Side story「大切な、思い出」

 ――ノイズがかかった、誰かの記憶が、ぼんやりと写し出されていく。


 誰の記憶だろうか?いつの記憶だろうか?わからないが、その記憶は段々鮮明になっていく。


 ――エデン自警団本部。


「……」


 若い青年が、銃を整備していた。念入りに銃身の錆を落としている。


「よ、○○○○」


 その青年と同じくらいの年の別の青年が彼に話しかける。だがノイズが乗って、声がよく聞こえない。


「うわっ! おい……ニール、いきなり話しかけないでくれよ。びっくりしたじゃないか……」


「わりぃわりぃ、にしても真面目だなお前は」


「……銃の手入れは命に直結する、いざというときに撃てなきゃ困るだろ?」


「たしかにな、お前らしいや」


 ニールは軽く微笑んだ、それを見て青年も少し笑った。


「2人とも、相変わらず仲良しね」


 穏やかな、優しそうな女性が2人の元へやってきた。


 「クレアか、パトロールお疲れ様。異常はなかったか?」


 「ええ、最近治安が良さそうだわ。インターセプトの活躍もあるのかも」


 「みんなのおかげだろう、この荒れ果てたエデンを保ててるのは」


 「ふふっ……いいこと言うわね〇〇〇〇。確かにみんなの活躍あってだわ」


 とりとめのない、穏やかな会話が続いた。


 「なぁ飯食いに行こうぜ、今日は奢ってやるよ」


 「いいのニール? 嬉しいわ」


 「みんなと行くのは、久しぶりだな」


 三人は共に食堂へ向かっていった。その時、何処かから光が差し込んで辺りが真っ白になる。気がつくと場面は変わり、暗いバラック小屋になった。


 さっきの青年がベットに横たわっている、うさぎのような大きな耳を生やした少女に声を掛けた。

 弱々しく寝ているその子は苦しそうな様子だ。腕に、青白く光る綺麗な結晶が見えた。


 「ミーティア、具合はどうだ?」


 「うん……少し良くなったよ〇〇〇〇、薬……効いたかも」


 ミーティアという少女は無理をして笑った、彼を悲しませまいとしているのだろうか。


 「ミーティア、つらくないか……? してほしいことがあったらなんでも言ってくれ」


 青年は、その子の病弱な体を心配していた。今にも消えてしまいそうな炎を、見守るように。


 「〇〇〇〇……頭……撫でて……」


 彼女の願いを聞いた青年は、ミーティアの頭を撫でた。ふわふわの髪と大きな耳が心地いい。その間にも、彼女の命の火が徐々に燃え尽き始めているのがわかった。


 「〇〇〇〇、私ね、あなたに会えて本当によかった……寂しかったんだよ? だけどね、〇〇〇〇がいてくれたおかげで……生きる理由を知れたの」


 「もういい喋るな、ゆっくり休め。絶対……俺が治してやるから……!」


 「ヵ……r……g……」


 ミーティアの声を遮るように、突然大きなノイズが走った。意識が殴られる、感情の渦が心を飲み込んで……


 「うぁぁぁぁぁ!」


 ――暗闇に、堕ちていった。


 「…………」


 カーテンが閉まった暗い部屋、マスターは目を覚ました。体は汗でびっしょりで、心臓がドクドクと激しく鼓動していた。


 「また……か……」


 「ああクソ……いつまで……続くんだ……?」


 「……もう、忘れさせてくれよ……」


 ――ベットの上には、いつもとは違うマスターが、弱々しく体を震わせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る