第17話:後を託す前に

 事務所の代表に掛け合ってみる――朝陽あさひ夕花ゆうかにそう言われてから2か月、かなり時が過ぎてしまった。何も動きがないまま、卒業研究も大詰めになってきてしまった。


(やっぱり普通に就職するしかないかぁ……)


帰り道、夜空を見上げながらそう心で呟く。答えを待っていたが、周りは次々と就職が決まっていく。ゼミナールと卒業研究を終え、帰宅した朝陽のもとに郵便が届いていた。


「お兄ちゃん、コンテストの結果届いてるよ」


リビングのソファーに座ってテレビを観ていた日陽ひなたが兄に差し出す。


「あ、うん。ありがとう。日陽はもう見た?」


「見た。参加賞みたいな感じの結果だった。まだまだお兄ちゃんには敵わんなぁ」


「でも、今回は満足できる写真が撮れなくて本当に苦労したんだよ? こう見えても」


そう真顔で返し、封筒の中身を取り出すと――


「……はい?」


思わず固まる朝陽。3年連続で秀作入賞したこの男の結果は?


「え? 去年もその前も秀作取ったんだから今年もでしょ? ……んん? 最優秀賞? ドッキリじゃ、ないよね……?」


「なわけないだろ……」


「お、おめでとう――って言いたいところ……い、いきなりお兄ちゃんがビッグになっちゃった!? ねえお母さーん、聞いてよー」


「極端だなおい……」


夕食を作っている最中の母のもとへ興奮気味で駆け寄る妹の姿を見つつ、冷静になってコンテストの結果を見ると、色づいてきたばかりの紅葉をバックに撮った美しいこの光景の写真が、今年度のフォトグラフィアコンテストの最優秀賞に選ばれた旨が書かれていた。


(ってことは、夕花さんのあの約束通りになる……んだろうか?)


しかし本人とはまともに会えていないが……。


 それから2日後の部活にて、結果報告が執り行われた。


「『お前の先輩凄すぎんだろ』って、昼休みの時友達に言われたんですが……?」


初挑戦ながら入選という大健闘の結果を出した、康貴やすたかが恐る恐る口を開く。


「え、そんなに噂出回ってんの?」


「そうみたいですよ?」


昨日の朝ゼミの先生に結果報告はしたが、どこから噂と化したのか分からない。


「俺は朝陽先輩から事前に聞いていたんでそこまで驚きはしなかったんですが……お?」


コンコンと、部室のドアがノックする音が聞こえる。


「はーい」


朝陽がドアを開けると、そこには夕花の姿があった。


「……よかった、今日部活やってて」


「……え? 草摩そうま先生、今日青城大来る日じゃなかったのでは……?」


万衣まいが慌てて尋ねる。


「そうなんだけどさぁ……講義終わって大急ぎでやってきた!」


疲れた様子なく、夕花は笑顔を見せる。


「夕花さん、暫くぶりですね」


「そうだったねーごめんね、


ある程度事情を知っていた康貴は黙って頷いているが、日陽・万衣・めぐの1・2年組が何のことだ? ときょとんとしている中。


「今日の昼休み中、代表から電話がかかってきて。朝陽君が最優秀賞を取ったって聞いて――居ても立っても居られなくて、飛んできた! ……最優秀賞、おめでとう!」


「あ、ありがとうございます……!」


固い握手を交わす朝陽と夕花。


「最初、私が代表に推薦するって話だったけど……どうする?」


「えっと……いつまで返事すればいいですか?」


『お願いします』という言葉が今にも出そうだったが、凪咲なぎさとの未来は諦めたくなく、考える猶予が欲しい方向へ回った。


「次事務所行く時に代表に確認してみる」


「お願いします」


 翌週朝陽はゼミの先生より、日時指定で学長室へ来るように案内を受けた。


「現役大学生初、そして史上最年少での快挙――教職員を代表して祝意を表する。おめでとう、米村よねむら君」


「ありがとうございます」


お祝いとして花束を受け取る朝陽。この出来事は大学の広報だけでなく、朝陽と縁とゆかりのある新聞部が作成した大学内新聞にてでかでかと取り上げられることとなった。


☆☆☆


 夕花より返事が来年1月末までと連絡を受けた朝陽。卒業論文に着手しある程度書き終え、冬休み前――そして、部長として最後の部活の日を迎えた。


(副部長……日陽か、万衣か……どっちか選ばないといけないもんな)


去年部長を継いだ時がまさにそうだったが、2年・3年が1人ずつなら自動的に決まっていた。今回は悩ましいものだった。それでも、朝陽の心は決まっていた。


 部室内の大掃除を終え、年内最後のミーティングを行う。


「卒業までまだ日にちはあるが……康貴と日陽以外はそうそう会わなくなっちゃうか。仕方ないっちゃ仕方ないけど……入部当初、写真部がこんなにも世間が狭い部だとは思わなかった。でも、それを逆手にしたというか――逆に楽しめたし、皆との縁を深められたと思うし」


そして、朝陽より次期部長と次期副部長の指名へ。


「僕の後を継いで――部長を康貴に。副部長は……日陽に」


康貴は黙って頷いていたが、驚いていた日陽は万衣に肩を軽く叩かれ我に返る。


「分かり切っていたことですが……ただいま託されました」


「お兄ちゃんの頼みなら、やったってやるさ」


やや緊張がこもったのこの言葉から年明け、新体制が始まる――。






……だが、康貴のもとへ残念なお知らせが飛んできた。


「……やっぱりか」


年内最後の部活を終え帰宅した康貴は両親より、凪咲が仕事が立て込みまとまった休みが取れず、年末年始は帰ってこれないと電話で連絡があったと報告を受けてしまう。

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2025年12月15日 20:00
2025年12月22日 20:00

夢を追いかけた先に、彼女はいる? はづき @hazuki_com

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