第6話:芝野家の別荘訪問
5月に入り、別荘訪問の時がやってきた。
「お家には2、3度行ったことはあるけど、別荘は初めてだな」
あれから
「ご立派なお家だったんですか?」
万衣が朝陽に尋ねる。
「どこまで喋っていいか分からないけど……少なからず僕らの家よりかはご立派だったよ」
4人の前に1台の車が到着する。助手席から康貴が顔を出す。
「皆さん、お待たせいたしましたー」
車を運転するのは、朝陽も初対面の男性だ。康貴曰く、芝野電工の副社長を務める叔父だそうだ。叔父の運転で、2時間近くかけ別荘に向かう。
「両親は昨日から3泊4日の旅行です……アメリカへ行くとかで。なので代わりに叔父の案内で行くことになります。よろしくお願いします」
家族旅行として2月から計画されていたらしいのだが、凪咲の異動が決まり、康貴と3人でという話になっていた。別荘のリフォームが終わる前、康貴がどんな風になるのか見てみたいと父に話したところ、父の提案で写真部としての訪問が決まったのである。……旅行より別荘を取ったということである。
昼前に到着。移りゆく景色に見とれていた萌とは裏腹に、
「日陽、万衣! 着いたぞー」
朝陽に叩き起こされた2人は目を擦りながらも車を出る。
「……ここ、本当に同じ東京なの? テレビでしか観たことないけど、匂いから何から違うね」
自然の匂いと照りつける日差しで完全に目を覚ます日陽。万衣は景色よりも真新しい別荘に目が向いていた。
「……凄いや」
叔父は翌日の夕方に迎えに来るとのことで、冷蔵庫に食材を入れてあること・綺麗に使うように説明をしてから、元来た道へと去っていった。
「母さんが旅行行く前に買い出しするものをメモ書きにして教えてくれたんです。昨日は叔父と2人で買い物して、ここまで運んだんですよね……」
「僕たちのためにここまでやってくれたご両親と叔父様に感謝だな」
「まあ、けっこう疲れましたねぇ……」
疲れの色を見せる間もなく、康貴は一行を中へ案内する。就寝部屋は2つあり、男子と女子で分かれて使うことになる。
「……康貴?」
「はい?」
康貴と2人きりになったところで、朝陽は彼に確認したいことが。
「凪咲が行ってから1か月たった。少しだけど、近くに彼女がいないという日々に慣れてきた」
「ここへ行くことが決まってから、朝陽先輩……前を向き始めたな、そんな気がします。姉ちゃんが行ってからずっと、父さんと母さんは朝陽先輩のことけっこう心配していたんです」
時差も伴う遠距離恋愛である。満足に連絡を取れないのは避けられない。
「ご両親はどうしてここまで、僕のことをよくしてくれるんだ?」
「……『朝陽君に寂しい思いをさせているのではないか』と、手紙を渡された時に父さんが言っていたんです。先輩宛の手紙は見ていないんですが、姉ちゃんにもゆかりのある別荘で少しばかり思い出を作って、寂しさを紛らわせてほしかったんでしょう」
昼食は叔父の奥様特製のおにぎりとサンドイッチ。昼食後は周辺を散策したり、リビングに併設されているカラオケを楽しんだり……各々が充実した時間を過ごしていた。
夕方になり、康貴は庭に何かを運んでくる。バーベキュー用のコンロだろうか。見かねた朝陽が準備を手伝う。
「女子組は冷蔵庫にある肉とか野菜とか、持ってきて。バーベキュー用で固めて置いといてあるから」
「「はーい」」
康貴からの指示で、日陽・万衣・萌の女子組はキッチンにある冷蔵庫へ向かう。5人分となると結構な量だ。2往復して、食材を持ってきた。
「部活って、いいですね。こんな豪勢なお泊まり会ができるとは」
火起こしが終わり、次々と食材を焼いていく中、萌がニヤニヤしながら先輩たちに言う。
「それはうちだけだと思うけどね……」
万衣が苦笑いを浮かべながら、人数分のお茶を入れて配っていた。
「うんうん。最初で最後かも。……康貴先輩にかかってますよ?」
「我が家の財力を当てにするな」
日陽の言葉に康貴がピシャリ。
「まあまあ、焦げないうちにいただこうよ。……ん~カルビ美味いわぁ」
場を和ませたのは、最年長の朝陽。食材の中に高級肉のステーキもあり、普段口にしない絶品のバーベキューだった。
バーベキューの後は全員で後片付けをし、男子、女子の順に入浴。やがて就寝となるが……雲1つない夜空を窓からぼんやり見る朝陽。
「眠れないんですか?」
康貴が朝陽の隣に座る。
「まあな」
そういえばと、康貴は何か思い出したかのような表情で朝陽に――
「……あ、朝陽先輩」
「ん? どうした、急にかしこまっちゃって」
「……い、いや……先輩は、これから姉ちゃんとどうしたいんですか? これから就活だって本格化するでしょうし、姉ちゃんは姉ちゃんでまだまだ忙しそうだし……」
「僕が今考えているのは――」
「はい」
「異動っていったって、いつかはその任務を終えて日本に帰ってくる。僕はそう信じている。凪咲のことを信じて待ち続けるしかない。向こうも、僕のことを信じてくれているはず。だから、特に変わったことなく自分のことをやっていく。凪咲がそれに応えてくれるようにしていかなきゃ。付き合ってだいぶたったし、いつかは結婚だなんて思うかもしれないけど、年齢的にまだ考えられないかなぁ」
先輩の言葉を聞いた康貴は……何も言葉を発さず先輩の右腕を掴んでいた。
「何か変なこと言ったか? てか、どうした? 気味悪いなぁ」
「いえ……そんなことは? 両親も大変喜んでくれると思いますが?」
「……そんなことしたいなら早く彼女作りなさい」
「えー」
こんな小競り合いしながら、この仲良し先輩後輩コンビは眠りについたとさ。
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