第3章:背中を押したのは
第12話:先輩の訪問【前編】
確かに『無理しないで』と
「朝陽先輩?」
異変を感じ取っていた
「朝陽さん、何かあったんですか?」
「えっと……一旦廊下出ましょう」
伶奈でも分かるぐらいの朝陽の異変。誤魔化しは効かないと思った康貴は……
「――実は朝陽先輩とうちの姉が交際しているんです。姉は春より異動でイギリスへ行きました。お盆の時には帰ってこれたんですが、大学祭を訪問したいと言う姉の要望は、向こうの方たちからきつい言葉を突きつけられ通らず、このようなことに……」
「そうだったんですか……どちらもショックだったと思います。あの落ち込み様は、余程楽しみにしていたから、だったんですね」
「はい。すみませんが……ここだけのお話にしてもらいたいです。……先輩のために」
「分かりました」
大学では後期が始まり、初回の講義が1周して間もなく大学祭がやってきてしまった。朝陽は現実を受け入れられるようにはなったが、まだ暗い表情は続いていた。
「最後の大学祭……中学時代から新聞部一筋だった私にとって集大成の記事ができたと思います。ここまでご尽力くださり、ありがとうございます。大学祭、頑張りましょう!」
初日の朝、写真部・新聞部の合同ブースにて伶奈の挨拶から、全てが動き出した。朝陽は午前中はフリーで、午後からゼミの模擬店の店番とブースの受付の当番。何となく人混みから避けたい朝陽はゼミ室にて昼食を取り、模擬店の店番へ向かった。
模擬店の店番が終わり、すぐ部活のブースへ向かう朝陽は康貴と交代になっていた。康貴に声をかける前に中を覗くと記事をじっくり見る、見慣れない凛とした女性の姿があった。
「
康貴が声をかけている。どうやら、彼女の正体は先生らしい。
「……あ、朝陽先輩! もうそんな時間でしたか」
康貴が朝陽に気づく。
「うん。……そちらの方は?」
「経済学部で簿記担当の講師を務めている、草摩
「なるほどねぇ……」
どおりで縁がないわけだ、と思っていた朝陽だったが、一通り見終わった夕花に挨拶を。
「初めまして、写真部部長で教養学部在籍の
「初めまして。草摩夕花です。3年前から非常勤講師として
夕花が所属していた当時は、写真部が他の部活と手を組むことなんてあり得なかったのだそうだ。自分が卒業した後、新聞部からの試みで始まったと噂で聞いたそうだ。
(それぞれの先輩たちがここまで繋いできてくれたんだな……)
そう思うと、康貴たち後輩にもこのバトンを繋いでいかないとならない責任感が湧いてくる。
「……っと、俺はこの後実行委員の仕事があるので、ここで失礼しますっ!」
朝陽と夕花に一礼し、康貴は足早に去っていった。
人出が疎らになってきている。そういえば注目の有志がこの後体育館で行われるんだったか――とふと思うが、夕花の話が再開する。
「今年の大学祭の手伝いを、時間がある限りでお願いしたいと学長から言われて。『母校の大学祭ですし是非お受けさせていただきます!』と即返事しちゃって。本業は非常勤講師としてここの他2つの経済大学を回っているんだけど、その傍らでプロカメラマンとして事務所に所属して、近場が多いんだけどあちこち行って撮影してるんだ」
「プロカメラマン、ですか!? 二刀流やって、忙しくないんですか?」
そういえば、ゼミの先生と話をした時に『せっかく写真部に所属して、コンテストでも賞を取ってるんだから、プロカメラマンという道を志しても悪くないと思う』と言われていた。
「忙しいね。でも、どっちも好きだから、楽しいよ。写真を撮るのは長年の趣味だったからねー。プロになる前は毎年、フォトグラフィアコンテストに参加してたのがちょっと懐かしい。事務所の代表からのスカウトでこの世界にも飛び込んできたからなぁ」
そう答えた夕花。
「あの、夕花さん」
「うん?」
「実は僕、高校時代からフォトグラフィアコンテストに参加しているんです。物心ついた頃からカメラを握っていたもので……。大学入ってから3年連続で秀作入賞しておりまして」
今日が初対面で、部としては数年上の先輩に対し、そう切り出すのに勇気がいった朝陽。
「でもまあ、父のカメラを握ったのが最初だったんですがね」
「私もそうだったー。……コンテストに3年連続で秀作!? なかなか聞かない快挙だね?」
朝陽の実績を聞いた夕花は――?
……一方その頃。
「何だか、懐かしいな」
大学からの広報で届いた郵便。青城大学の大学祭のポスターと合わせ、写真部部長・朝陽と新聞部部長・伶奈が連名でアクアスターズへの訪問報告と『ぜひ来てください!』という旨のコメントを見て、そう呟く男がいたのである。
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