第4章:後悔したくない
第16話:『弟』の訴え
紅葉が散っていき、時は12月へ――。例年通りでいけば、年明けより写真部の部長を引き継ぐ
(先輩も、こんな調子なんだろうなぁ……)
昨晩姉宛に送ったLINEが未読のままのトーク画面を見つめ、過去のやり取りを見返しながらぽつり、そう思った康貴。
(コンテストで最優秀賞を取れば、先輩は
と考え事をしながら、次の講義が行われる講義室へ移動する康貴。座席はあいうえお順の学籍番号順になっているが、1番後ろの席になっているのにも関わらず無意識に1個手前の席に座ってしまう。
「……あ、すみません間違えました」
康貴の前の席に座る人がちょっと困惑したような顔をして見てくる。慌てて自分の席に移動する康貴だったが、講義の内容もいまいち頭に入ってこないまま、1時間半の講義が終了。この日は部活はなく、そのまま帰宅に。
(今夕方4時過ぎ……向こうは朝7時ぐらいか)
今、先輩は両方叶えるべく頑張っている。だから、最近部活以外ではそんなに会えていないし大した会話も交わしていない。次期部長として、後輩として、そして先輩の彼女の弟として――今、自分に何ができるか、帰り道じっくり考えていた。
4時半頃に帰宅。両親の帰宅がまだない中、部屋着に着替えた康貴はLINEを開き姉とのトーク画面から、電話をかけた。一か八か……出られやしないだろうと内心ダメ元でかけたが。
『……もしもし?』
電話に出た。出てしまった。
「も、もしもし、姉ちゃん?」
『うん。康貴から電話かけてくるなんて、珍しいね』
「ま、まあ……そんなこともあるよ」
『全然連絡できてなくてごめんね。朝陽君にも伝えておいてほしい』
「うん。先輩も就活で忙しいから、最近そんなに会えてないけどね」
『朝陽君まだ、就職決まってないんだ?』
「そうなんだよね。プロカメラマンでもある、写真部OGの講師の先生が所属する事務所で働けるかも。プロカメラマンが何人か所属する芸能関係の事務所。ただ、今度のフォトグラフィアコンテストで最優秀賞取れたら、推薦するって話だし。上手くいけば、そこでプロとして食っていけるのかもね」
――電話をかけたのは、こんな日常会話とか、近況報告とか、そんな気軽な目的じゃない。
『えー、すごいな朝陽君。推薦してもらえるかもなんて』
「大学祭終わってから先輩から話聞いたんだけど、やっぱりすげぇなと思った。……ところでさ」
『何?』
「……先輩と付き合って2年過ぎたじゃん。これからどうかしたいとか考えてんの?」
もしかしたら朝陽からも聞いていたかもしれないが、弟からも聞かないと気が済まない。
『……朝陽君本人からも聞かれて、すごく困った』
「困ったって、どうしてさ? 将来のこと考えるのそんなに嫌?」
『嫌じゃないけど……』
「けど?」
『現状維持……としか言えない。人もいないし、日本人の先輩が倒れて、一応年明けに復帰予定とは聞いてるけど、それまで私が先輩の分までカバーしてるから考えてる余裕がなくて』
それで、大学祭に行きたいと言う希望が『休まれると回らなくなる』という先輩たちの足止めを食らったのである。姉の事情は察し、お盆明けからじわじわ異変があったのではと考えられる。
(先のことがぼんやりしたまま、中途半端な関係続けるのはどうなんだ? てか、この調子だと年末年始帰ってこれる気がしないというのは、ガチの話だな……)
一時はカレカノの時間を意識し、お盆休みにデートの時間を作った姉・凪咲。しかしどこかで崩れ、元通りどころか悪化しているようにも見える。姉の気持ちは分からないでもないが、朝陽の姿を今、1番近くで見ているのは康貴本人であることは間違いない。
「……あのさ」
『うん?』
「今先輩、姉ちゃんの近くで夢を叶えるために必死に考えて、必死に動いてる。仕事が大変なのは分かるけど、先輩の思いをそうやって踏みにじるようなことをするのは、彼氏の後輩としても、彼女の弟としても、絶対許さない」
1人分の仕事を姉1人がカバーするのは、間違っている。皆が均等にやるべきなのに。……姉の職場への怒りもあるが、周りに流され自分本位になってきている自分の姉へも喝を入れたくなった。
『踏みにじってなんか……』
「じゃあ、最近朝陽先輩に何かしてあげたの?」
両親からはやんわりとしか言ってくれないだろう。のんびり構え過ぎている。だったら、自分が喝を入れてでも、ズバリ言うしか方法はなかった。自分のせいで別れるとかの話になったら……と思うと、声に震えが出てしまう。
『何も……できてない……』
正直に答えてくれただけでも、まだ良しとするか。
「……俺は、先輩も姉ちゃんも……悔やむ姿を見たくないんだよ……」
その言葉を聞いた凪咲は何を思ったのか分からないが、一言も発することができなかった。沈黙が続き、康貴が机にある置き時計が指す時間を確認していると。
『……ごめんね、そろそろ仕事行くから。康貴が言いたいこと、痛いほど分かったからね』
「分かった。急に電話かけてすまなかった」
電話が切れた。ベッドに寝転んだ康貴はひとつ、溜め息をつきながらこう心で呟いた。
(姉ちゃん、いっぱいきついこと言ってごめん。じゃないと俺、気が済まなかったから……)
電話が終わり、程なくして両親が帰ってきた。何事もなかったかのように仕事終わりの両親を出迎えに行った康貴。自分は両親の後を継ぐという将来があるが、先輩と姉の将来はまだ、空白のままだ――。
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