第5話:『弟』の思い
「……そうか……。俺――何気にほっとけなかったんだよな、お兄さんのことをさ」
兄・
「お兄さんのことを気遣ってくれたのは、彼女の弟として嬉しく思うよ」
ロッカー室付近で話し込むと他の学生の邪魔になりそうなため、キサキに移動。
1人の後輩として、そして彼女の弟として――今は当たり前のように1学年先輩の朝陽と仲良くしている康貴だったが、日陽の様子を見ているとあの頃を思い出すのだ。
「……日陽。実は君のお兄さんと、姉ちゃんにしか言ってなかったことがあってさ」
「はい?」
「部活で出会った自分の先輩と自分の姉ちゃんが、不意な出会いをきっかけに付き合うなんて思ってなかった。付き合う前に会ってた頃の姉ちゃんは、会う度にどこか楽しそうだったけど、全然気にしてなかった。付き合うことになったって姉ちゃんから初めて聞かされてから……暫くは複雑でしかなかった」
いきなり難しい立場に立たされた康貴は、先輩にも、姉にも、どう接したらいいか分からない時期があったのだ。
「……康貴先輩の方が悩みがたくさんあるのでは? でもここの所、お兄ちゃんすごく寂しそうなんです。余計なお世話だったのかなぁ……」
「そんなことはないさ。こればっかりは、時間が解決してくれるしかないと思う」
「……というと、この状況に慣らす――ということですか?」
「まあな。お兄さんは1人の先輩として、めげずに俺に接し続けてくれた。だから、深く考えなくなって、心を開けるようになったのかもしれない。友達のような関係になれたから。……姉ちゃんが自分のことが落ち着けばぼちぼち連絡を取れるようになるし、次第にお互いに遠距離というものに慣れていくと思う」
「……続くんですかね、遠距離って」
康貴の思いを知った日陽は、ぽつり呟く。
「どうだろうなぁ……彼女いない歴=年齢の俺に聞かれてもなぁ」
「同じゼミの友達がオンラインゲームで知り合った男性の方と付き合っているんですけど、常にそばにいないことが当たり前でいるような雰囲気しているんです。なかなか会えないことに関してちょっと苛立ちを感じているみたいな様子、先週のゼミナールの時に見られまして……」
「お互いを信じ合えるかにかかるんじゃないか? それはお兄さんと姉ちゃんにも言えることだが」
1時間近く滞在した康貴と日陽。康貴は日陽の分までジュース代を支払い、それぞれの帰路に着いた。
「……日陽。康貴から色々聞いた。昨日はごめんな」
大学から帰宅して早々電話がかかって話し込んでいた朝陽が、電話を終えて日陽の部屋に入って謝罪の言葉を述べた。電話の相手は、康貴だった。
「ううん、大丈夫。お兄ちゃんに少しでも、元気出してほしかったんだ」
夕食の準備ができ、一緒に向かう米村兄妹。同じ頃、康貴は父よりある知らせを受けることになる――。
☆☆☆
時は4月下旬。もうすぐGWに突入する頃合いである。
「朝陽先輩、部活始める前に俺から大事なお知らせがあるんですけど……」
「どうした?」
「実はですね……」
部員全員の視線が康貴に集まる中――自宅から持ってきたお知らせを解禁する康貴。
「奥多摩という、都内山奥にある街で自然豊かな所に我が
「べ、別荘!?」
「実は康貴、芝野電工という家電メーカーの会社の社長さんのご子息なんだよ」
「ってことは、別荘持つぐらいのお金持ちなんですね、羨ましい……」
朝陽からの補足説明を聞き目を輝せる萌を前に、話を進めづらくしている康貴。
「創業者の亡き祖父から父へ社長引き継いだのは、俺が大学入学してからなんでそんなにたってないですが。……あのー、だいぶ話が逸れちゃったんですが……」
「とりあえず皆、康貴からの話を聞こうか」
朝陽が場を静まり返らせてから、改めて康貴より話を始める。
「芝野家の別荘が実は、リフォームという形で直していたんです。先日社長である父より、別荘のリフォームが終わったとの知らせを受けました。それで、我々青城大学写真部の皆さんに、GWという大型連休を機会に是非、うちの別荘に来てくださいと」
康貴は父の言葉を証明するものとして、預かっていた手紙を取り出す。
「『青城大学写真部の皆様へ、いつも息子が大変お世話になっております』」
「『代表取締役社長』……改めてすごい息子さんですね、康貴先輩」
「俺はいいけど、赤の他人の皆に使っていいよだなんて言うとは、父さんもオープンだなって思ったよ」
微笑みながら、手紙を畳む康貴。そのまま朝陽に手渡す。
「実はこの手紙には、続きがありまして。それを朝陽先輩に読んでほしくて」
「ぼ、僕に?」
「詳しくは部活終わってからお話します」
芝野家の別荘訪問も兼ねて、GWに親睦会をすることが決まったのだ。
(遠距離になった今、朝陽先輩は姉ちゃんとどうやっていきたいのかを知りたい)
父の思いも託された康貴は、先輩に姉・
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