空白の八重桜

AOI

第1話 空白のサクラは今宵また開くのか



『ほんっとに、こうして俺らの音楽をやれて、楽しかった…皆ありがとう…ありがとうございましたぁぁあ!!!!!!』



5年前、学生バンドでありながら熱狂的なファンを持つV系バンドがあった。その名は「          (空白)」。

女形でありメインボーカル兼ベースを務めたサクラ、V系なのに関西弁でテクニックとリーダー力で人気を博したギターのアツシ、ミステリアス不思議な最年長キーボードK、そして抜群のテクニックと小柄ながらもファンサービスもパフォーマンスも際立っていたコウ。

彼らは学生の間だけ、という期間で信者を何人も作りあげたバンドである。然し時が過ぎるのは残酷な物で彼らは学生を卒業と共に解散。ファイナルライブはファンがライブハウスに入り切らずライブハウスの外にまで人が溢れかえっていた。彼らの最後の音を聴くために。


そんな彼らは5年の月日を経て当然大人になった。

サクラこと藤浪桜介ふじなみおうすけはファッション雑誌の編集

「はい…あ!?え、分かりましたならそのページに別の特集組むんで、速攻案纏めて提出します!」

アツシこと静寂敦しじまあつしは大手の営業マン

「もしもし…はい、はい。ありがとうございます!!!…よっしゃっ…!!!!」

KことそのままKはスタイリスト「

んー、やっぱりそっか…今季のトレンドこれだし、こっちにしてみようか」

コウこと紅島誠あけしままことは人気バンドのドラム

「おらもっと来いよ!!!!!アリーナまで見えてるからな!!!!!!!」


それぞれの道を歩んでいた。


電話やLINEでのやりとりはそれなりにしていた彼らをリーダー(仮)の敦がある日集合をかけたのだ。

「はぁ…教育係とか…嫌すぎ無理笑えない…」

肩を下げて重い、重すぎるほどの溜息をつく俺藤浪桜介、今年で27になる年。平均男性より少しだけ小さい俺は普段1人ならまず通らない満員電車かよと言いたくなるような週末の飲み屋街の人混みを避けながらまたひとつ溜息。次にくる新人の教育係係を受け持つことになったり、新雑誌の立ち上げへと移動になったはいいものの特集記事を見事連チャンの没を食らったりと仕事のことを考え出すと憂鬱な気分ではあるものの、それよりもずっと楽しみにしていたこの時間を目の前にして足が止まることは無い。

予約したというKさんから貰った位置情報へと地図アプリとにらめっこをすること数十分。やっとたどり着いたのは、流行りの個室系のお店だった、会社ウチから出てる雑誌のどこかに載っていたから覚えている。めちゃくちゃ高級という訳じゃないけど、お店は騒がしさこそあるものの、周囲とはどこか一線を画していて雰囲気もする不思議な感覚。自動ドアが開くぽーんっという音ともに少し奥の店員から声をかけられる。

「いらっしゃいませー、少々お待ちください」

五月蝿すぎず、けれど静かすぎて遠慮することもない。Kさんらしい店選びだなぁ、あ、これ前に仕事一緒した時に言ってたKさんのお気に入りのピアニストのアレンジカバーだ。なんてぽけっと考えているウチにやってきたハキハキとした店員に連れが来ていることを伝えればそのまま一室へと案内される。

「ごゆっくりどうぞー」

そう言って開かれた扉の向こうには懐かしい音と顔ぶれ。

「桜介!おつかれさんっ!」

「はぁい、サクラ。今日も相変わらず可愛いね?」

『きたな?社畜リーマン』

そこに集まるのはこうして久々に集まったみんな。敦はもう既にジャケットを脱いでネクタイなんて放ったままだったし、片手にウィスキーのロックを持ってるKさんのなんと相変わらずなこと…あと見た目年齢年取って無さすぎてちょっと怖いとは言えない。それから海外ライブ中で時差もあるのにこうして元気に顔を出してくれたコウ。その全部が懐かしくて、暖かくて涙が出そうになったのは内緒である。


