1人目 橘春斗との出会い

「お前、修学旅行一緒に回るやついないんだって?」

「蓮也。」

昼休み、窓の外を眺めながらぼんやりと弁当を食べていると

一人の男子が話しかけてきた。斎藤蓮也。美月と同じく幼馴染である。

クラスのムードメーカー的な存在で明るい笑顔が印象的な男子だ。

ちなみに美月は木下君と弁当を食べる、と4限目が終わると嬉しそうに

教室を出ていった。

「別にいいでしょ。ってか、部活の友達と回るかもだし。

みんな彼氏できちゃったんだもん。」

「お前は彼氏作らないのか?」

「推しがいればいいの。」

「…そうか。」

蓮也はなぜか少し寂しそうに笑ったような気がした。

「んで何?何か用事?」

「いや、お前の推しって確かゆーととかいうやつだったよな。」

「そうだけど。」

「俺の友達の春斗、知ってるか?」

「…?名前は知ってるけど話したことはないよ。」

「お前、カバンにゆーとのグッズつけてるだろ。

春斗もゆーとのファンでお前と語りたいってずっと言ってんだよ。」

蓮也の言う”春斗”とはおそらく隣のクラスの橘春斗のことだろう。

蓮也と同じサッカー部で蓮也とよく一緒にいるのを見かける。

落ち着いた見た目で優しそうな細身で長身の男子だ。

ちなみに、ゆーとはあまり有名ではないため

周りに知っている人はおらず、語り合える相手がいない。

「っそれはぜひ会いたい!」

「おぉ、わかった。LINE教えてもいいか?

お前男子と直接話すの苦手だろ。」

…そうなのだ。蓮也のように昔から仲が良い男子とは話せるものの、初対面の男子と話すのはなかなか勇気がいるのだ。

「お願い。」

「わかった。じゃーまたな。修学旅行、一緒に回るやつどうしてもいなかったら

俺のこと誘ってもいいからな。」

「なんでよ。」

「いーじゃん。じゃーな。」

蓮也はいつも通りの明るい笑顔を私に向けながら去っていった。


その日の夜。ブブッとスマホが鳴った。LINEの相手は”橘春斗”と表示されていた。

「あぁ、蓮也が言ってたやつか。」

一人でつぶやきながらLINEを開いた。

『初めまして。橘春斗です。蓮也に教えてもらって。

河内さんもゆーとのファンなんだよね?よかったらいろいろ話したいです。』

…想像していた以上に丁寧な人だ。それが最初の印象だった。

「なんて返そう。」

LINEでさえも男子となんて、蓮也とたまにするくらいしかしないのに。

『河内優花です。こちらこそ話したいって言ってくれてありがとう。

高1の時からゆーとのファンなの。話せる人いないからうれしい!』

「こんなもんか。」

送信を押した。


それから彼と頻繁にLINEをするようになった。

『好きな歌ある?』『私は”恋しよう”が好きだな。』『あのオリ曲いいよね!』

『この間の配信見た?』『めっちゃ面白かった。』『あのゲームやりたくなったよね。』

彼とはいわゆるLINE友達だ。学校で話すことはない。

たまに見かけることがあっても話しかけようとは思わない。

学校はスマホが禁止であるため、家に帰ってから寝るまで数日に一回、

ゆーとの配信などがあれば彼とLINEで興奮を共有する。


『たまには学校でも話さない?』

そんなLINEが来たのは彼とLINEを初めて一か月がたとうとしていた時であった。


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