第28話

 模範演技って、みんなの前で演技するって事ですよね。なんで、私がする事になったのでしょう。

 この模範演技は、大会の各部門トップが演技することになっています。

 前回、前々回と城南一輪車クラブの如月さんが演技を披露していました。

 私と同い年なのに、とっても上手なんですよ。この子が演技している時は、先輩方まで見に行きます。

 確か、テレビの取材も受けてるって聞きました。今回もそうだと思っていたのですが彼女が演技するものだって、

 そっ、そうだった。如月さん、私の後の、後の順番だったんだ。

 しまったあ、見そびれてしまいました。自分の演技が散々だったんで、動転していたんでしょうか。後でビデオを見せてもらお。あぁ〜ぁ、生で見たかっな。


「すいません。演技をするってことは、表彰式の後のフロア清掃はどうするんですか? ドレスのままじゃ、汚れちゃいます」

「あなたは清掃しなくて構いません。ドレスのままにしておいてくださいね」

「はあ」


 なんか、狐につままれた気分ってこんな感じですか。


「では、そういうことでよろしく、お願いします」


 大会の役員の方は、そう告げると、そそくさと帰ってしまいます。

 しかし、なんで私なんでしょう。曲が中断するなんてアクシデントがあったから、お情けで演技をさせてくれるのでしょうか。

 まさかねぇ。神様のお情け? 誰かの悪戯? それとの何かのドッキリでしょうかでしょうか。分かりません。

 

 そっか。でもそっか。


 また、このドレスを着て演技ができるということなんです。さっきの演技で終わりではなかったんだ。良かったぁ。


「紗和、良かったね。また、演技させてくれるって」

「うん。良かったあ。今度は、ちゃんとできますように」

「全くだよ」

 

 傍らにいるお兄ちゃんと、話をしていると、通路の向こうから、白いロングドレスを着ている子が走って来ました。スカートのプリーツが色違いになっているので、スピンして広がると本当に、風車が回っているように見えるんですよ。

 私の次のドレスは、こんなふうにしてみようかな。お母さんと相談してみよう。


「紗和、紗和、聞いた?」


 走ってきたのは、七海さん。クラブの先輩で、もう一人の師匠。優花さんと同い年。そして、目標な人。


「紗和。あなた、模範演技に出るんだってよ」

「はい、さっき、大会役員らしき人が来て、話をしてくれました」

「なあ〜んだ。知ってたのなら、話は早い。すごいじゃない。松島さんも喜んでいたよ」

「私の演技の時にアクシデントがあったから、特別にでしょうね。本当なら。城南の如月さんが演技するはずなのに」


 大会の方も粋なことをしてくれます。


「何、言ってるの。あなた、ノーミスで演技したのよ。トップなのよ、トップ」


えっ、ノーミス? 


「トップは如月さんじゃないんですか」


 思い返してみると、そういえば、失敗して落車してなかったっけ。


「あの子、バックぴょんで失敗して、落ちちゃったの」


 もしかして、私がスマホで撮られていた時の響めきは……、


「大技連発して、全部成功させたんだから、当たり前よ。あなた、トップ。クラス優勝したのよ。実力で模範演技することになったの」


 トップ、トップ、クラス優勝。この私が、


「七海さん、七海さん、私……」

「おめでとう。紗和。優勝は、あなたよ」

「はい! やったあ。やったあ」


 私は、七海さんの手を取り、喜びのあまりその場で飛び跳ねます。七海さんも一緒。二人で飛び跳ねてしまいました。


 その後、自分の演技を終えて、エントランスに来た優花さんや、観客席から降りてきたみんなに褒められました。みんな、私の髪の毛、くしゃくしゃにするんです。セットし治すの大変なんだすからね。

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