お願い

十分前のことだろうか。自宅兼作業場のポストにと雑に投函された封筒は、筆がとまっている私にとっては注意を惹くには十分すぎた。



音で何かが投函されたのに気づいた私はついさっきまで行っていた作業を中断し、のそのそと、音がした自宅のドアへと向かった。およそA4三つ折り分サイズ茶封筒をポストから取り出し、たいして確認もしないまま作業机に戻る。




封筒の蓋はのり付けされているので、今の私から見てやや左にペンと一緒に窮屈なくらい詰まっているペン立てからハサミを取り、中身を取り出し読んでみると。中身には、ファンと思しき人物が私の作品を読んだ感想が丁寧な字で書かれていた。上の方だけ見ればただのファンレターにも乏しいものだったが、そうでもない。

(お願いかぁー…、今は忙しいしファンとはいえ見知らぬ人だからなぁー...)

(興味が沸く話だけど今回は縁がなかったとゆうことで…)

私は、SNSを開き封筒に書かれていたIDを右上の検索ボックスに入力する。



一人のアカウントがヒットした。

ホラーとミステリーが好きな浅川



ホラーとミステリーが好きな浅川と名乗るアカウントが出てきた。おそらくだが、封筒の主はAと名乗っていたのできっと浅川が本名なのだろう。

しかし、何気ない投稿で名前から仕事まで特定できるこの時代に本名らしきものをユーザーネームにするのはどうかと思うが。

ユーザーネームにマウスのカーソルを合わせクリックする。

カチッと音がなったおよそ1秒後、モニターの画面がパっと浅川さんのプロフィールに切り替わる。

投稿の欄を見ると最新の投稿は7月15日のようだ。


(今日の日にちは…)


パソコンの右下にあるカレンダーに目を向けると日付は7月21日になっている。

(最後に家から出たのいつだっけ...)

執筆作業に集中しすぎて時間にまで気が向いてなかった。

私の自宅兼作業場は作業に集中するためにいつも黒いカーテンを閉めているおかげか、時間を忘れることが多い。いつもお世話になっている出版社の編集者からは『たまには外に出てください』と言われているが、外に出る理由が大してないので別にいいのでは?と思う。


(一番新しい投稿は…、おっこれか)


最新の投稿を見つけると最近ウェブサイト発のホラー作品の紹介文が書かれていた。


ウェブ小説発の現代ホラーミステリー!。


動画投稿サイトでホラー系の動画を投稿している、ホラーさん。本名佐藤漣は、夏の特別企画として、恐怖体験をした視聴者さんとその場所を訪れるという企画を開いた。そこで視聴者のBさんの話をもとに恐怖体験をしたと言う場所に訪れ、動画を投稿した後その動画を見た視聴者達が不快感を覚えたとコメントが来る。

その謎を調べるために、その場所の調査を始めると...



「引き返すなら今しかない」



ぜひこの期に本を手に取り、この動画の異常性を当ててみてください。




そんなことが書かれていた、どうやらAさんのアカウントは一定数ファンがいるらしく、フォロワーは約4万人、この投稿には6800個ほどハートが付けられている。


(本題に戻ろう...)。そう思った私はメッセージのアイコンをクリックし、手短に断りのメールを書いた。




「申し訳ありません。現在執筆作業中なので、Aさんのお願いに力を貸すことは難しいです。」

「なので今回は縁がなかったということでお願いします。」




(これならまぁAさんもあきらめるだろう。)

簡単な断りの文を書いてAさんに送った後、興が冷めた私は、SNSのタブを閉じ、まだプロットすらままならない、メモ帳を開いた。



4時間ぐらい経っただろうか、新作の進行速度は相変わらずで全く進む気配がしない。

のどが乾いた。


体が水分を欲しているので台所にある冷蔵庫の中から麦茶でも取りに行こうと思い、自炊もあまりしないのでとくに食材も入っていない、一人暮らし用の冷蔵庫から作り置きしている麦茶の入ったポットを取り出した。麦茶をコップに移し、飲みながら机に戻ると、ふとスマホの画面が発光してるのがわかった。どうやらAさんから返信が来ていたようだ。



「お返事ありがとうございます。」

「なるほど、お力添えは難しいですか。では先生、こうゆう提案はどうでしょうか?

私にお力添えをしていただいた暁には今回の出来事を脚色を加えたうえで先生の作品として、書いていただいても構いません。これなら、先生側にもメリットがあると思うのですかどうでしょうか。」


そんな返信が返ってきた、私は驚愕した。自分の友人の話を作品にしてもいいなんて、正直このAさんと語る人はだいぶ怪しい人間だと思ったが、こうも私は考えた。

このお願いはもしかしたら、私を釣るために作った作品なんじゃないかと。さっき、だいぶ怪しいとは言ったが、筆が全く進んでいない私からすれば正直、魅力的な提案ではある。


好奇心は猫をも殺すと言うが、こんな非現実的な話なら、一端の小説家である私は創作だと勘ぐった。創作なら新し作品のアイデアをもらえると思ったし、もしこれが本当の話なら適当な理由をつけて断ればいいと思った私は、この悪魔の取引的なものに手を貸したくなった。



私は無意識的、いや自分の意志で気がつくとキーボードに手が伸びていた。




「確かに興味が沸くお話ですね、少しお話を聞かせてもらえませんか?」


送信ボタンを押し、送信する。

すると、ものの数分で返信が返ってきた。



「二度の返信ありがとうございます。」

「つまり、この話に乗ってもいいとゆう認識でよろしいでしょうか?」


「はい、もし本当に私がこの話を次作のアイデアとして使ってもいいならですけどね」


「えぇ、もちろんです。」


「なるほど、じゃあ少しだけなら。」


「ちなみにですけど呼び名は何と呼べばいいですか?」



「Aでもこのアカウントの名でもどちらでもいいですよ。」




「なるほど、では今後もAさんと呼ばせていただきます。」



わかりました

では、連絡は後日行うのでその時に概要を追って説明します。

では○○先生もお体ご自愛下さい。






短い会話が相手側から打ち切られた後、わたしはまるで原稿を書き終えた後かのような達成感とどっと疲れた様な気持ちが溢れてきた。

(さぁ、Aさんが作る世界を見せてもらおうかな...)

正直に言って、Aさんが作る世界をではなくとして楽しみにしている自分がいた。

そんな期待を胸に、疲れた体をベットへ運び今日はそのまま眠ってしまった。















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共同作業 猫サカナ @nekosen22

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