第27話鬼の章其の弐


「鬼って…。確かに私は霊は見えるけど…お祓いとかは出来ないよ?」


 正直に答えた。

 お祓いなら楪さんや、明さん、久我さん達の方が頼りになるだろう。

 本当ならその手の専門家が知り合いにいる、と紹介する所だが、初対面の私に対してこの試すような行動をするような人をあの人達を紹介したくないと思ってしまった。


「アンタ、数日前、〇〇市の廃工場に居ただろ?」


「…何のこと?」


 身に覚えのある場所を海堂くんは鋭い眼光で私を睨みながら言った。それに対して私は思わず身がすくみ、咄嗟に誤魔化してしまった。

 

「あの廃工場、よく俺のダチが集まったりするんだけど、数日前その廃工場に俺、行ってたんだ。」


「!?!?」


「あの日はたまたま俺が先に着いて、他のダチを待っていたんだが、そこにアンタと他二人が入って行くのが見えたんだ。」


 まさかあの現場に人が、ましてや同じ学校の同級生がいるだなんて思わなかった。


「アンタのことは…まぁ、知っていた。だからアンタ達の後を着いていったら、とんでもない喧嘩をしてるモンだから驚いちまった。俺は霊とかそう言うのは自分の目で見ない限り信じないタチだが、廃工場でのあの光景は俺の人生観を変えちまうくらいに衝撃的だたぜ?」


 海堂くんの話は、あの現場にいたことを証明するのに充分だったし、色々ツッコミどころがあり、私は呆然とするしかなかった。


「それで私を呼び出したの…?」


「そーいうこと。」


「だとしても、さっき言った通り私は見えるだけでどうこうできないよ。」


「一緒にいたおっさんともう一人いただろ?そいつらは?」


 あの廃工場の戦いを見たのなら、明さんや久我さんの存在について言及するのは至極当たり前なのだろうが…。


「…ごめんなさい。今の状況であの人達を海堂くんに紹介するのは…何というか…まだ怖い…。」


 自分でこんなことを言うのはどうかと思うが、私は何か頼まれればその場で二つ返事してしまうタイプたっだ。

 しかし、久我さん達と知り合って、少し変わったと思う。

 だって、今、目の前にいる海堂くんに久我さん達を素直に紹介したくないと思ってしまっているのだから。

 私の存在意義を見出してくれたあの人達を、あの場所を、私が信用していない人に踏み荒らされたくない。


「…。」


 私の返答を聞いて、黙ったまま私を射抜くように見つめる海堂くん。


「(だとしても、ヤンキーさんにこうも睨まれるのめちゃくや怖いです!!!)」


 何か気に触るような事を言ってしまったのだろうか…。だとしたら謝らないと…。

 そう思って海堂くんに謝ろうとしたが、先に海堂くんの方が頭を下げた。


「ワリィ。信用できねぇやつをダチに紹介なんか出来ねぇよな。」


「え!?え!?」


 綺麗に九十度に腰を前方に曲げ、頭を深く下げて謝意の言葉を述べた海堂くんに驚き、何を言っていいか分からず戸惑ってしまった。


「と、とりあえず頭を上げて…!話だけなら、私が聞くから!」


「…ありがとう。」


 そう言って海堂くんは下げた頭を上げて、経緯を語り始めた。


「俺の母方の家系は、大昔、鬼に呪われてるらしいんだ。それが今でも引き継がれているんだ。」


「鬼か…霊は見たことあるけど、鬼とかのその…妖怪?は見たことないな…。ちなみにその呪いでどう困っているの?」


「生活して行く上では特にないんだ。…ただ、俺のばあちゃんがそう言うのを信じてるタチで、昔から悪い事が起きると『鬼の呪いのせい』と言って超怯えて、その度に体調崩しちまうんだ…それに…。」


「それに?」


「鬼の呪いは今、俺に付いているらしいんだ。」


 海堂くんはそう言って徐にカラーシャツのボタンを外し、胸元を晒した。


「ちょっ…!!海堂くん!?いきなり何をっ!!」


 異性の肌を見られていない私は思わず視線を逸らした。


「何男の胸元見て恥ずかしがってんだ??ほら、ここ。何かに引っ掻かれたような痣があるだろ?」


 そう言われて、視線を海堂くんの胸元見ると、確かに何か凶暴な小動物に深く、勢いよく引っ掻かれたような拳大程の筋が三本あった。

 しかしそれは後天的についた傷跡ではなく、海堂くんの胸元の皮膚に模様のように浮かみがってる痣なのだ。


「ばあちゃん曰く、これは鬼の目印で、これがあると鬼に呪われてるんだとさ。」


 そう言ってシャツの前を軽く閉め海堂くんは続けた。


「俺、ガキの時に両親が死んじまったから、じいちゃんとばあちゃんに育ててもらってんだわ。でもじいちゃんは一昨年持病の悪化で死んで、俺とばあちゃんの二人っきりになっちまった。

 ばあちゃんは昔から優しくて、作る飯が美味い自慢のばあちゃんなんだ。でも、呪いの存在がどうしても怖いらしくて、じいちゃんが死んだ時も、俺の両親が事故で死んだ時も、呪いの事を思い出して怯えて、体調崩しちまうんだ。ましてや、俺に鬼の呪いが付いてるってなると…な…。」


 そう話す彼は、最初強面で強気な印象だったのがどこか悲しそうに表情を曇らす。


「だから俺は、呪いなんざに負けねぇ事を証明するためにも喧嘩しまくっていたんだけどよ、それが余計にばあちゃんを心配させることになるって分かって、今は足洗って、ダチと愛車で走り回ってる事が多くなった!」


 いや、それもそれで、お祖母様が心配するのでは…?と突っ込みそうになったが、彼なりに大事な家族を思っての行動なんだと思うと言いづらくなってしまった。


「だから頼む雪平!俺に憑いている鬼の呪いを解いて、ばあちゃんを安心させてくれ!」


 そう言って、海堂くんは再び深く頭を下げた。


「そんなに頭を下げないで。…粗方の事情は分かった。そう言う事なら話を通してみるよ。」


 そういうと、下げていた顔を私の方に向け、パァっと表情を明るくなっていった。


「マジでありがとう…!恩に着る!」


 そう海堂くんは感謝をし、また頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代の神嫁は現代の陰陽師と出会いました 樹 梨紅 @itsukiriku30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