_______________


「ねぇ、Kさんそれ何杯目?」

「んー、そろそろ6杯目なんだけどこれじゃ酔えないんだよねぇ…ね、アツシ?ボトルでワイン頼んでいい?」

「へーへー、お前が1杯ずつ飲んでたら朝になるし酒がもったいないわ。好きにしたらええけど店の酒飲み尽くしなや?」

「やった。はーい…じゃあどうしよ、サクラも飲む?」

「俺も…じゃあちょっとだけ貰おうかな。」

「んー、そうだねぇ。なら白にしようか、飲みやすいやつ。」

『お前ら良いなー、オレ今ライブ中だから飲めねぇんだけど???何当てつけか???』

「コウは明日もライブじゃないの?まだ起きてて平気?」

「桜介、こいつのライブ好きとドラム好きはおかしいねん。つまるとこ体力無尽蔵オバケさんやから心配やかいらんねんで」

『あ!?!喧嘩売ってんのか敦!?!?』

「うってませんーだ!!!」

『オレは明日はオフだから問題ねーんだよ!?!?』

「ふっは!そんならええけどぶっ倒れて子供みたいに寝たりせぇへんようになー!まこちゃーん」

『あぁ!?!?マコって呼ぶなバカ敦!?!!!!』

「アハハ、ならこれにしよう。サクラ、店員さん呼んでもらえる?」

「はーいKさん…って2人とも、喧嘩しないで??店員さん困るよ???」

まるっきり昔のままのテンポ感。あぁ、落ち着くなぁ。当然ながらどんな友人達も大切だけれど、皆はまた違うところにあるのだと実感する。友人とも違う、まるで家族のような、けれどそんなもので言い表せない何か。少しぶすくれてしまったコウと敦に笑 いながら、店員さんが持ってきてくれたワインとグラスとお冷、それからお通しがテーブルに並んだ。そこで切り替えられるのは俺たちの座長、というかリーダーである敦である。

「まー、とりあえずや。久々に顔合わせれたってことで、おつかれ!!!!!かんぱーい!!!!!」

『かんぱーいっ!!!っくーー!!!!ノンアルコールにしてみたけど染みる…!!!!!』

「ふふっ、はーいサクラ、乾杯」

「敦熱くなりすぎ…!ふふっ、乾杯Kさん」

熱く、けれどこの感じ。ほんっと、あれから5年も経ったとは思えないや。そこからはまぁ、最近のお互いの近況になるのは当然なわけで。

「へぇ、次の新人さんの教育係なんだ…すごいねぇ、サクラ」

「そんな事ないよ…俺なんてまだまだなんだよ??」

「桜介はしっかりとるし大丈夫やろ、何だかんだ」

『そーそ。どっかの誰かさんとは違ってな??』

「あぁ?喧嘩売っとんか我ごらぁ!?!?」

2人の喧嘩みたいなじゃれあいも画面越しだっていうのにいつも通りで。思わず笑ってしまうとえらいえらいと子供のように俺の頭を撫でていたKさんも笑った。それからくすっとまたお洒落に笑ってから画面越しのコウに唸るみたいにがるがる言ってる敦の襟元を掴みあげる。ナチュラルな身長差(Kさんがおっきいだけだと思うんだけど)があるからかまるで捕まえられたネコみたいに見えるよね。

「はーいはい、アツシはすぐ噛みつかないんだよ?コウもからかいすぎないであげなさいね?」

『Kに言われちゃ仕方ねえなぁ』

「やって俺…」

「ヨシヨシ。敦はいい子だから、ボクの言うこと聞いてくれるよね?」

「…Kがいうんなら」

このやり取りも、あいも変わらない。Kさんに頭を撫でられればすぐに大人しくなるのはもうかれこれ何年だ…学生時代からだから8年?あ、その前からって話だから10年目になりそうな勢いなのかぁ、と美味しい白ワインを飲みながら思うのだった(小並感)

