第2話
土日も授業があり、休日は月曜日と火曜日。その二日も、実質的には本社から送られてくる資料や、アルバイトからの日報に目を通す時間に費やされてしまう。そのため、心があまり休まらないのが実情だ。
翌日の月曜日。いつも通り、昼頃に目覚めて顔も洗わずにパソコンを立ち上げた。
急ぎのメールがないかのチェック、昨日やりそびれた事務作業、日報の確認、本社へ提出する週報の作成、来月の社内研修の事前課題……。
時間を忘れて作業をしていると、ぐううとお腹が鳴った。腹の虫の音を聞いた途端に空腹を感じてキッチンに向かって冷蔵庫を開けるも、ろくな食料が入っていないことに今さら気づいた。
(さすがに買い物は行かないといけないか……。)
顔を洗って簡単な身支度を済ませてマンションを出ると、夕方に差しかかろうという時間の風は少しひんやりとしていた。
気づけばもう暦は十月を迎え、いつの間にか秋がすぐそこまで来ていた。
淡いブルーの空に浮かぶ雲は夕日に照らされてオレンジがかっていて、沈みかかった太陽のまわりは燃えるような眩さだった。美しい夕焼けを、彩音は食い入るように見入った。
あっという間に太陽は沈み、夜の気配が漂い始めた中、彩音は歩き出した。
いつも買い物するのは近くのコンビニばかりだが、夕焼けを見て心が晴れやかになり少し足を伸ばそうと思いつく。駅を通り越し、スーパーまで向かった。
その道中、これまであまり気に留めなかった自治会の掲示板に目がいく。
無機質なアルミの枠組みの中に、いくつか掲示物が貼られている。その中で、ひときわ光を放つものがあった。
雨風防止用の薄いガラスに鼻がつきそうなほど、彩音は顔を近くに寄せてじっと見つめる。
それは、力強い筆運びで『学びの喜び』と書かれた半紙だった。
(すごい、綺麗な字……。)
作品に添えられた作者名を見ると、「白稲神社」とだけある。
(しらいね、って読むのかな?)
スマートフォンを取り出して検索すると、どうやら「しらいな」と読むらしい。
小さな神社で、向かおうとしているスーパーから二百メートルほど離れた場所にあるようだ。
(これを書いた人がいるんだよね。神主さんとか?)
言葉の選び方、書き方、どちらにも形容し難い感動を受けた彩音は、作品の創造主への興味が湧いた。
空腹も忘れ、グーグルマップを頼りに白稲神社への道を歩み始めた。
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