第23話弱った心につけ入る


「…これ、本当にメール送る人いるんですかね…?」



 サイトの画面を訝しげに見る私を見て、明さんは言った。

 

「さっき環も行った通り、心が限界迎えた人って、そう言う怪しいものを怪しいと感じるリスクマネジメント能力が低下するんだよ。タチの悪い占いやセミナー、新興宗教にハマるのはまさにそれだ。でも、それらが全て悪いって訳じゃない。心の拠り所、話を聞いてくれる人物の有無は、人間が生きていく上では衣食住と同じくらいに大切なもの…だと、おじさんは思うよ…。」


 

 そう言うものなのか?

 いやでも、確かに、その理屈だと月山さんのあの申し出にも納得できる。

 大企業のアマテラスグループでサラリーマンしてるって言ってたもんな…。

 きっと学生の私には想像が付かないくらいにお疲れなのだろう…。


 私はヨレヨレに疲れ切ってる月山さんを想像して心の中で労りの意味を込めて手を合わせた。


 

「んで、こう言うのがよろしくない印象を持たれる原因としては、それらを取り仕切る人間の劣悪さよ。多額の献金や執拗な勧誘、押し付けがましい思想…等々…。人を幸せにするどころか不幸にしかねない。話を戻すが、このサイトの創設者はそう言う人間の心の弱さを利用しているんだろうよ。つまり、このサイトはフルイ何だよ。明らかに怪しいホームページにメールアドレス。正気保ててる奴はこれを見て引き返す。そうじゃない人はこのアドレスに送ってしまう…。って感じかな?」


 明さんの推察を、成程…と思いつつ聞く。


「でもおじさん、世の中好奇心の塊…というか、面白半分でこう言うのに手を出す輩は一定数いる…そう言う奴らにも呪術を教えてるのか?」


 久我さんは明さんにやや怒りまじりに疑問を呈した。


「環はまだまだお子ちゃまだね〜。これを作った奴はは、金さえ貰えればそんなの関係ないんだよ。それに桑島さんの様子を聞いて分かるだろ?。中途半端な心構えで術を使うと、使用者に大きな反動が返ってくる。イタズラ半分で使った奴らはきっと痛い目あってこう思う。『無かったことにしよう』ってな。」


 明さんは慣れた手つきで煙草を取り出し、火をつけた。



「気分が悪い…。外の空気を吸ってくる…。」


 眉間に深い皺を寄せ、不快そうな表情全開にして久我さんはどこかに行ってしまった。



「…〜ふぅー。環もまだまだお子ちゃまだな…。」


 煙草をふかしながら明さんはそう呟いた。


「明さんのタバコで気分を害したんでしょうか…?」


「っはははは!そうきたか!流石みっちゃん!!」


 私の一言がツボに入ったのか、明さんは大笑いをする。



「環がへそ曲げたのは、好き勝手に術を使う輩に対してだよ…。今更俺の煙草でヘソは曲げないと思うぜ?」


 あいつの受動喫煙歴は折り紙付きだから〜と続けて揶揄うように言う明さん。


「みっちゃんはさぁ、アイツの術についてどこまで聞いた?」


「久我さんのですか?えっと、陰陽術は使えるけどそこまで…みたいな?」


「まぁ、そうだね。言葉を選ばずに言うなら、素人に毛が生えた、いや生え始めた程度の実力が、今の環の実力だよ。チビの頃から今の今まで修行を続けてその程度でしか術は使えないんだよ。」


 何か思い出すように遠くを見ながら煙草を深く吸い、煙を吐き出す。


「それが、あぁ言うふうになるのになんの繋がりが?」


「みっちゃんも本条さんと同じような考えだね。…まぁ俺もそうなんだけどさ、金の無いやつが金に不自由せずに生活してる姿見たら、少なからず羨ましいと思うだろ?」


「はい…。」


「つまり、そういう事。血が滲む程の努力を積み重ねた上で手に入らない力を、そうじゃ無い奴らが好き勝手してる事実を知ったら、気分悪くもなるだろうさ。まぁ、ここで俺やみっちゃんに当たり散らさずにこの場を去ったのは、まだ頭に血が昇り切る前に…って感じだな。本当、難儀な甥っ子だよ。」


 そう言いながら、明さんはスマホをいじり始める。


「叔父さんなのに少し冷たく無いですか…?」


「だからだよ…俺はアイツの叔父でもあり、師匠でもある。そして同じ男だから分かるんだよ。ここで俺がアイツに怒ったり、同情なんかしたら、アイツの今までの努力を否定することになる。だから、ここは一人の甥っ子であり、弟子であり、同じ男であるアイツの選択を信じることにしてんのよ。」



 男同士の友情って奴よ。とニヤリと笑う明さん。


 その様子を見て私は少し羨ましく思ってしまった。

 これだけの信頼関係を築ける人と出会うことに私は少し嫉妬を覚えてしまった。



「ちなみにだけど、アイツが管理してる護符、あれ、本来なら式神を召喚するための護符なんだぜ?」


「式神?」


「そーそー。陰陽師の使い魔…みたいな奴らのことなんだけど、環の霊力が弱いせいで、作りは完璧なのに護符は式神を出せずに、ただの効果覿面なお守りとなってる訳。みっちゃんのそれも、製作者の環の霊力を一定量流せば式神出せれるよ〜。」

 

 そう言われて首から下げてるお守りを見た。


「これ、そんなに凄い物なんですね…。明さんも式神出せれるんですか?」


「もちろん。あ、でも、ここでは出せれないかな〜。相談所が吹っ飛んじゃうから。」


 そう言ってスマホ片手に気まずそうに笑う。



「っよし。みっちゃん、今度の金曜夜、空けといて〜。」


「え?あ、はい。何かあるんですか…?」


 突然、明さんからの予定確認に思わず身構えてしまう私。

 いじっていたスマホを置き、再度煙草を大きく吸い込み、煙を吐き出す。



「ちょっと、未成年を補導しにね。」




 

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