そんな感じに、最近の仕事だー、家族の話だーって色々していると時間はあっという間に過ぎていく。あ、コウのライブの話は楽しかった。やっぱりライブ先で色んなことが起こるらしくて、コウは小学生?って言われたらしくそれを思い出したのか全力でむくれていた。そこで敦とコウのネコとワンコよろしくのじゃれ合い(という名の口喧嘩)からKさんが場を収めるまでが3回ぐらい挟まれた頃。

敦のケータイの通知音。それをちらりと見て、明らかに思い出したって顔をする敦。…忘れてたな?なんか話さなきゃ行けないこと。

「敦…?何かわすれてたの??」

「えっとな…」

『ぜってー忘れてたなこれ』

「うっさいわ!!楽しかってんから仕方ないやろ!?」

「はいはい。アツシ落ち着いて?どーどー」

「俺馬ちゃうぞ!?」

と軽いコントが挟まりつつも、それを一通り突っ込み終わった敦が息を吐く。その様子をくすりと笑って机に肘をついて首をゆるりと傾げるKさん、白ワインを未だにちびちび飲みつつ生ハムサラダを食べる俺(ハムスターとか言わないんだよーそこー)、画面越しにえらく真面目な顔になったコウ。そんな空間でまた敦が息を吸って、言葉を告げた。


「なぁ空白の、俺らのライブ。もっかいせえへん?」


これは、俺らの過去がやってくる物語。

俺らがこの先を目指し生きるための物語。

新たな桜が芽吹いて咲く、そんなお話。


____________________


「えっ!?MOONCAT閉まっちゃうの!?!?」

「らしいねんな。あ、これ実際来たメールな。」

そう告げた敦はあっさりと携帯を俺に手渡してきた。それを一緒に覗き込むKさん。


<拝啓  静寂敦様

突然のご連絡お許しください。私はMOONCATのオーナーの娘で内宮有咲と言います。そのまま本題に入ってしまい大変恐縮なのですが、現在、父が経営するMOONCATを畳まざるおえないかもしれないという状態です。>


MOON CAT、俺たちがバンドをやっていた頃にメインで使わせてもらっていたライブハウス。そのオーナーの娘さんからの連絡らしいけど…

「マジなやつじゃん…」

「本当だねぇ」

またグラスを優雅に傾けながら一緒に読んでいたKさんがいつものトーンで呟く。

「え、Kさん知らなかったの?」

「うん。アツシがなんだか唸ってたのは知ってるけど、話してくれなかったから聞かなかったの。あ…ワイン切れちゃった。新しいの頼むね?」

Kさんへ、もうあなたの隣に3本違う銘柄のワインが並んでます。それからほぼほぼ敦と半同棲レベルなのを俺は知ってるからこそ貴方が知らなかったことに驚いていることに気づいておねがいだから。そんなことを知らないKさんは敦にもビールを頼まれるままに一緒に注文してしまおうと呼び出しボタンを押していた。だめだ、ペースにのまれてたら話が進まない気がする。そう思い、改めて携帯に視線を戻す。


<…私は、空白というバンドがウチでずっとライブをしてくれた事にとっても感謝しています。最初のライブから拝見しておりますし、当然ですが、ラストライブもチケット争奪戦に勝ち残り客席で見ました。本当に、本当に大好きです。

いや本当に、今でも空白のサイトを運営させていただいており時折皆様にも書き込んでいただけることが本当に今でも空白という存在を大切にして頂いていることがファン冥利につきますし、1ファンとして感謝の念に耐えません。ファンクラブの1番を取って会長として過ごさせていただいたこと、青春時代だけではなく今も一生の思い出として更新され続けております。……>


あ、この子会長ちゃんか。それなら顔に覚えがあった。綺麗にゴスロリを着こなし、時折ライブTに超絶アレンジ加えて着ている時もあったっけ。なんならファンの子達の礼儀徹底指導みたいなのまでやってた子だから覚えてる。ていうかそれにしても長、くない?いや丁寧かつ綺麗な文章なんで読めるんだけどえ、まだ続くの?半分くらいバンドの誉め殺しだなおい。ていうかコウは知ってる感じだよね?見えてるよ?スポドリ飲みながら顎でクイっておい読めよ的なことしなくてもちゃんと読むから、ね???


