第14話:自分の夢か、彼女か
午後になり、
――大学祭が終わり、1週間が経過したある日。
「あら、朝陽君ではないかぁ」
昼休み中の食堂で偶然会ったのは、
「ど、どうも。夕花さんもここでお昼ですか?」
「うん。こっち来る日は必ずここで食べてるよー」
(……1度、夕花さんのお誘いに乗っかってみようかな。じゃないと何も進まないかも)
先輩の訪問で目まぐるしい思いをした大学祭が終わってから、自分の夢を叶えた夕花と、まさかの結婚報告で次なる道を歩み始めた万真の2人と交わした会話を振り返って、朝陽は『彼女に似合う男になるためには』と、まずは自分の将来の夢を先に考えてみようと決めてみたのだった。
「……夕花さん。先日のお話の件ですが、事務所へお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、うん。分かったよー。今度の土曜日でいい?」
「大丈夫ですよ」
☆☆☆
週末、事務所への訪問の日。部活はあったが、朝陽は午前中で抜け大学の校門前で夕花と待ち合わせし、事務所へ向かった。
「本当は代表が色々とお話してくれる予定だったんだけど、急に九州へ出向くことになっちゃっていないんだ。その代わり専務の方が応対してくれるから」
「分かりました」
場所は駅から程近いところにあった。ショッピングセンターが入っているビルの5階に夕花が所属する事務所がある。規模としては大きくもなく小さくもない感じである。
「
専務の方が出迎えてくれた。夕花も同席の上、事務所としてどういう仕事をしているのか、理想のプロカメラマン像について、話を熱心に聞いていた朝陽だった。
しかし、訪問を終えビルを後にすると、朝陽はどこか憔悴していた。
「どうした? 想像と違ってた?」
「あ、いえ。プロになるなら、あんな風にやっていきたいなという思いが強くなりました、が……」
コンテストで最優秀賞を取れたら、夕花の推薦でここに就職ができるし、部活や趣味ではなく仕事としてカメラを握ることになる。将来の夢はプロカメラマンになること――小さい頃そう抱いていたことを大学祭を機に思い出した。しかし、彼女とのことはどうするのか――。
「……僕にはかねてよりお付き合いしている、歳上の彼女がいます。今年の春、異動でイギリスへ行きました。お盆の時に帰ってきて以来会えていませんし、年末年始に帰ってこれるかも分からないそうです。彼女がこのまま仕事で振り回されるぐらいなら、一旦は自分の将来のことだけ考えようと思って、今日に至ったんです」
「……朝陽君、無理してない?」
――確かに、無理をしていた。
「……かも、しれないですね。コンテストの締め切りも迫っているのに、色々考えてしまって満足のいく写真が撮れなくて」
コンテストの締め切りまであと1週間ぐらいしかない。だが、焦りと迷いで正気を失ってしまっていた。
「正直なこと言うと……仮に朝陽君が自分の夢を選んで彼女さんとの関係をここまでにしてしまえば、朝陽君も彼女さんも後悔を抱えたまま生きていくことになるよ。彼女さんのご家族の方と親しくしていれば、余計ね」
夕花の言葉は理にかなっていた。だが、難しい表情のままだった。
「……私も朝陽君と同じで、小さい頃から写真が好きな子だった。でも、仕事としてやりたいって両親に話したけど『そう簡単に食っていけるわけがない』って反対されて、仕方なく普通の就活をして就職した。でも続かなかった。就職して丸々2年たつタイミングで退職して、家に
「そうだったんですか……今は、仕事としてやっていることに関してご両親は?」
「『大学講師とプロカメラマンの二刀流娘』という私の特集タイトルでうちの事務所で出版した雑誌を目にした両親はようやく目を覚ましたみたいだけど。……ゼミの先生は写真部の部長として活躍してたのを知っていたし、それに在学中に取った簿記1級という最強の武器があることも知っていた」
――今から教授にはなれないけど、講師として人にものを教える立場にはなれる。考えてみないかい? それとね、
夕花は自分がお世話になったかつてのゼミの先生に、こう背中を押されたという。
「……あの時の先生の言葉があったから、がむしゃらに講師になるための勉強をして、退職から1年で講師として次の職を手にすることができた。その前にあったコンテストで賞を取って、事務所の代表にスカウトされた。うちに来てほしいって、先生が声をかけてきたから、
「夕花さんは、決して1人ではなかったんですね」
「そうだね。今度は私が朝陽君の背中を押す番になりたい。……代表がイギリスで仕事したことあるって前聞いたから、ちょっと掛け合ってみようか」
「……いいんですか?」
「もちろん」
「あ、ありがとうございます……!」
☆☆☆
翌日急遽、朝陽は後輩たちをある場所へ呼んだ。
「……皆、急に呼び出してすまない。何となくだけど、コンテストに応募したい写真のイメージができた。この光景をバックに皆が映った写真を撮りたい」
「朝陽先輩は映らなくていいんですか?」
「いいんだ」
1枚、後輩たちが映った写真を撮った後、綺麗な夕焼けが照りつけてきた。朝陽は夕焼けをバックに紅葉の写真を撮った。この写真が、フォトグラフィアコンテストへの応募作となった。
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