第10話:その時まで
〈朝陽先輩、俺と同じゼミの新聞部部員から連絡ありまして。部長が朝陽先輩に話があるから、集合時間の30分ぐらい前に来て欲しい――という伝言です〉
〈分かった〉
特に不思議に思わなかったが、
「もしもし?」
朝陽が見慣れた景色に向かってカメラを向けた後、凪咲から電話がかかってきた。
『もしもしー。もうすぐ家出るところだから、ちょっと話したくて』
「うん、どうした?」
『もしできたら、大学祭めがけて帰ってこようかな。10月、3連休あるし』
今年も3連休中に大学祭があるということは、康貴から教えてもらったのだろう。
「分かった。くれぐれも無理しないでね」
『お互いにね』
こうして凪咲はイギリスへ戻り、朝陽たち写真部は新聞部との合同取材の日を迎える。朝陽は事前に連絡があった通り、集合時間の30分前に到着。
「
「すみません。うちの部員とそちらの副部長さんが同じゼミだったもので、2人経由での伝言になっちゃって」
「いえ、全然」
まだ開館前のため、人出が疎らの中――
「……そういえば、姉の記録に残っていた写真には、1組のカップルらしき姿が映っていました」
「そうだったんですか……実は僕、お盆前に行ってきたんです。カップルあちこちいましたし、当時からデートスポットだったのかもしれないですね」
(私の記憶が間違いないなら、男性の方は朝陽さんの先輩だったはず……?)
……と、伶奈が何かを取り出そうとすると、康貴が到着。それを皮切りに次々とメンバーが到着し、合同取材が決行となった。お盆が終わり客数はそうでもないが、ちらほらカップルの姿もあった。
従業員の案内、伶奈のインタビューを聞き必要事項をメモに取る新聞部と、写真に収める朝陽と康貴。事前の打ち合わせにて撮影担当はこの2人に限定され、
「今日、イルカショーあるんですか?」
万衣が尋ねる。
「はい、ございます。午後2時頃を予定しております」
ということで、一通りの案内が終わった午後1時頃に昼食となった。この日は猛暑日の予報が出ており、各自水分補給をしながらの取材となっていた。
「萌、お昼それだけで足りるの?」
万衣と向かい合わせで座った萌は、水族館内の食堂のご飯ではなくコンビニのサンドイッチを持ってきており、ゆっくり食べていた。
「はい……お腹がすかなくて」
萌は食べ終わると、お手洗いに行くと言い席を立っていった。
昼食タイムが終わり、一同はイルカショーの会場まで移動。
「全員揃っておりますでしょうか? それでは移動しますよー」
伶奈の号令で移動が始まるも、ふと変に思った朝陽と康貴が。
「……いや、1人足りない」
「……あれ、萌がいないぞ?」
新聞部は全員揃っているかどうか慌てて確認する伶奈。
「新聞部は、全員いますが」
「伶奈さん。……ショーまで、時間がありません。我々で探すので、行ってきてください」
「……私も探します!」
「私も!」
新聞部の2年女子部員が伶奈に行くように促すと、日陽と万衣が声を挙げる。
「お兄ちゃん、康貴先輩。萌のことはこっちに任せて、行ってきてください」
「分かった」
「広いから迷子になるんじゃないぞー」
萌の捜索は写真部より日陽と万衣、新聞部より2年・3年部員計6人中4人で行われた。残る2人はショーへ回ることに。
ショー開始の案内が出る中、伶奈は申し訳なさそうに朝陽に話しかける。
「すみません……こんな暑い時に」
もしかしたら……と、伶奈は察してしまっているかもしれない。
「天気ばっかりはどうしようもないですよ」
すかさず康貴がフォローする。
「ありがとうございます」
……その頃捜索組は、萌の行方が分からず難航していた。
「萌さんいた?」
「いないや」
新聞部部員が回ったところには萌の姿はなかった。
「萌、どこにいるのー?」
「いたら返事してー」
汗を拭いながら、日陽と万衣も必死に探し続ける。万衣は走り疲れ、トボトボ歩くうちに食堂の前を通過。あちこちに点在するトイレも回ったが、萌の姿はない。
「……これでダメなら、戻るしかないか」
そう呟き、水族館入口付近のトイレに向かうと中で萌が苦しそうな表情を浮かべ倒れていたのである。
「……っと、萌? 大丈夫!? すごい汗かいてるよ!?」
「あ、あの……私……生理中で……」
「分かった。日陽に電話するから、そのままでいて」
万衣は自販機で買ったばかりのペットボトルの水を萌にゆっくり飲ませながら、日陽へ電話をかけた。周りの客が声を掛け合い、4人程の従業員がベンチを運び萌を寝かせ、保冷剤を慌てて持ってきてくれた。
やがて日陽が到着。
「皆には、見つかったって連絡しといたから」
「ありがとう」
従業員の1人曰く、すぐ近くに診療所があるとのこと。この頃の猛暑で救急車の出動が相次ぎ、もしかしたら手が回らないかもしれないとのこと。
「萌、歩けそう?」
萌は黙って首を横に振る。どうするか――日陽と万衣が悩むこと数秒。
「自分が萌さんを運びます」
康貴と同じゼミメンバーであろう、捜索組の1人――新聞部の3年男子部員が口を開く。いつの間に来ていたのだ。
「……なら、私が萌の荷物を持っていくから、万衣は戻って大丈夫」
ご親切にも、従業員が近くの診療所へ電話をかけてくれた。萌は男子部員におんぶされ、診療所にて点滴を受けることとなった。
「……よかった、大事に至らなくて」
ショーが終わり、万衣から報告を受けた朝陽はほっとしていた。
「皆も、暑い中うちの部員のためにありがとう。後で飲み物奢るから」
そして、捜索に加わった新聞部部員たちへ深々とお礼をした朝陽。アクシデントはあったが、無事取材を終えたのだった。
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