髪ポニーテールのアカネが慌てた様子で駆け込んできた。


「どうしたんですか?」


「大変なんだ!明日の大規模作戦で、武器が足りないことが判明した!」


「武器が足りない?」


「ああ。参加予定の兵士数を数え間違えていたらしい。剣が50本、槍が30本不足している」


「それは大変ですね」


「魔王様から直々に、何とかしろと命令が下った。佐藤、倉庫に予備の武器はないか?」


僕は頭の中で倉庫の在庫を思い浮かべた。整理整頓してから、大体の在庫数は把握している。


「剣は...古いものなら40本ほどあります。槍は25本くらいでしょうか」


「古いもの?」


「はい。前の管理係の時代から放置されていた武器です。錆びていたり、刃こぼれしていたりしますが...」


「それでも構わない!使えるものなら何でも!」


「分かりました。ただし、一晩で修理する必要があります」


「修理?一人でか?」


「はい。でも、頑張ってみます」


僕は倉庫の奥から古い武器を運び出し始めた。確かに状態は良くないが、適切に手入れすれば使える状態になるはずだ。錆を落とし、刃を研ぎ、柄を補強する必要がある。


「一人で大丈夫か?手伝おうか?」


「ありがとうございます。でも、アカネさんは明日の作戦準備があるでしょう?」


「そうだが...」


「大丈夫です。これも僕の仕事ですから」


アカネは心配そうな表情を浮かべたが、結局頷いて去って行った。


僕は一人、黙々と武器の修理に取り掛かった。錆を落とし、刃を研ぎ、柄を補強する。前世では経験のない作業だったが、倉庫にあった修理マニュアルを参考に進めていく。一本一本の武器に向き合っていると、まるでそれぞれに物語があるような気がしてくる。


夜が更けても作業は続いた。途中、何度か休憩を挟みながら、一本一本丁寧に修理していく。手が疲れて、腰も痛くなってきたが、明日の作戦のことを思うと止められない。


「佐藤さん?」


振り返ると、青髪の瑠璃が心配そうな顔で立っていた。


「瑠璃さん、どうしてこんな時間に?」


「アカネさんから聞いて、心配になって...一人で大丈夫ですか?」


「ありがとうございます。あと少しで終わります」


「お手伝いします」


「え?でも...」


「私にもできることがあるはずです」


瑠璃は袖をまくって、作業台の前に座った。その真剣な表情を見て、僕は断れなくなった。


「じゃあ、この短剣の柄の巻き直しをお願いできますか?」


「はい」


二人で作業を続けていると、今度は黒髪ショートの雅美が現れた。


「まだやってるのか」


「雅美さん」


「アカネから聞いた。手伝わせてもらう」


「でも...」


「弓の弦の張り替えくらいならできる」


続いてピンクツインテールの桜子、緑髪ポニーテールの美波、金髪ロングの茜香、そして最後に赤髪ポニーテールのアカネも戻ってきた。


「みんな...」


「一人で頑張らなくていいのよ」


桜子が優しく微笑んだ。


「そうだ。チームワークが大切なんだ」


美波も作業台に向かった。


「魔法である程度の修理はできるわ」


茜香が杖を振ると、錆びた剣がみるみる綺麗になった。


「みんな、ありがとうございます」


僕は感動で胸がいっぱいになった。こんなに温かい仲間がいるなんて、思ってもみなかった。


雅美が弓の弦を張り替え、瑠璃が魔法で錆を落とす。桜子が盾の清掃をし、美波が短剣を研ぐ。茜香が魔法で武器の強度を上げ、アカネが僕の修理を手伝ってくれた。全員で作業すると、効率は格段に上がった。一人では一晩かかる作業も、みんなでやれば半分の時間で済む。


朝方には全ての武器の修理が完了した。


「やったな」


アカネが満足そうに伸びをした。


「本当にお疲れ様でした」


「いえいえ、みなさんのおかげです」


「佐藤さんが頑張ってくださったからよ」


瑠璃が微笑んだ。


そして翌日、修理した武器を持った兵士たちが大作戦に出発した。結果は大勝利。魔王軍始まって以来の快勝だった。


「佐藤のおかげだな」


作戦から戻ったアカネが、嬉しそうに報告してくれた。


「みなさんの協力があったからです」


「そうかもしれないが、君がいなければこの勝利はなかった」


その時、魔王軍の最高位である魔王様からの呼び出しがあった。


## 第五章 真の価値と新たな関係


魔王の間は、想像していたような薄暗く邪悪な雰囲気ではなく、温かい光が差し込む明るく開放的な空間だった。玉座に座っているのは、意外にも若い女性だった。長い黒髪に紫の瞳、威厳のある美しい顔立ちをしている。


