第3話 「とりあえず小屋で自炊生活。異世界でも業務スーパーが恋しい件」

 勇者パーティ(笑)の正社員どもは、スキルに浮かれてサクサク進軍していった。


 俺はというと、彼らが“モンスター出るから”と置き去りにしたボロい小屋に、現在ひとり住んでいる。




「……ここ、思ったよりマシじゃん」




 壁に穴が開いてるけど、風は通るし、屋根もまあ、半分くらいは雨を防げる。


 問題は……食事だ。




 




「……さて。食材……ってこれだけかよ」




 




 棚に並んでいたのは、


・謎の干し肉


・色の悪い豆


・見慣れないイモ


・臭いのキツい乾燥ハーブ


 以上。まるで罰ゲームか、サバイバル番組のセット。




「業務スーパーの冷凍唐揚げ……恋しい……」




 ふと、現世の自炊生活が脳裏をよぎる。


 あの頃の俺は、月に一度の“半額シール祭り”が生きがいだった。


 異世界にきてまで、自炊生活×貧乏飯が続くとはな……。




「まあ、いい。俺には《記録ログ》がある」




 ふと、スキル画面を開く。


 さっき町の方角を歩く冒険者パーティを遠目に見かけたので、装備や動作、調理の仕草までしっかり記録しておいた。




──ということで、やってみた。




>《対象:焚き火の組み方》を再現


>《対象:保存食加工の方法》を再現


>《対象:スパイスの使用分量》を再現




「……これ、万能じゃね?」




 火起こし→簡単


 干し肉→スパイス煮込み


 豆→潰してスープに加工


 芋→皮剥いて茹でる→焼き芋風に




──結果。




「うまっ!? ……いや、普通だけど、予想よりはるかにうまい!」




 おっさん、異世界で人生初のちゃんとした自炊成功である。


 記録スキル、地味だがこれ──生活系にも無双すぎる。




 




 腹が落ち着いたところで、ぼんやり焚き火を眺めながら思った。




「……あのバカども、絶対すぐ困るだろ」




 だって、あいつら誰一人として料理も掃除もしたことないし、魔法で火出せる奴すら調理方法知らなかった。


 装備だけあっても、生活できなきゃ冒険もへったくれもない。




──と、そのとき。




>《対象:遠距離会話(スキル:テレパス)》を記録しました。




 




 ん? なんか今、頭の中に声が──




『やっべ、もう食料切れたんだけど!?』


『テントとか寝袋って自動で出てこないの!?』


『てかゴブリンの巣ヤバすぎ! おっさんが囮になってればよかったのに〜!』




 




 聞こえてんぞ、バカども。




 録音(記録)しといたからな。証拠音声として。




「は〜、おいしいご飯が胃にしみるわ〜……孤独だけど」




 異世界生活、思ったより悪くない。


 俺にはスキルがある。


 時間もある。知恵も……ほんのちょっとはある。




 そして今、さっそく作った飯を記録しておいた。




>《記録:高野式・簡易煮込みスープ》保存完了。




 次回から、味の再現もできる……かもしれない。いや、できてくれ。




「ふふ……やばいなこれ、俺の異世界レシピ帳できそう」




 笑えてきた。


 追放されたけど、メシはうまい。


 この生活、意外とアリかもしれない──




 




 でも。




「……やっぱ、業スーの冷凍ポテト食いてぇな……」




──おっさんの欲望は、今日も平和でささやかだ。




(第4話へつづく)


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