夢を追いかけた先に、彼女はいる?
はづき
プロローグ
それは、先輩の卒業式の日にあった出来事である。
「ここまで色んなことあり過ぎたけど、この日まで来られたのは皆がいたからだと思う。小さい部だけど、この先の君らの活躍を心から祈ってる。それに――俺に代わる経済学部の新入生が入ってくるといいな」
万真が引退後、メンバーが教養学部だけになった写真部。仕方ないとはしつつも、どこか気にしていたのだろう。
「大遅刻だけど……都内フォトグラフィアコンテストの秀作入賞おめでとう、朝陽」
今年の初めに授賞式が行われ、高校時代から個人で毎年参戦していた朝陽だったが、今年度のコンテストで初めて入賞という結果を出した。この大学に写真部があったから、みるみる力をつけられたのだ。
「ありがとうございます」
短いながらお世話になった先輩の言葉を受け取った朝陽は、これからやってくる後輩たちに、自分の技術をしっかり伝えていこう――そう決めたところで解散となった。
先輩たちと別れ、朝陽は1人で家まで歩いていると、良くない光景が飛んでくる。若い女性の方が複数の男らに囲まれ困っている様子だ。男の1人が彼女の腕を掴み、どこかへ連れて行こうとする。会話は所々聞き取れないが、確実に彼女は嫌がっている。
(……周りは見て見ぬふりなのか……)
信号が赤になり、横断歩道を走って後を走って追いかける。
「……あ、あのっ!」
追いついて、連中に大声をぶつける朝陽。
「何だ?」
睨みつけてくる男たちだけでなく、何事かと女性が後ろを振り向く。
「……未来ある若い女性に何やっているんですか!?」
「んー? おめぇには関係ないことだ」
この言葉にカチンときた朝陽は、女性の腕を掴んだままの男の脇腹に一蹴り入れた。そのはずみで男の手から離れた女性がその場に転ぶ。すかさず彼女の右手を掴んだ朝陽は走って彼女とその場から去った。朝陽の一瞬の蹴りに手も足も出なかった男らは間もなく警察のお世話になった。
家の近くまで来たところで、朝陽の足が止まる。
「あ、あの……」
「はい?」
「先程は、ありがとうございました……。本当、どうなるかと思いましたぁ」
不意に見せた彼女の笑顔にドキっとした朝陽は、
「いっ、いえっ。と、当然のことを……しただけ……なので……。ぼ、僕の家、この辺なので……しっ、失礼しますっ!」
照れからなのか、彼女に軽く一礼して足早に自宅へ向かってしまった。この時は、再会の日があるとは、知らずに。
☆☆☆
朝陽が2年に進級し暫くたった頃――
「……あれ? もしかして君、前助けてくれた男の子ですか?」
自宅近くの公園で、生い茂る木々と青空へカメラを向けようとしていた彼に声をかけたのは、あの時の彼女だった。
「……へ?」
朝陽はぽかんとしていたが、彼女のことをすぐに思い出す。
「どこかで見覚えのある顔の子いるなーって思って。あの時名前聞こうとしたけど、お家帰っちゃったから聞けないままだったんですよねー」
「……そ、それは失礼しました」
「別に大丈夫ですよー。無我夢中だったんだろうし」
「……僕は、米村朝陽と言います。こう見えて、大学2年生です」
「……やっぱり年下かぁ。私、
「やっぱりって何ですか?」
不満そうに凪咲に尋ねる朝陽。
「そんなオーラを感じた? から?」
芝野――そういえばどこかで聞いたことのある苗字だなと思ったが、口には出さないまま。
「朝陽君――こないだのお礼、ちゃんとしたくて。近々どこかでご飯一緒に行きませんか? 私が奢ります」
何故か分からないけど、この女性からのお願いは、断れない――。
「……分かりました。次の週末、先輩方が補講入った関係で部活休みになったので、空いてますよ」
そして連絡先を交換した2人。食事の約束を皮切りに、不定期に会うようになっていった。凪咲が、この春写真部に入部した経済学部の新入生・
――そして、朝陽が凪咲を男の連中から助けてから、約半年後。
「……あの時朝陽君が助けてくれなかったら、今の私はいない。ものすっごく感謝してる。いつも真剣な眼差しで写真を撮る朝陽君、大学の話を楽しそうにする朝陽君……色んな君を見てきた。これからも君の隣で、見てみたいよ。……朝陽君のことが、好きだよ」
大学祭の準備の最中、凪咲より食事に呼ばれた際に告白される朝陽。まさか彼女から告白するとは思っていなかった。
「あ、ありが……とう。今まで2人程女性の方とお付き合いしたことはあるけど、僕のことをそう見てくれるのは凪咲さんが初めて……だから、僕も、好き。僕だけに、素敵な笑顔……見せて欲しい、その笑顔……守りたい」
先手を取られたが、たどたどしくも想いを明かした朝陽。めでたくお付き合いが始まることになる――。
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