第12話残ったものは.....
エツさんの悲痛な最期を見届けた私。
大切だと思っていた、双子の妹によって人生が終わってしまった。
見捨てられた悲しさよりも、たった一人の男と添い遂げるために、双子の片割れである自分が、見捨てられたという事実の方が悲しいし、悔しいし、辛かった。
しかし、エツさんの過去が分かっても、
そう思ってるとまた映像が流れ込んできた。
恐らく先ほどの災害から幾ばくか時間が経過したのであろう。
気がつくとエツさんはあの川にいた。
周りは綺麗に整備されてり、自分が死んでからだいぶ時間が経ったんだと分かる。
そして恐らく今の自分の姿は誰にも見えてないようだ。
周りのものも触れない。
しかし、時折犬や小さい子供とは目線が合う気がした。
今の自分は所謂、幽霊なんだと理解した。
ふと、自分の家族がどうなったのか気になった。
母さんも父さんも避難していたからきっと大丈夫。
敬ちゃんもあの時助け出せれたからきっと大丈夫。
あとはハツさんは…。
色々考えると居ても立っても居られなくなった。
川から離れ、かつての実家の場所に向かうがそこは更地となっており、処分仕切れなかった瓦礫が積まれており、コケや雑草が覆っていた。
それを見るだけであの災害からどれだけの時間が経ったのかと思うと胸が苦しくなった。
さらにあたりを散策るすと割と新しめの家が見えた。
中を覗くと老夫婦と一人の青年が暮らしていた。
「敬三、苗に水やりは終わったんか?」
「やっといたよ。親父は無茶しないで休んでろよ。」
親父、敬三。
そう呼び合う二人を見て敬ちゃんと父さんなんだと分かった。端の方で黙々と台所しているのは母さんだと理解した。
三人とも無事でよかった。
敬ちゃんも背がずいぶん伸びて、立派になっていて思わず嬉し泣きしそうになった。
「ただいま戻りましたぁ〜。敬三さん。山菜沢山取れましたよ〜。」
玄関の方から若い女性の声がした。
覗いてみると、背に赤ん坊を背負った女性がいた。
「ミチ、お疲れ様。おぉ!こんなに沢山ありがとうな!ヨシエもありがとうな。」
敬ちゃんがそう愛おしそうに女性と赤ちゃんを見て、ハッとした。
そうか。あんなに小さかった敬ちゃんがもうお父さんなんだね。
生き延びた上にその後もしっかりと成長して、ちゃんと家族を作って、守ってる。
あの時、私が命懸けで助けた子はこんなに立派になったんだ。
そう実感すると嬉しさのあまり涙が溢れてしまった。
今の自分は幽霊だからこんな姿は見せずに済んだが、立派になった弟を褒めることはできないと思うとやるせない気持ちが出てきた。
そう弟夫婦を見つめてると、背負われていた赤ちゃんと目が合った。
赤ちゃんはしきりに私の方に手を伸ばし、あうあうと何かを言ってるような気がした。
そんな赤ちゃんに気づいた敬ちゃんは、赤ちゃんが手を伸ばしてる方に視線を向ける。
一瞬だが、目があった気がしたが、気のせいだった。
「なんだぁ〜?あっちにいいものでもあったのかな?」
そう言ってまた我が子をあやしだした。
そうだよね。気付くはずないおね。
でも、三人、いや、四人が幸せそうにしてる姿を見てエツさんは安心したのだろう。
そんな感情が同じ光景を見ている私にも流れ込んできた。
あとは、ハツさん…。
場面が切り替わり、今度は立派な屋敷が映し出された。
屋敷にの表札には達筆な文字で「守屋」と掲げられていた。
屋敷の中に入り、庭の方を見ると子供が遊んでる姿が見えた。
その子供を縁側で見守ってる女性の姿が見え、直感で分かった。歳をとって大人びているがハツさんだ。
ハツさんの後ろの一室では何か書物してる十代そこらの少年の姿がいた。
その少年の見た目はあの時憧れていた浩司さんによく似ていた。
「ただいま…。」
玄関の方から声が聞こえた。
その声を聞いたハツさんは表情明るくして、玄関に向かう。
帰ってきたのは中年くらいの男性で上品さがある人だった。
「お帰りなさい。浩司さん。」
「あぁ。」
浩司さん。若い頃も素敵な青年だったが、大人になった今、髭を生やしているが綺麗に整えられ、上品な大人の男性になっていた。
そんな旦那様を持つハツさんは甲斐甲斐しく、外から帰った来た浩司さんの身支度に精を出すが、浩司さんの方は興味なさそうな様子で自室に入る。
エツさんの知るあの優しげな浩司さんとは全く別物だった。
「…今日、墓参りに行ってきたよ。」
「…そう、ですか…。」
先ほどからあんまり喋らなかった浩司さんが唐突に話だす。
浩司さんの外着を整えながらハツさんは返事をする。
「……
そう言いながら浩司さんは冷たい視線でハツさんを見る。
「安心してよ。この事は墓までもって行くから。なぁ。
そう言い残して浩司さんは部屋から出て行った。
「どうして……!!」
そう部屋に残されたハツさんは静かに呟き泣いた。
そう。浩司さんは気づいていたのだ。
しかし、色々な事情があったんだろう。知らないふりをしてハツさんと添い遂げたのだろう。
また場面が切り替わり、今度は年老いた老婆が床に伏せていた。
「…ごめんなさい…。ごめんなさい…。」
シワだらけの顔にしゃがれた声ではあるが、老婆のハツさんだと分かった。
その様子は、先ほど守屋さんから聞いた様子そのままだった。
きっと、高齢による認知機能の低下でありとあらゆる物の判断がつかなくなっていても、最期の最期は【あの事】を後悔してたに違いなかった。
ハツさんは最期の瞬間まで後悔し続けて亡くなった。
妹の死を見届けたエツさんはもうこの世に未練はないと思っていた。これで成仏できると思っていた。
しかし、後から気づいたことがあった。
表面上、亡くなったのは妹のハツさん。よって、エツさんに対する供養が一切合切されなかったのだ。
これでは成仏したくても出来ない。
どうしたらいいものかと、またそれから数十年、あの川で彷徨い続けていた。
ある日の夜。
普段人通りが全くなく深夜の橋に一人の女性が川を眺めながら佇んでいた。
エツさんはそのまま様子を見ていると、女性は靴を脱ぎ、欄干の上に登り立ち上がった。
危険なその行為にエツさんは、誰か来てくれないかと思いあたりを見回す。
しかし、こんな深夜に誰も通るはずがなかった。
そうして行くうちに女性は川の方に体を傾け、投身しようとしていた。
幽霊の自分では何にも出来ないと思いつつも、咄嗟に女性に飛びついた。
何ができるわけじゃない、どんな事情があるのか知ってる訳じゃない。
でも、この川で妹に見捨てられた自分の目の前で死ぬことは許さない!
この人をここ死なせるわけにはいかない!
そんな事を強く思いながら飛びく。
すると不思議な事に今まで、人や物質に触る事が出来なかったのに目の前の女性の衣服を掴むことが出来き、投身自殺を止めることが出来た。
結果、霊のエツさんは、赤井さんに取り憑いたのだ。
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