<…もしも、考えたくはありませんがもしも本当にライブハウスとしての役目を終えるなら、私はどうしても空白のライブをもう一度観たいのです。今も色褪せない、大切な存在を。貴方達の音で、声で、父がずっと運営し愛し続けていたライブハウスの最後を締めて欲しい。叶うなら、どうか。

厚かましいのは重々承知の上でそんな願いを抱き、今は使われていないかもしれないのですが過去の使用者リストから静寂様…いえ、アツシさんのご連絡先だったこちらに連絡をさせて頂きました次第です。

ファンとしてマナー違反なことは承知の上です。してはいけないことなのも分かっています。ですが、私自身が一度考え始めてしまうと想いが消えず、勝手ながらご連絡させていただきました。

もしもこのメールをご覧頂き身に覚えのない方はゴミ箱に捨ててください。

ですが、もし本当にアツシさんに届いているのなら。お願いです。もう一度だけ、空白のライブを、うちで、MOONCATで行ってはいただけないでしょうか。

最後に、長文失礼いたしました。以後こんなマナー知らずなことは致しませんのでご安心ください。皆様の益々の発展とご活躍、ファン一同心よりお祈りしております。>


空白の熱狂的ファンであり、未だにファンサイトの会長を務めている会長ちゃん。どんな思いでこれを書いたんだろうか。そう思って何も言えなくなってしまった。言葉が詰まる。大切な場所が消えそうなことはどれだけ苦しいのか。俺たちにとっても大切な場所だから、気持ちは分かる…なんて簡単な言葉では言い表せないけど。

なんと言っていいのか、自分の感情に名前をつけられないまま携帯を返すと意味を込めて差し出せば敦が受け取って笑った。へにゃりと、少し酔っている様だけれどそれでもリーダーとしての顔で。


「俺なぁ、これ読んでやりたなってしもてな。大事な場所に、最後に華を添えてほしいなんて思えるような存在で居られることって、すごいことやん。」

『因みに、オレも賛成。』

まさかのワンニャンコンビの同意が先だったのがちょっと意外だった。というかコウは知ってたよねやっぱり、そうだよね??

「ボクもいいよ」

「えっ」

KさんもスルッとOK。いや俺と初めて今聞いたんだよね?え、全部サトリレベルに知ってたとかじゃないんだよね??

「知らなかったけど…楽しそうだし。ボク、バンド好きだからさ。今もキーボードの腕、落ちてないといいけどなぁ」

お願いですKさん。軽率に心を読まないでください恥ずかしいです、というか心臓がもたないです。年齢を重ねて凄みの増した美しさの笑顔を軽率にぶっ放さないでほしい。

「さっすがけい!!」

もう既にアルコールが周り出している敦がビールを一気飲みしてからKさんのOKを聞いたものだからさぁ大変。突然立ち上がった敦は俺の後ろを周りKさんに飛びつくように抱きついた。なんで弱いくせに楽しくなると一気するの相変わらずすぎるていうかいちゃつき出さないで!

「けーのキーボードまた聴けるんやぁ…うれしいなぁほんまに、愛しとるでぇ…へへ」

「ふふっ、ほーら、ボクもアツシのこと愛してるよ?当然じゃない。でももうちょっとお話頑張れる?ボクの可愛いアツシ」

うっわ、にゃんこ全開…いや、真面目に考え事している人の隣でいちゃつかないで欲しい、この素直になれば万年新婚相思相愛夫夫(10周年見えてきてるの知ってるよおめでとうだけど今だけはちゃんと考えさせてほしいな…!)と、そんな2人にやれやれと言った雰囲気で首を振って溜息をついているコウが画面越しに問いかける。

