第7話:見えた光
翌日。ぐっすり眠れたのだが、時計を見ると朝5時。
(まだ皆寝てるだろうし、その辺散歩してこようかな)
隣のベッドで
(……
と不思議に思いつつも静かに電話に出る。向こうの時間はおそらく昨日の夜8時頃だろう。
「……もしもし?」
『もしもし……ごめんね、急に電話かけちゃって』
「ううん。ずっと忙しかったの?」
『本当にごめん。思ってた以上にずっとバタバタ。仕事中ほとんど英語で頭使うばかりで、帰ったらバタンキューな感じが続いてたんだ。それと……』
「それと?」
『父さんから、朝陽君と康貴、妹さんたち写真部の皆に改装したての別荘を是非使っていってっていう話を聞いて。その裏で父さん……色々考えてくれてたなんて知らなくて』
久々に声を聞けてお互いに安心したものの束の間、康貴が目を覚ます。
「……おはよう、ございます……?」
起きて最初に目にした光景が、電話中の先輩の姿でいまいち状況が分からない康貴。
「おはよう、康貴。……凪咲から電話。少し姉弟で話すか?」
「姉ちゃんからですか!? わ、分かりました」
康貴は朝陽より、スマホを受け取る。
「もしもし、姉ちゃん?」
『うん』
「恋愛経験ゼロの俺が言うことじゃないかもしれないけど、ここまで朝陽先輩――ずっと寂しい思いして過ごしてきた。まともに連絡取れない中……」
『うん……自分のことでいっぱいいっぱいになってたなって、父さんから電話来るまで気づかなかった。それは反省してる。心の底からお礼しないと』
「父さんと母さんは旅行中だから、帰ってきたら俺から伝えとくよ」
『ありがとう』
「……姉ちゃん、お願いがある」
『どうした?』
「仕事が落ち着いてからでいい。9時間という時差を考えるのは大変かもしれないけど……たまには電話して、こうして近況報告し合ってみたら? 姉ちゃんは姉ちゃんが信じた道を歩んでほしいから、最低限でも、先輩のことを置き去りにしないようにやれることはやってほしいんだ」
急な電話にも関わらず、康貴がそこまで考えていたとは思わなかった朝陽。隣で聞きながら、感心していた。
『分かった。ここでの仕事に慣れてきたから……やっと時間取れそうな気がしてきたし』
「……やっと時間取れそう、だそうです。先輩」
康貴は一安心した表情を、隣に座る朝陽に見せた。
「凪咲――今の仕事、楽しい?」
『楽しいというより、大変さが勝るかなー。……そろそろ夕ご飯にするから、また連絡するね! 話せて嬉しかった』
「僕も、嬉しかった。またね」
『うん。また連絡する。またねー』
こんなに長電話したのは、いつ以来だろう。かなり喉が渇いた。
「……それだけ、お父様は僕と凪咲とのことを気にかけてくれてたってことなんだな」
「姉ちゃん自身、英語を活かした仕事がしたいと両親に話したところ、反対されるどころかむしろ背中を押してくれたんです。今の仕事での経験を土台に、将来うちの会社でやっていきたいのかもしれませんね」
「ご両親の後を継ぐ……に、なるかもしれないのに?」
「でも、姉ちゃんが決めたことですから。弟として、そっと見守っていこうかなと。……俺は大学卒業したら入社して、両親から色んなことを教わろうと考えています」
☆☆☆
(まだ3年なのに、康貴は卒業後の進路考えてるんだなぁ)
ご子息という立場上、後を継ぐなら当然の考えだろう。朝陽は同じゼミの仲間から貰った複数の会社のパンフレットを見ながら、決まらない自分の将来について悩んでいた。
(何がしたいんだろう。……写真が趣味の僕には、どれも合わないなぁ)
せっかく貰ったものを捨てるのも勿体ないので、次のゼミナールの時にでも返すことにしたのだった。
一方の凪咲は、自分のことしか見えなかったことに反省し、朝陽とどうコミュニケーションを取っていくか、仕事中も考えていた。
「Nagisa. For now, you may get nervous in this if you settle this inquiry.〈凪咲。この問い合わせを片付けたら、今日のところはこれであがっていいよ〉」
「OK. Thank you.〈分かりました。ありがとうございます〉」
この仕事も、やっと落ち着いてきた。だが今夕方5時で、日本は翌日深夜2時である。さすがに無理があった。翌日も朝早い。そんな日々が続き、思うようにいかなかった。
1日1回はLINEを送るように心がけていた凪咲だったが、1対1での電話はなかなか実現せず。朝陽は卒業後の進路に悩むまま、平行線な毎日が続き――やがて6月へ。日曜に出勤した代休で1回平日休みを確保できた凪咲は、その日に朝陽にビデオ電話しようと提案。
「もしもしー顔見るのめっちゃ久しぶりだな」
開口一番、朝陽がそう言うとお互い笑顔がこぼれる。時差を乗り越え、異動後初めて1対1で、しかもビデオ電話を実現したのである。
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