第3話「急襲」

 「敵襲だ! 全員戦闘配置につけ!」


 カレッジの声に全員が武器を取り出して辺りを警戒する。ティムは張りかけたテントを急いでしまい、装甲車に乗り込んだ。


 「皆さん早く車内に! 機銃で応戦するので避難を!」


 ティムの声に次々と隊員は装甲車に入って行った。


 「逃げながら迎撃しましょう! きっと野盗のはずです!」


 「ルカ! 先行してくれ!」


 アドナがルカに声を掛ける――だが。


 「っ……!?」


 急いで出したルカのサイドカーに銃弾が掠る。なんとか負傷は避けられたが、ルカは装甲車を置いて逃げてしまった。


 「おいルカ! どこへ行くんだ!」


 アドナが呼び止めるも、ルカのサイドカーはすぐに闇夜に消えてしまった。


 「畜生……アイツ逃げやがった!」


 「おい指揮官! 全員乗ったか!? 出すぞ!」


 銃座に移ったティムの代わりに、アドナが装甲車を操縦し始めた。装甲車が轟音を出しながら山道を前進し始める。


 「敵はどこだ……?」


 ティムが銃座のM2重機関銃を構えて辺りを見回す。猫の変異を成したティムの目は暗闇を苦にせず、夜でもくっきり見える。


 ――今まで聞いたことのないエンジン音を耳が察知し、そこに銃口を向ける。


 「見つけた!」


 いたのは複数のバイクに乗った野盗だった。横の林から装甲車目掛けて突撃してくる。彼らは銃を構えると、走行中の装甲車に銃撃を加え始めた。


 「やめろ! 僕の愛車を傷つけるな!」


 ティムはトリガーを押し込む。重機関銃の圧倒的な弾幕により、野盗は一瞬でミンチと化した。


 しかしまだ追手が来ている。まるでハイエナの如くしつこく追跡していた。


 「やれ! ティム撃ちまくれ! 装甲車に近づけるな!」


 アドナの叫びを聞いてさらに野盗に12.7mm弾の弾幕を浴びせる。これには野盗たちもたまらず退散していった。


 「ふぅ……なんとかなった……」


 ホッとため息をつくティム。しかし――その刹那。


 「うぐっ!?」


 「ティム!」


 ティムの片腕から鮮血が流れる。ティムはそのまま車内に倒れ込んでしまった。


 「アドナ! ティムがやられた!」


 「畜生! ティム! 死ぬんじゃねぇぞ!」


 「アイリス! すぐ応急措置を!」


 「任せてください!」


 撃たれたティムに代わり今度はカレッジが銃座に着いた。弾が飛んできたであろう場所を推測して銃撃する。


 すると――


(ガキンッ!)


 「キャーッ!?」


 ジュインの叫び声が車内に響く。驚いて車内を覗くとジュインが頭を抱えて屈んでいた。


 「一体何が起きた!?」


 するとアンジェラが冷や汗を搔きながら叫ぶ。


 「カレッジ! 装甲が貫通された! 危うくジュインの頭が吹き飛ぶところだったぞ!」


 なんと装甲車に風穴が空いたのだ。まるで、紙にパンチで穴を開けたような綺麗な円が見える。


 だがいくら戦車に比べて装甲が薄くとも、通常火器で貫通されるほど薄くは無いはずなのに。となれば。


 「対物ライフルか……! これはマズイな……」


 その後も徹甲弾と思われる弾が装甲車に穴を開けていく。カレッジが必死に応戦したおかげで、なんとか攻撃は止まったものの、装甲車はボロボロになってしまった。


 「やばい燃料計が急に下がってきた! 燃料タンクが破損してる!」


 「これ以上走るのは無理だ! どこかで修理しないと……」


 アドナが深刻な顔で操縦席から兵員室を覗き込んだ。


 「ティム、生きてるか?」


 「はい……なんとか……」


 「ティムさん、動いちゃダメですよ! 腕を貫通してるんですから、安静にしないと」


 「ルカとはぐれた以上、下手に動けない……それにこんな山奥に人里なんかあるのか……?」


 全員が混乱していた。たが考える暇すら、与えられなかった。


「っ……!? また来やがった!」


「いたぞ! 装甲車だ!」


「久々の獲物だぜ! 逃がしてたまるかよ!」


 盗賊たちが再び後を追ってきた。アドナは壊れかけの装甲車に鞭を打って走らせた。


「ダメだ……このままじゃ……!」


 ガタガタと異音がする。もう少しでも走らせ続ければ止まってしまうのは明確だった。


 だが――


「ん……? あれは……!」


「おい指揮官よ! 奥に何か明かりが見えるぞ! もしかしたら村かもしれねぇ!」


「なんだって! こんな山奥に!?」


「ええぃっ! 躊躇ってられねぇ! 向かうぞ!」


 アドナは光の方向に全力で装甲車を走らせる。カレッジも追手に向けて機関銃を撃ちまくっていた。


 しばらくして明かりの近くまで行くと、突然盗賊たちが931小隊を追う足をピタリと止めてしまった。


「兄貴どうしたんすか! もう少しでやれたのに!」


「馬鹿野郎……あそこはバケモンどもの村だぞ! 行ったら引き裂かれちまう!」


「しかし……哀れなやつらだ。せっかく助かったと思ってるのに、地獄を見ることになるなんてな!」


 盗賊たちは、嘲笑しながら暗闇に消えていった。


 ――果たして、逃げ込んだ先には何が待ち受けているのか。

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