『桜介は?どうすんの。』

「俺、は…」

『やりたくねーの?』

片手にプロテインバーまで決め込んでるコウが、ズバッと投げつけてくる言葉の豪速球。背後に重度のいちゃつきカップル背負ってようと関係ないのは国すら違うから温度感が伝わっていないとかそういうんじゃない。相変わらずというか、こういうところがコイツの怖いところ。ほんっと裏表ないのはいい事なんだけれど…まっすぐに、コウの言葉は痛いほどよく響き、鋭いナイフさながらよく突き刺さる。


『お前の声は空白の顔だ。お前がやらねぇなら、この話は叶いっこないわけ。…やりたくねーの?』


俺なんかが、顔。


何度やったって慣れもしないビジュ作って、体型管理もボイトレも全部自己流だけどこなしてながら勉強してってしていた大学時代。しんどくなかったと言えば嘘になる。ほぼほぼ未経験から初めて、けど何よりも大好きで尊くて大切な宝物になった俺たちの「    (空白)」。あの頃からどれだけ経ったって、1秒だって忘れたことはない。沢山のファンの子たちが居てくれて、敦と、Kさんと、コウがいて…


そんなことを思いながら目を瞑ると瞼の裏の暗闇。


なぜだかその奥に見えたのは真っ暗なステージ、鈍く光るマイクがスタンドにただ立っていて、その前に立つ俺。

そして…どうしようもなく胸を掻き毟られるような、想い。


その瞬間スポットライトの焼け付くようなあの感覚が

ステージの熱を、あの時の光を、台風みたいなあの熱狂を全身に感じたんだ。


「やりたい」


また、大人になって変わったけど変わらない俺らを照らすのを


「俺、歌っていいかなぁ…?」


あの頃感じた光が、今の俺たちを照らすのを

見たいと思った。


『はっ!とーぜん!!!』

「サクラの歌、楽しみ。」

「あははっ!!おーすけぇー!!また一緒にやれるん楽しみすぎるわぁ…!!」

俺の歌を、俺らの音を覚えていてくれる人がいるのなら。奏でたい、叫びたい、あの日々と同じぐらい素敵な俺たちの、空白を埋めるナニカになってくれるだろうから。


その時Kさんが楽しげに携帯をいじっていたのを知らない俺は、全力で酔っ払った上機嫌モードMAXな敦に絡まれコウに絡まれていた。携帯を置いたKさんはその様子をみて優雅に美しく、新しい5本目のボトルを開けたところだった。

携帯には空白ファンサイトが表示されており、掲示板に光るのは最新の投稿だったことを、誰も知らない。

"K:こんばんは。みんな、またボクたちに会いに来てくれる?"

そのたった一文に、信じられない数のコメントが瞬間爆発的に増えまくりサバ落ちしかけたというのはずっと後に会長ちゃんから聞いたお話。


____________________


「でもさー、コウはどうするの?ライブ、まだ続くでしょ?」

そう、俺自身はやると決めたし皆も乗り気なのはあったんだけれど、今やメンバーの一人であるコウは超人気バンドのドラマーで今はライブツアー中で海外。今回もテレビ電話での参加である。

「それはなぁ…へへ」

『フラフラじゃねぇか…K飲ませすぎだっての!』

「ボク悪くないよ?可愛いアツシが飲みたいっていうんだから仕方ないじゃない。」

既に酔いどれへべれけどころじゃないアツシと、楽しげにグラスを傾けるKさん。甘やかしすぎだと溜息をつくコウ…いや、俺の疑問は??

