余談──志山 風花
志山風花。
二十四歳、看護師。
それが私。
結婚を約束した恋人がいて、
仕事にも遣り甲斐があって。
恋人いるけれど、まあゲーム位は勘弁して。
昔から大好きな声優さんがCVだし。
ヴィジュアルもイケてるし。
浮気とは違うからー!
貧民街の荒んだ目の不良少年。
なんて、現実でお会いしないでしょう?
非現実を楽しみたいのよ。
現実の不良なんて、近寄りたくもないわよ。
マルチシュミレーションゲーム【デイムメイカー】
その登場人物の一人、セイレン・メルクリオスに私は夢中になっていた。
そんなある日、夜勤明けのフラフラした頭で難攻不落のセイレン様のお近づきになるべくゲームをしながら寝落ちした。
夢の中だ。
情報サイトで見ただけのクリストファー・メルクリオスが目の前に居た。
隠しキャラで、セイレン様とのベストエンディングを迎えないと存在さえ出てこないキャラ。
調べた時よりえらく若い気もするけど、イケメンだから良しとする。
と、云うか私は男の子?
ラウノ?ダレソレ?
聞けば、三歳になる一人娘の遊び相手になって貰えないかとのこと。
メルクリオス家の娘?
メルクリオス家にいた女の子は、生まれてすぐに死んだ筈では?
セイレン様の手に掛かって。
合点はいかないけど、夢の中だし、イケメンのいうことだし、二つ返事でOKした。
に、しても。
赤毛ソバカスの容姿って、いかにもモブ臭漂うわね。
あれ?セイレン様って、この子殺さなかったっけ?
名前は無かった筈だけど、見覚えのある姿にちょっとだけぞっとした。
セイレン妹は普通に可愛かった。
産毛のような銀髪に、深緑の瞳。
……転生者ですと?
そんな、ラノベみたいな。
あ、私もか。
幼い時の不注意の怪我を気にして、明らかにセイレン様に兄以上の感情を抱いている。
セイレン様も妹以上の感情を抱いているのだろう。
そして。
筋書き通りに、セイレン様に殺されて目が覚めた。
夢見の悪さはセイレン様に会ったことで帳消しにすることにした。
した、筈だった。
私の担当する患者さんに、意識不明で運ばれて二週間になる佐東仁美さんがいる。
アルコールの過剰摂取と、いうことだけれど、アルコール中毒かというと、少し違う症状。
その日、佐東氏の病室を訪れると、ベッドの横の辺りがキラキラとしているのに気付く。
陽の光というよりは、ライブでメタルテープが飛んでるみたいな人工的なキラキラ。
はい?
CGのような青年がホログラムの様に揺らめく。
ここ、病室だよね?
……ってあれ?
「セイレン様?」
この顔はセイレン様だ。
私がよく知るセイレン様とは髪の色が違うけど。
暗く俯いていた青年の瞳だけが此方を向く。
『誰だ?』
頭に声が直接響く、けれど。
「銀髪のセイレン様が成長してる?なんで?」
自分の疑問ばかりが口を着く。
セイレン様は苛立たし気に眉間に皺を寄せる。
おおっ。その目はまるで紅い髪のセイレン様のようですぜ。
『何故、僕の名を知っている』
うーん…昨日のあれは、夢ではなかったと云うことなんだろうか?
てか、今が夢か?
分からん。
けどセイレン様イケメ…じゃなくて。
「わたし、ラウノです」
通じるのかな?
私が関与出来てるなら同じ世界線だろう。
多分。
きっと。
くーっと目が細められる。
えーっとお、……怖いよお。
『……ラウノ…?』
思い出さないのか?…。
「十歳の時に貴方に殺されたラウノです!」
『馬鹿な、僕が殺したぞ!』
間髪入れずに返される。
ええ、ええ。殺されましたとも。
……ええーっとお、なんでそんな可哀想な子を見る目で見られているのかな?
「取り敢えず、私は仕事してくる。待ってて」
『どれくらい待つんだ?』
「何事もなければ八時間位かな?」
……うわーん、また睨まれた、怖いよお。
しかし存外、彼は佐東氏の病室で大人しくしていたらしい。
ただただ、佐東氏の顔を眺めて。
『この者は、ミリアだな』
顔も歳も違う筈なのに、断言している。
「私には分かりません」
『心馳が同じだ』
愛し気に彼女を見詰める瞳に、きゅんとする。
八時間放置されている間に、この世界が自分の産まれた世界とは異なることや、自分の姿は私以外からは認識されていないことを覚ったらしい。
聡いね、話が早いや。
じゃ、就業後の看護師がいつまでも病室に居るのも何なんで出てもらっても……出られるのかな?
出られました。
『今思えば羨慕していたんだ』
私のアパートでホログラムなセイレン様は切り出した。
「単純なヤキモチではなくて?」
すると、憎々しげな笑みを浮かべて
『それもある』
ま、正直ですこと。
『ミリアがお前と話していて僕に気が付かなかった。それだけなのに……そうだな、茫然とした?絶望…と言っても過言では無い。今思えば…今更だが、ミリアとお前に同じ匂いがしたんだな』
スマホで【デイムメイカー】のホームページを探して見せ、ゲームのことを掻い摘んで説明した。
ゲームの概念は七面倒臭そうなので、セイレン様の世界が、この世界の人間の
『……全く知らない筈なのに妙に馴染むのはその所為か?居心地は良くないが』
『この女、随分様相が違うな』
ヒロイン指差す。
「ヒロインに逢ったの?」
『マーリアとか云ったか。ミリアを手に掛けようとしたので屠ろうとしたが仕留め損ねた』
さらっと言うなあ、おい。
「あの世界は、多分この子で成り立ってるからムリじゃないかなー。あなたたちがただ平穏に暮したいならこの子に関係せず、この子が別の幸せを見付けることだと思うんですわ。」
『?』
「物語とは言ったけど、結末自体はひとつじゃないの。それぞれは離隔しているから、関与はしない筈。
本来、セイレン様とヒロイン…マーリアは複雑な手順を踏まないと出逢うことさえないんだけど。だから偶々出会ったんじゃ無いかな。」
『……かの娘はその物語を知っていると云うことか?』
「知っていたら、
ほら、と紅い髪の青年の立ち絵を見せる。
「ヒロインが出会うは、このセイレン様だから」
『これが…僕?』
幼い妹の命を絶つことで発生する物語は、銀の髪のセイレン様には関係が無い。
『……』
きっと、偶然、ヒロインが別の
それだけだ。
「貴方はあなたの物語を紡げばいいんじゃないかな」
『……あの時は済まなかった。でも何故、そんなに僕に優しく出来る?』
セイレン様は項垂れでいる。
「んー…
『…でも…僕は……お前を……』
「んー…でも、それで戻れたんだし。そう思えば感謝します。怖かったけど」
にーっと、態とらしく笑って見せる。
押し問答が続くのは嫌だったので無理矢理話題を摩り替えてみる。
「さあて!これは誰でしょう!」
『なんだ、この年の割に軽薄そうな男……若しやクリストファーか!』
「正解!流石!」
軽そうで悪そうだとかぶつぶつ呟くセイレン様を微笑ましく思う。
『ありがとう』
と、不意に言われたので
「どういたしまして」
と、答えた。
セイレン様は佐東氏の病室にずっといた。
回診のおり、視線が合うことがあるが何も話さない。
視線さえ合わないときもある。
ただひたすら、セイレン様は佐東氏を優しく見詰めている。
そうして翌日、セイレン様は消えた。
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