第9話:久々の対面
前期末の考査が終了し、8月に入り夏休みに突入。
「どうしてアクアスターズにしたんですか?」
考査が挟み訳を聞けなかったが、新聞部部長・
「実は……オープンした年に姉が行った時の記録をたまたま自宅で見つけまして。姉自身は映っていませんでしたけど。行ったという話は聞きましたけど、詳しいことは教えてくれず……」
「そうだったんですか……」
「姉は就職を機に遠方へ引っ越してしまい、連絡も取れていません。ですが人気の水族館になったことは確かですから、妹である私がこの目で確かめたい……なんて自己中心的な理由ですが」
伶奈の姉・
「いいんじゃないですか? お姉さんが語らないのは、何か事情があるかもしれませんし。無理に聞き出さないで自分で確かめましょうよ」
そして、部活が終了。朝陽は1人バスに乗り、アクアスターズへ向かう。
(
朝陽にとっては謎めいた水族館……何とも言えない印象になってしまったが、到着すると、テレビ越しに見ていた壮大な光景が目に飛び込んできた。夏休み期間中もあってか、多くの家族連れ・カップルで賑わっていた。
(……何があったのか分からんけど、他のお客さんや従業員全員、動物たちに罪はない)
入館料を支払い、隈なく館内を散策した朝陽。日陽とその友達、そして伶奈の姉が実際に目にしたものをしっかり目に焼きつけた。いつか凪咲と一緒に行きたいと、思える場所だった。
☆☆☆
1週間後、凪咲が日本に帰ってくる日がやってきた。朝陽は
「いよいよですね」
「なー。春休み以来だしな」
空港のロビーに到着し約30分後、凪咲からLINEが届く。
〈着いたよー。キャリーケース探してるところだからもう少し待ってて〉
朝陽は分かったという旨のスタンプを送り、10分後。
「あ、姉ちゃーん」
康貴が先に気づき、姉に手を振る。キャリーケースに手荷物を抱えた凪咲が小走りで朝陽と康貴のもとへ行く。
「元気で何よりだよ、凪咲」
「へへ。それはこっちのセリフだよー、朝陽君」
長いフライトの疲れを感じさせない凪咲。
「家で父さんと母さんが待ってるから、すぐ行くよー」
康貴が先頭を歩く。手にいっぱい持っていた姉の荷物を少し持ってあげている。恋人の朝陽が手ぶらで歩くわけには……とでも思ったのか、大きなキャリーケースを持ち、凪咲をほぼ手ぶらにしてあげたのだった。
やがて、
「ただいまー父さん、母さん」
「おかえり、凪咲。朝陽君もいらっしゃい」
姉弟の父が出迎えてくれる。玄関から既に美味しい匂いがしてくる。
「お邪魔します」
リビングに入ると、既に豪勢な昼食が並んでいた。以前の別荘訪問でお世話になった叔父とその奥様も同席している。
「叔父様、叔母様、その節は大変お世話になりました。写真部を代表してお礼を申し上げます」
朝陽は部長として別荘訪問の件についてお礼を行い、そのまま昼食となった。大トロの握り寿司やウニの軍艦といった、高価な海鮮を使ったお寿司も並んでおり、好き嫌いが特にない朝陽はどれも美味しくいただいたのだった。
昼食後、この後どうするか凪咲に尋ねる朝陽。
「ちょうど、今日から公開の観たい映画があったんだよね」
凪咲が見せてくれたのは、有名俳優たちがキャストとして声の出演をしているアニメ映画の公式サイト。公開前からテレビ番組でも時々取り上げられており、朝陽も気になっていた。
「じゃあ、観に行こうか」
「うん!」
玄関へ向かう朝陽と凪咲の後ろ姿を見ながら――
「……姉ちゃん、タフだな」
と、康貴はポツリ。食事の後片付けが終わると、気になったのか後をついて行くことになった。
しかし映画館に到着するとすぐ、康貴は後をついていたことがばれてしまった。
「せっかくだし康貴も一緒に観ようよ」
「いや、デートにならないんじゃ……?」
姉の提案に戸惑っていた康貴だったが、結局3人で観ることになった。席は凪咲を真ん中に隣り合わせで。
映画を観終わると、朝陽と凪咲とは自然と2歩下がって歩くようになっていた康貴。お盆期間で多くの人が行き交う中……
「俺のことは気にしなくてから、久々のデート満喫して欲しい……です」
羨ましいと思う一方で、正真正銘のデートをして欲しいと願う康貴。
「……分かった」
「康貴がそう言うなら、ね」
映画館を出て、下の階のショッピングモールへ移動。アイスクリーム店で最近発売開始した新商品の看板を見かけ、店内へ入る。2人1組のテーブル席しか並んでいないため、康貴はただ1人、カップルたちを横目で羨ましそうに見る。店内には朝陽と凪咲以外にもカップル客がいるからだ。
……カシャッ
さりげなく仲睦まじくアイスを堪能する先輩と姉の様子をスマホのカメラに収めた康貴。朝陽は気づいていたようだが特に何も言わず、アイスを完食。
(後で写真送っときます)
帰り道、手を繋いで歩く先輩と姉の姿を見ながら、康貴自身も充実したのか微笑みを隠すことはなかったのだった。
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