「備品管理係の佐藤健太郎です」


「うむ、よく来た。私が魔王のレイラ・デ・ダークネスだ」


魔王様の声は思ったより優しく、親しみやすさを感じた。邪悪な魔王というイメージとは程遠い、とても上品な女性だった。


「今回の作戦成功、見事であった」


「ありがとうございます」


「君の働きがなければ、武器不足で作戦は失敗していただろう。それだけでなく、最近は各幹部の装備の調子も良いと聞いている」


「はい、皆さんの装備をメンテナンスさせていただいています」


「素晴らしい。実は、君に新しい役職を授けたいと思っている」


「新しい役職?」


「『総合装備管理官』だ。魔王軍全体の装備品を統括する重要なポストだ」


僕は驚いた。まさかこんなに評価してもらえるとは思わなかった。


「ありがとうございます。精一杯頑張ります」


「よろしく頼む。給料も大幅に上がるから安心してくれ」


魔王様はにっこりと微笑んだ。その笑顔は本当に美しく、威厳がありながらも温かさを感じさせる。


執務室を出ると、廊下で幹部の皆さんが待っていた。


「おめでとう、佐藤」


赤髪ポニーテールのアカネが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「おめでとうございます」


青髪の瑠璃も拍手している。


「やったじゃない」


「すごいじゃないか」


「昇進ね」


みんなが祝福してくれて、僕は本当に嬉しかった。


「ありがとうございます、皆さん」


「お祝いしましょう」


瑠璃が提案した。


「今夜、私が特別料理を作りますから」


「それは楽しみだな」


雅美が賛成した。


その夜、瑠璃の手料理を囲んでお祝いパーティーが開かれた。魔王様も参加して、和やかな雰囲気だった。


「乾杯!」


全員でグラスを掲げた。


「佐藤さんのおかげで、僕たちの装備が完璧になりました」


瑠璃が感謝の気持ちを込めて言った。


「本当にありがとう」


アカネも照れながら頭を下げた。


「私の矢も調子が良いわ」


雅美が満足そうに微笑んだ。


「盾も軽やかに動くようになった」


桜子が嬉しそうに報告した。


「短剣の切れ味も完璧だ」


美波も珍しく笑顔を見せた。


「杖の魔力伝導も改善されたわ」


茜香も上品に微笑んだ。


「みんな、君のことを大切に思っているのがよく分かる」


魔王様が優しく言った。


「私も、佐藤がいてくれて本当に良かったと思っている」


僕は胸が熱くなった。こんなに温かい仲間に囲まれて、自分の仕事に価値を見出してもらえるなんて、夢のようだ。


「僕の方こそ、皆さんと出会えて幸せです」


「これからも、よろしくお願いします」


瑠璃が少し頬を染めながら言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


アカネも恥ずかしそうに微笑んだ。


パーティーはその後も遅くまで続いた。みんなで笑い合い、語り合い、本当に楽しい時間だった。


## エピローグ 地味な仕事の輝き


それから半年が経った。僕の新しい役職『総合装備管理官』の仕事は忙しかったが、とても充実していた。


倉庫は完全に整理され、効率的な在庫管理システムが構築された。各幹部の装備は常に最高の状態に保たれ、魔王軍の戦力は飛躍的に向上した。


「佐藤さん、お疲れ様」


今日も青髪の瑠璃が手作りのお茶とお菓子を持ってきてくれた。


「ありがとうございます、瑠璃さん」


「今日は新作のクッキーなんです。試食してもらえますか?」


「もちろんです」


クッキーを食べると、いつものように上品で優しい甘さが口に広がった。


「美味しいです」


「良かった」


瑠璃は嬉しそうに微笑んだ。最近、彼女との距離がぐっと縮まったような気がする。


「あ、佐藤」


振り返ると、赤髪ポニーテールのアカネが立っていた。


「アカネさん、お疲れ様です」


「ああ、お疲れ。今日の訓練用武器の準備、ありがとう」


「どういたしまして」


「そうそう、今度一緒に街に買い物に行かないか?新しい装備品を見に行きたいんだ」


「それは良いアイデアですね」


アカネも最近、よく話しかけてくれるようになった。


「私も一緒に行きたいです」


瑠璃が手を上げた。


「え?」


「魔法の材料も見てみたいので」


「そうか...じゃあ、三人で行くか」


アカネは少し複雑そうな表情を浮かべたが、結局賛成してくれた。


その後も、雅美、桜子、美波、茜香が次々と現れ、結局全員で買い物に行くことになった。


「みんなで行くと楽しそうね」


魔王様まで参加することになり、大所帯での買い物ツアーとなった。


