補綴 余人安生諸順(ほてつ よにんのあんじょうしょじゅん)
──もしくは誰も知らない想像主の話─前
「勢雄さん!この度は、誠に申し訳ありませんでした!体調が芳しくなかった処を、無理にイベントに出演して下さって…て、あれ?お子さんですか?」
リハビリが終わった談話室。
約束した訳でもないけど、勢雄さんとお話しするようになって二日。
勢雄さんに来訪者のようだ。
お仕事関係の方かな?スーツに身を包んでいる。
「俺は独身だ。こんなガキいてたまるか。コイツは…何だ?」
「失礼だな、ファンデスヨ。あれ?勢雄さん、独身でしたっけ?」
「それこそ、失礼だな。仕事しなくなったら出ていったんだよ。バツイチだ、悪いか」
「……いや、悪くない。
むしろ、御褒美じゃ?」
「はぁ?大概、おかしいな。おまえも」
うわっ!おもいっきり笑顔で答えるよ。
もー!勢雄さんたら!
「あ、コイツ。お前のとこのゲーム、
??ん?
「え?クリス?あの、隠し中の隠し?見付けたんですか?!」
「あれ?え?もしかして【ディムメイカー】の制作者さん?!」
「正確には、会社が製作したんですけどね。凄いなー“クリス”見つけたんだ」
しみじみと言われて、なんとなく誇らしく思ったから、スマホをさわって特設ページを見せる。
クリス様を落とした証拠。
「うわっ!ほんとだ。このページにたどり着いてる!!へえ…いるんだ」
珍獣を見るかのように、見られてる気がするぞ?
「だって、勢雄さんがお声ですよ?NPCなわけないじゃないですか?追っかけ回しましたよ」
「え?もしかしてゲーム中に気がついたの?この間のイベントが解禁だったのに??……あー!!あの時の看護師さん!!この病院ですよねっ!」
「ああ、そうだな。なんてったっけ?アイツの名前」
あたしに聞いてくるので、
「志山さんのこと?今日は非番じゃないかな?」
「そうそう、ソイツ。あー夜勤明けか?」
「えー折角、お礼とお詫びの品を持ってきたのに…出直します」
「俺の見舞いじゃ、ねえのかよ」
「そうでした!」
なかなかドジっこさんなのかな?
───
「嬢ちゃん、コイツは俺の高校の後輩でゲーム屋。俺を昔のうっすい縁で引っ張り出した張本人」
ゲーム屋さんからは名刺をいただいた。
──プロダクションテルル。
ここ数日、見慣れたロゴだ。
「杉田
全霊を込めてお辞儀をした。
車イスだけど。
ん。よくぞキャスティングしていただいた。
「だから、お前は俺の何なんだ?」
勢雄さんの呆れたような二度目の台詞。
「だから、ファンですってば。何度言わせるんですか」
「……ぷっ!勢雄さん、漫才でも始めるんですか?息があってますね」
ゲーム屋さんは、笑いが止まらないようです。
───
「院内ではお静かにお願いしますね」
あれ?
「志山さん、今日は夜勤明けではないのですか?」
「今から帰るのよ。そしたら
もうお昼近いのに、志山さん忙しいな。
「お?良いところに。お前さん、この看護師さんに用事があったんだろ?」
「え?あ、確かに。その節は大変お世話になりました。私、こう言うもので…」
ゲーム屋さんは、名刺と、会社名のロゴの入った袋を渡している。
「心ばかりでございますが、こちらをどうぞ、お使いください」
「こういうの、受け取れないんですけど…」
「存じております。けれど、先日のイベントで、お客様全員にお帰りの際、配布したグッズをお渡しできてなかったと思いまして…」
「そうだ!!忘れてた!お土産があったんだ!そういうことなら、ありがたく受け取らせていただきます」
がさごそと、袋の中を物色する志山さんの顔色がみるみる歓喜に変わる。
良いなあ…と、思うけど、こればかりは仕方ない。
後で見せては貰おう。
「はい、これ」
志山さんが、クリス様の描かれたクリアファイルとアクスタを渡してくれる。
「え?良いんですか?」
「もちろん、こういうのはね、好きな人の元にあるのが良いのよ。わたしはこっちがあれば良いから」
と、セイレン様のグッズを見せてくれる。
きっと、あたしと志山さんの顔は、デレデレだと思う。
「涎、垂れてんぞ」
「「垂らしてませんっ!」」
勢雄さんの軽口に、志山さんとのシンクロ率百パーセントで答える。
「ねえ、志山さん。他のも見せて」
「どうぞ」
あたしたちって、ホント、メルクリオス家に全振りしてるけど、主要キャラではないのよね。
志山さんから、袋を受け取って他のキャラを眺める。
ん。この絵師さん、やっぱ素敵だわ。
クリス様が一番素敵だけど。
「凄いですね、このアクスタ。ちゃんと石が埋め込まれてる」
「気がついていただけましたか!」
「「なんのこと?」」
今度は、勢雄さんと志山さんがシンクロしてる。
「攻略キャラには、それぞれ石があって、プレゼントされる物についてる…て!志山さん…集めてないんですか?クリス様以外の石を集めなきゃ、セイレン様エンド、見られませんよ?」
「え?世界の経済を破綻させ、貧民街を出現させ、彼と出逢い、交流し、貧民街から連れ出し、教育を施し、紳士として洗練、の他に、まだやることあったの?!」
「石集めて、真ん中の街、“テルル”を発現させなきゃ、ダメですよ」
と、あたし。
「あーだから、俺が息子を“テルル”で見付けるのか」
と、勢雄さんが続ける。
「え?え?なんのことです?“テルル”って。真ん中の街に正式な名前はありませんよ。開発段階でそう仮称してましたけど?」
ゲーム屋さんが、不思議そうに言った。
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