第10話出来ること


 私は彼女の言葉を聞き入れた瞬間、久我さんの方を見た。

 久我さんも何か驚いた表情を浮かべてた。


「驚いた。霊は見たことはあるがここまでハッキリと声を…。」

 久我さんにも聞こえたようだ。


『お願い。あの子を止めて…。』


 再び彼女の訴え始める。


「あの子って誰…?あなたは一体…。」


 先程から彼女が繰り返している『あの子』とは…?


「おそらく赤井さんのことだろう。」

 久我さんの声が降りかかる。



「赤井さん…?あ、ところで彼女がなぜ赤井さんについていたのが分かったんですか?」


 先程の彼女への質問に真っ先に赤井さんとの関係に切り込んだのが気になっていた。


「…時間がない…そろそろ赤井さんとの約束の時間だ。移動しながら説明しよう。」

 腕時計を見ながら久我さんは歩き始めた。

 私もよろめきながらも久我さんの後についって行った。

 


「実は彼女、守屋家のみならず、赤井さんが事務所にいた時にもついて来てたんだよ。」

「え?それってどういう…?」


 まさかの事実に驚かされる私。

 後ろをには着物の彼女がいて首を縦にふる。


「君が来る前に俺は彼女の存在は認知出来ていなかったが、君が事務所に来た瞬間、君の霊力が俺にも流れてきて彼女が見えたのさ。

 だから、赤井さんの案件が霊がらみで、その後に君との視覚共有もスムーズに出来たんだよ。」


 久我さんはそう説明してくれた。


「なるほど。…あの、その説明なら久我さんは普段、霊が見えてないってことなんですか…??」



 私の質問に久我さんの顔が一瞬強張ったのが分かった。


「あぁ。そうだよ。俺は一般の人と比べれば多少霊力があるぐらいで、陰陽師としては落ちこぼれなんだ。だから知識だけは詰め込んだ。俺にはそれだけしか出来なかった。


 そう言う久我さんの横顔は何か覚悟をしたような顔をしていた。

 この人はきっと何か重いものを背負っていて、それを成し遂げようとしてるんだな…。


 でもその何かを私が知る日が来るかは分からないけど、私はこの人の力になりたいと思った。




 歩くこと十分。依頼者の赤井さんが住むアパートに到着した。

 見た目は綺麗に整備されており、玄関と郵便ポストが四つあることから、この一棟に四部屋あるアパートだと分かった。


 赤井さんの部屋は二階にあり、該当の部屋番号のインターホンを押した。


 『はい。』

 インターホンの向こうから女性の声が聞こえた。赤井さんだ。


「すみません。久我相談所の久我です。」

 そういうと『今行きます。』と言いすぐに玄関が開かれた。


「こんにちは。狭いですが、どうぞ…。」

 赤井さんはそう言い、私たちを中に招き入れてくれた。


 赤井さんの部屋はワンルームではあるがそこそこ広さはあり、綺麗に整えられていて、一人暮らしする女性らしい部屋だという印象だった。


 部屋に招かれた私達は赤井さんに指定された場所に座った。

 赤井さんは私たちに出すお茶を台所で用意し始めた。


 

「あ、お構いなく。早速なんですが、昨日お渡しした護符の効き目はいかがでしょうか?」


 用意したお茶を私たちの前に置いて行ったのを見た久我さんは早速本題に入った。


「はい。お陰で昨晩はゆっくり眠ることが出来ました。」


 赤井さんはスッキリしたかのような顔でそう言った。


「それは良かったです。こちらとしても今回の件は解決の糸口が見えてきました。」

「それは本当ですか!?」


 赤井さんの表情が明るくなった。


「はい。その為にもあなたが何故彼女に憑かれたのか見ていこうじゃありませんか。」

「見る?」


 久我さんはそう言うと赤井さんは不思議そうな顔をして、説明が欲しそうな顔で私の方を見た。

 いや。私も分からないんです。


「とりあえず、赤井さんと私との間に、この助手の雪平を置き、彼女の手を握ってください。」


 あ、私の今のポジション、助手なんですね。

 そう自分自身を納得させ、他にも蝋燭やお札の準備があると言って久我さんの荷物から色々と小物を取り出した。


 私と赤井さんは久我さんの指示に従い道具を配置し、私達も指定の配置についた。


 部屋のカーテンを閉め切り、私たちを囲うように蝋燭を立て、火をつける。蝋燭の火特有の匂いが鼻をつく。

 

 私の片手を赤井さん、もう片手を久我さんの手を握り、三人が繋がるような配置となった。

 いい大人が何してんだ?と内心思ってしまった。


「では始めます。」


 

 そう言って久我さんは何か書かれた札を使い、お経らしき呪文を唱え始めた。

 その雰囲気に赤井さんはただ黙って手を握り目を瞑っていた。

 久我さんが同じ呪文を繰り返し唱えると、私の目の前にあの着物の女性が現れ、私の額と自分の額をくっ付けてきた。


 その瞬間、眠気に襲われるように意識が薄れる感覚に陥るが、それと同時に何かの映像が頭に流れてきた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「…ちゃん…ねぇちゃん!エツねえちゃん!」


 四、五歳くらい…いやそれよりも小さい男の子かもしれない。

 その子に名前を呼ばれ映像がハッキリと流れてくる。

 

 ふくふくとした頬を『私』の足元にくっ付けて甘えてる姿に愛おしさが湧いてくる。


「なあに敬ちゃん?」


 見ず知らずの少年を慈愛に満ちた声で名前を呼び、優しく頭を撫でる。


 しかし、それは『私』の意思ではない。

 きっとこれは『エツ』と呼ばれる子の記憶を見せられてるのだろう。


 私はそう思い映像の続きを見ることにした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る