第2章:再会を信じて
第8話:就活生でありながらも
スーツ姿で講義に来たり、ゼミナールに参加したり……企業説明会への参加や志望理由の添削を受ける者が周りに出てくる中、朝陽は何も方向性が出ないままだった。過去には教養学部から教師を志し、教師免許を取り実際に教壇に立つ卒業生もいるという、ゼミの先生からの話も聞く。決して平坦な道ではないことは想像できるが、成績優秀な朝陽にはその道も向いている――という、先生の見方である。
(……そうか?)
確かに入学直後の実力テストで首席を取り成績を維持し続け、時よりゼミの仲間や妹・
そんな中、ある日の昼休み。
〈朝陽先輩、友達が急にサークル入って1人なので、一緒に飯いいですか?〉
食堂へ向かおうとすると、
〈いいよー、入口のとこで待ってる〉
学部が違うので、大学では部活以外に会うのは頻繫ではないが、時々昼食は共にする。
「おーい、こっちこっち」
康貴の姿を見つけた朝陽が先に声をかける。
「はーい」
お互いに持参した弁当を出したところで、康貴が。
「本当は部活の時に渡したかったんですけど……」
「どうした?」
康貴が取り出したのは、
「父さんが、卒業後どうしていきたいか決まっていないなら1度、うちの会社の説明会に来てみないかって、先輩に話してみてと言われまして」
「……そうだな。その手もあるな」
代表取締役社長のご子息であり、再来年度に入社の意志がある康貴は卒業まで気ままに過ごせることに羨ましさを感じていた朝陽だが、今は自分の将来を考える方が第一優先だ。
「考える時間もあるだろうし、説明会申し込みの締め切りもあるし、今渡した方がいいのかなと思いまして。総務課や広報課――教養学部でも無理のない課もありますし」
「ありがとう。行く方向で考えてみる」
☆☆☆
それから2週間が経過。朝陽はクリーニングしたてのスーツを着用し芝野電工の説明会へ赴いた。この日も猛暑日で外にいられなかったが社内は涼しく過ごしやすい。参加者は定員に達しており、今なお就活生に注目されている家電メーカーであるのも納得できる。
広報課より会社概要の説明が執り行われ、最後に姉弟の父である芝野社長が朝陽たち参加者の前に立ち、挨拶を行った。今までは社長自ら説明会で挨拶を行うことはなかったらしく、今回は異例のようだ。
(僕が来たからなのか……?)
と疑問に思いつつも、2時間に及ぶ説明会は幕を閉じた。
もしかしたら声をかけられるかもしれない――そう思った朝陽は他の参加者が全員退室するのを待って席を立った。会社を後にしようとすると……
「こんにちは、朝陽君」
背後からの声の主は、社長だった。
「……あっ、はい、こんにちは。お久しぶりです、お父様」
想定はしていたが少しびくっとした朝陽。
「今日は来てくれてありがとう」
「い、いえ。息子さんからお話を聞いたので。大学で会ったらしっかりお礼しておきます。とても興味深い説明会でした」
「それは良かった。……凪咲とは連絡取れているかい?」
「はい、ぼちぼち……ですが」
「あの子、お盆に休み取って帰ってくるつもりみたいだから。気長に待ってあげてね」
「あ、ありがとうございます」
朗報を聞いたのも束の間……週が明け、朝陽が部室の鍵を取りに行くと新聞部の部長・
「あ、その日予定ないですし大丈夫ですよ」
康貴へ確認を取ったのち、打診された日に2人で新聞部の部室へ向かった。数年前から毎年、写真部と新聞部がタッグを組み、訪問先に関する合同の記事を大学祭にて出している。今年の訪問先は――4年前の年明けに誕生し、年々来館者が増え続ける水族館『アクアスターズ』である。
(そういえば……)
当時高校1年だった日陽が、オープンして約1か月たった頃、友達と一緒に行ったという話を思い出す朝陽。友達が帰り道に号泣しながら走る若い女性とすれ違ったという、妙な話も。
「朝陽先輩?」
「……ん? あ……確か妹がオープンして日がたたないうちに行ったことがあるので、場所は分かると思います」
あれは過去の話だと割り切った朝陽は、今後の動きについて新聞部側と話し合いを続け、1時間半程度で打ち合わせが終了。時刻は間もなく夕方5時である。
合同取材は考査が終わり夏休み突入後、お盆明けすぐに決まった。まだ日にちはあるが、まずは考査に向けての勉強である。朝陽は途中まで康貴と一緒に帰ることにしたのだが、ブーブーとスマホが鳴っている。
「もしもし?」
『もしもし、朝陽君? 今大丈夫?』
凪咲からだった。
「うん。今部活終わって、康貴と一緒に帰るところ」
『康貴もいるなら、一緒に聞いてもらってもいい?』
「うん」
朝陽はスピーカーをオンにして、康貴にも音声が聞こえるようにした。
「姉ちゃん、お盆に休み取って帰ってくるみたいだよって父さんから聞いたけど……?」
『うん。お盆休みが昨日確定して、3日間無事取れた。そんなに長くはいれないけど、帰ってくるよ!』
お盆に日本へ帰ってくるという、凪咲本人からの嬉しい知らせだった。
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