「俺の事顔だって言ってくれるのは嬉しいけどさぁ…コウがいなきゃドラムいないじゃん。」

『あー、それは問題ねぇよ。ちゃんと代理見つけてある』

だい、り?測ったかのようなタイミングで扉が開いた。個室の中に入ってきたのは…超ド級の長身イケメン。例えるなら…少女漫画とかに出てくるやる気なしめでダウナーな感じの、格好いい系でモテるけど気づいてない的な王子様ポジ系イケメンというか。一瞬入ってくるところ間違えてるんじゃないかと言いたくなったけれど

「あ、やえ〜?やっと来たんなぁ」

と声をかける敦がいるので間違いなく呼んでたんだろう。…いや、呼んだ本人もう既にべろべろで若干というかもう呂律すら怪しくなりそうだけれども。

「敦兄ちゃん?え、なんかべろべろじゃない?大丈夫??」

『おら!遅せぇぞヤエ!』

「あ、コウさん画面内に…お疲れ様です。ライブ?でしたよね、今日。お疲れ様でした。」

『おう!ライブで疲れるわきゃねーだろ!!!』

「はは、確かに。コウさんがライブで疲れてるとか想像つきませんもんね」

…おう、軽口まで交わして。見た目よりも話すとずっと好青年感が溢れている。なんだろう、なんか一人作画が違うんじゃないかレベルなんだけれど(レベルの違う美貌のKさんは除くこととする)。

もう既に酔っ払いになって俺から再度Kさんに甘え始めた敦は一旦置いといて、再確認。多分俺たち、いや俺は置いてかれてるから…いや、ほんとに。うちの職場でも撮影で見るモデルさん顔負けなレベルのイケメンくんなんだけど何方様??

『あ、桜介、K。コイツは敦の親戚で篠宮八重、八重桜の八重って書く、もちろん野郎な。俺と敦が仕込んで試験もクリアしたから叩ける、それは保証する。俺の代理ってのはなんなんだが、サポートドラムってことで今回入れることにする。』

いつの間にか敦とコウの2人で試験をしそれを乗り越えたらしい八重くん。コウと敦の太鼓判を押したドラムのテクニックがあるのなら、俺に異論はないしな…ってか会ったことないっけ?このイケメンくん。どこだったか…?あれ、まぁいいか。とりあえず人として挨拶ぐらいちゃんとしなきゃな。

へべれけな敦と会話しながら上着と妙に大きめな荷物を隅によせる背中に

「あ、あの」

声をかけるとその動きが止まった。そのままこちらに顔を向ければやはりイケメンくん。背も高いなぁ…俺が座ったままだからとかじゃない気がする。え、長身イケメンってすごい。ってそうじゃなかった!こちらを向いてくれたから座っていた位置から少しだけ彼の方に寄って握手しようと手を出しながら続ける。え、でもなんかこの子目が座ってない?…気の所為?

「俺は藤浪桜介。元々このバンドでサクラって名前でベースとボーカルやってます。どうぞよろし…」

言葉の最中にガッと両手を掴まれる。は?そのまま妙に優しげなけれど勢いよく手に頬ずりをされる。え、なになになになに!?!?


「あぁぁぁぁあ!これが憧れの生サクラさん…この肌のキメ、完璧なメイク映えする整った顔立ち…ああああ5年経っているとも思えない流石すぎる美しすぎるメイクしたすぎる!!俺の手で仕上げたいああああもうアイデア溢れて止まんないこれは無理生サクラさん尊すぎるマジで神…!!!お願いしますサクラさん、俺のモデルになって下さい!!!!!」


恍惚とした表情すら絵になるのは顔のいい奴の特権というか美の無駄遣いなのか…え、何この子こわい、今のあれを恐ろしい勢いの早口かつノンブレスで言い切ってから俺の手を掴んで離さずそのまま超至近距離で見つめてくる。目がやばいやつのそれなのに顔の良さで押し潰してくる無理怖い!!!

場の空気が固まり、酔っ払い甘えたにゃんこモードONだった敦すら真顔でこちらを見ている。一人海外で落ち着いているコウばかりは欠伸をしながら

『あのバカ…ふぁ、落ち着けって言っても効かねぇわなぁ。』

と呟いているし、Kさんは相も変わらず何もかも見透かしたように微笑んでいるし。いやお願いだからどうにかして…この子を止めて???

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空白の八重桜 AOI @ryutan_yuki

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