第4話 初めてのライブステージ

メンバーは揃った。

中学生だから、お金はまあ無い。

どこもキチンとした家庭だから、親は余分なお金はくれないし、ちゃんと毎日弁当があるから、昼飯代もケチれない。

僕の母は、必要な物は買ってはくれるけど。


最初は、テスト前なら部活が無いから、音楽室で練習するつもりだった。

ちゃんとアンプもあるし、ピアノもある。

が、主任のうるさい山内に、見つかった。

山内は、この学校の生徒の成績を上げて、自分が出世することしか考えてないヤツだ。

まだ、若いし独身の30歳手前で、それしか考えてない、つまらない大人。


バンドだから、音は出るから見つかった。小さい音だったけど。

「試験前は、何故部活が休みなのか、その意味はわかってるのか?」

2年の学年末試験の前。

中高一貫だから、そんな時期の成績は関係ないから、見てみぬふりでも良かったのに。


練習場所は、それ以前から探していた、公民館の練習室だけになった。

普通のスタジオは、ドラム付きの部屋でドラムを使うと、2時間で2000円は超える。

マイクにアンプ諸々合わせてたら、5000円を超える。つまり、1人千円以上に、交通費も必要。

公民館は安い。

ドラム付きでも、全部で千円以下。代わりに、2時間以上は申し込めない。

皆んなで変わるがわる、パソコンから申し込みをして、毎日練習時間を入れた。


そんな工夫をしてコッソリと練習をしてたのに、またイチャモンを付けられた。

部活を増やす話はしてみたが、既に音楽系で大人数が必要な部活があるから、軽音だろうが、ギター部だろうが、新たな部活も同好会も、音楽系は高校になっても認めないとの知らせが来た。

わかっていたことだから、特段驚きはなかった。

どうせ、ウチの頭の硬い先生たちは、許してはくれないだろうと、予想はしていた。


そんな知らせを聴いて、ムカつく気持ちの中、公民館へ向かおうとしていたら、雅也が音楽室に筆箱を忘れたと言い出した。

前の時間が、たまたま音楽だったから。

仕方ないとメンバーは、音楽室まで、一緒に筆箱を取りに付いて行った。


練習前だから、ギターもドラムスティックも持ったままだった。

音は出していないのに、何故か主任が通りかかった。

音楽室にいたことで、あの主任が勝手に激怒した。

『試験前には、練習しない約束だろう?何故ギターを持ってる?」

「持って来て、家へ帰る途中です」

『何故音楽室にいる?練習以外に用は無いはず」と、怒鳴り始めた。

「用も無いのに、何故全員いる?」

「音楽室に、雅也が筆箱を忘れたから、取りに来ただです」

疑われても仕方ない状況だけど、音も聴いて無いのに、疑うとは。全員が絶望した。その主任は、そんな人だから。

学年のTOP10の半分がいても、そんな対応しかしない。こちらの言い分は聞くつもりは、はなから無い。

「約束を破ったら、バンドはやらないと決めたはず。ステージは無しと言うことだな。良いな」と言い捨てて、出て行った。


これでは、練習どころじゃ無いし、悔しくて、皆んな半分泣いている。

時間をやりくりして、部活も休まずに、練習時間が短い中で、何とかやってきたのに。


親にも連絡するとか言ってたから、帰って親にも説明しないと…となり、今日は練習せずに解散することにした。

筆箱を忘れただけなのに、雅也はずっと「僕のせい。ごめんな」と謝っている。

誰も雅也は責めてはいない、悪いのは確認もせずに、決めつけた山内、アイツのほうだ、


航太は家が近いから、先生から電話がかかる前に、家に着いた。

泣いている航太を見て、母は「何かあった?と聴いた。

事情を話し、航太大泣きし始めた。

「横暴過ぎる。練習してるのを見た訳じゃ無いのに。酷すぎる。教師ってあんなものか?」と言い。

しばらくして、電話が鳴った。出ると例の主任だった。話を聞いてから、母は息子から聞いた話をした。

「現場を見た訳じゃ無いんですし、子供たちを信じてあげて欲しい。やってたなら、そう言う子たちだし、筆箱なんて言い訳はしないでしょうし」母親は、言いたいことは、ちゃんと伝えくれた。

職員会議の議題にはなったらしいが、学校で練習した音を聴いた人もいな今なら、注意はするとして、ステージには出してあけたら?」とまとまったらしく、


翌日航太は、笑顔で帰って来た。

母親は「世の中には色々な人がいるから。まず話を聞く人ばっかりじゃない。まず疑ってかかる人もいることが、よくわかったでしょう。泣いて無いで、また嫌味を言われるから、勉強してコッソリ練習するしかないからね。正しいことを話しても通らない、理不尽の勉強になったと思うしかないよ」と頭を撫でてくれた。