街での買い物は本当に楽しかった。各自が必要な装備品を選び、僕がアドバイスする。みんなの役に立てることが、何よりも嬉しい。


「佐藤って、本当に詳しいのね」


茜香が感心して言った。


「前世の経験が活かされているんです」


「転生って、不思議よね」


「でも、佐藤さんが来てくれて本当に良かった」


瑠璃が優しく微笑んだ。


「そうだな。最初は頼りなく見えたが、今では欠かせない存在だ」


アカネも認めてくれた。


夕日が沈む頃、全員で魔王城への帰路についた。みんなでワイワイと話しながら歩く道のりは、とても幸せだった。


「佐藤」


「はい?」


「君は自分の仕事を地味だと思っているかもしれないが、実はとても重要で価値のある仕事なんだ」


魔王様が真剣な表情で言った。


「ありがとうございます」


「一つ一つの備品が、誰かの命を支えている。君の管理する装備が、みんなの運命を左右しているんだ」


「そうですね」


「だから、自信を持って欲しい。君の仕事は決して地味じゃない。とても輝いている」


魔王様の言葉に、僕は胸が熱くなった。


そうだ。地味だと思っていた備品管理の仕事だが、実は一つ一つが大切な意味を持っている。アカネの剣、瑠璃のポーション、雅美の矢、桜子の盾、美波の短剣、茜香の杖。全てが彼女たちの運命を左右する大切な道具だ。


そして、僕はその全てを支えている。


「ありがとうございます、魔王様」


「こちらこそ、ありがとう。これからもよろしく頼む」


魔王城に戻ると、みんなでまた楽しい夕食を共にした。笑い声が響く食卓を見回しながら、僕は思った。


異世界転生して、魔王軍の備品管理係になった。最初は地味な仕事だと思っていたけれど、実はとても重要で価値のある仕事だった。


そして何より、素晴らしい仲間たちと出会えた。アカネ、瑠璃、雅美、桜子、美波、茜香、そして魔王様。みんなが僕を必要としてくれて、僕もみんなを大切に思っている。


もしかしたら、これが本当の幸せなのかもしれない。


「佐藤さん」


瑠璃が恥ずかしそうに僕に近づいてきた。


「はい?」


「あの...今度、二人でお茶をしませんか?」


「え?」


「お話ししたいことがあるんです」


瑠璃の頬が赤く染まっている。その様子を見て、アカネも慌てたように口を開いた。


「あ、私も佐藤と話したいことがあるんだ」


「え?」


「今度、二人で訓練を見に来てくれないか?」


二人の様子を見ていた他の幹部たちも、それぞれ何かを言いたげな表情を浮かべている。


「あの...」


僕は困惑したが、同時に嬉しくもあった。こんなに素晴らしい人たちが、僕に興味を持ってくれるなんて。


「みんな、佐藤を取り合うのはやめなさい」


魔王様が苦笑いしながら仲裁に入った。


「はい...」


「でも、佐藤も少しは自分の時間を作って、みんなと個人的に交流するのも良いかもしれないわね」


「そうですね」


僕は微笑んだ。これからも、みんなとの関係を大切にしていきたい。


そして、備品管理という仕事を通して、みんなを支え続けていきたい。


地味だと思っていた仕事が、実は誰かの運命を左右する重要な仕事だった。


そのことを胸に刻んで、僕は今日も倉庫に向かう。


「よし、今日も頑張ろう」


新しい一日が始まる。備品一つ一つに込められた想いを大切にしながら、僕は歩き続ける。


この異世界で見つけた、本当に価値のある仕事と、かけがえのない仲間たちと共に。


~完~


---


**【作者後記】**


「異世界の魔王軍で、なぜか『備品管理』を任された僕。地味な仕事だと思っていたら、備品一つ一つが美女幹部たちの運命を左右していた」をお読みいただき、ありがとうございました。


主人公の佐藤健太郎は、一見地味な備品管理という仕事を通して、魔王軍の幹部たちとの絆を深めていきました。どんなに小さな仕事でも、誰かの役に立っているという大切なメッセージを込めました。


アカネ、瑠璃をはじめとする魅力的な幹部たちとの恋愛模様も、これからが本番かもしれませんね。


読者の皆様の応援があれば、続編も書かせていただきたいと思います。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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異世界の魔王軍で、なぜか「備品管理」を任された僕。地味な仕事だと思っていたら、備品一つ一つが美女幹部たちの運命を左右していた トムさんとナナ @TomAndNana

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