中3男子が、母に慰められるのも、恥ずかしいが、本気で腹が立ったし、世の中肩書だけで、偉そうにするだけ、人の邪魔することしか考えてない人がいるのも、よくわかった。


「バンドのメンバーがまた、勉強が優秀過ぎるから。成績で学年で10番に入ってないの、アナタだけでは?他の皆んな理系も文系も良く出来る子ばっかりだから、学校の実績とか、自分たちの評判を下げたく無いだけなんやって。なら、成績は意地でも下げないようにしないと。そう言うもんよ。学校って。成績を1番の物差しにしてる場所だから」母の言葉は沁みた。

他の実情を知らない母たちも、子供の側に立ったから、ステージには立てることななった。


鬼のような母がいるところだと、毎日ギターは持ち運び出来ない。

だから、お年玉貯金で30000円以上のギターを買って、一平は航太の家に置かせ貰い、毎日練習前に取りに来る。

高3年が終わるまで続いた、


だから。一平は本番前は一日2回は、航太の家に来た。

シンセは、学校に置いたままにして、学校からキャリーで運ぶ。公民館は家からより近い。ドラムは借りる。

ベースは公民館に近いから、取りに帰ってから来る。

公民館のボロアンプでも、気にせず音が出せるだけで嬉しい。


悩みのボーカルは決まっても、やれる曲は、ビートルズ3曲と、RCの『トランジスタラジオ』

ビートルズは、ウチの母親が産まれた年だし、RCの曲も学生時代の曲だ。

40年以上前の曲しかやれないのか?と俺は思ったけど、難易度的にも、皆んなが知ってる率を考えても、仕方ない選択だった。


ビートルズは嫌いじゃ無いけど、簡単だから、初期の曲だから、やっぱり幼稚に感じた。

俺はせめて、ジャミロクワイの曲ぐらいやりたかったけど。

まあ、学校には1人も知る人がいない曲をやるのも、虚しい。


オマケにメンバーは、練習はするけど、いっこうに音楽好きには、ならない。

弾いて他もバンドを聞くのは、ボーカルの大和ぐらいか?

一平は変わらずビートルズばっかりだし、他の2人はポップスにはあまり興味は無い。

「カッコ良いから、この曲が弾きたい?」

誰かが、そう言ってくれるのを、待っていたけど、相変わらずそんな話にはならない。


技術的には、やっぱりベースが1番、ついで2番目にドラムが、弱い。

少し複雑になると、ダメ。

普段家で練習はしてくれるけど、真面目だから、試験勉強もちゃんとするから、練習時間が足りなさ過ぎる。

中間試験が終わったら、すぐ本番。

部活も休めないから、夜に公民館に集まるしか無い。

部活の居残り練習とか、誤魔化しながら練習するしかない。

少し複雑になると、ダメ。


中3のステージは、中学生だけ。

出たら、黄色い歓声は少し飛んだけど、基本的に流行りのバンドさえ聞かないようなヤツしかいない。

真面目な学校には、洋楽どころかロックファンもいない。男子も女子も。


だから、何を演奏しても、多分あんなノリだったんだろうとは、思った。

衣装も高校になっても制服のまま。

演劇には衣装も化粧も良いのに、クラスの出し物でも使えるのに、僕らはそのままの、素で楽器を持ってるだけ。

より盛り上がらない。


一緒に歌うこともなく、制服姿でビートルズのレベル下げたバージョン、曲を知らない観客では、盛り上がることもなく、初めてのステージは終わった。


もちろん、メンバーは弾くのに必死で、ステージングどころではなかった。

何だか、初めてのステージは、訳がわからないまま、演奏は終わった。

やっぱり興奮してたんだろう。

衣装も高校になっても制服のまま。

演劇には衣装も化粧も良いのに、クラスの出し物でも使えるのに、僕らはそのままの、素で楽器を持ってるだけ。


より盛り上がらない。

今はもう21世紀だけと。

曲は古いから、仕方ない?

それは別の話だと思う。

誰か昔、フォークソングを歌いたかった、ビートルズをやりたかったような、若者の音楽を共鳴してくれる人は、これだけの数の先生が、いてもいないのか?


きっとそんな人は、先生にはならない。

違うところで、人生を送っているんだろうと、ボンヤリ考えながら、演奏をした。盛り上げようと、手拍子もしたが、盛り上がりはなかった。

盛り上がっていたら、バンドはもっと違う方向へ向かえていたのか?

キャーキャー言われて、モテてたら、違ったのか?

少し苦い涙の味がした。

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