第6話
中間テストが無事に終わったので、次の日曜日に花帆と二人で映画を見に行く約束をした。
希望も誘ったけど、
「ごめん、彼氏とデートの予定入れちゃった」
と断られてしまった。
「希望この前彼氏と別れたって言ってなかったっけ?結局より戻したんだ?」
あたしが聞くと、花帆も続けて
「だよね、確か大学生の」
「ああ、瑛二くんならより戻してないよ。新しい彼氏出来たから」
「ええっもう出来たの??」
あたしと花帆はびっくりして大声で叫んでしまった。
希望はあたし達三人の中で一番女子力が高く、美人でおしゃれで大人っぽいので、中学の時から彼氏が途切れないらしい。
恋愛には自由奔放な所があるから、十七年間彼氏のいないあたしと花帆には、ちょっと理解出来ない面もあった。
日曜日、あたしは花帆と駅で待ち合わせをして映画館に行った。
映画は、主人公の男性が戦国時代にタイムスリップしてしまうというストーリーで、そこで出会った女性との切ない恋や、迫力のある戦のシーンなど見応えがあった。
最後に主人公が戦で命を落としてしまったので、あたしと花帆はハンカチがビショビショになるくらい大泣きしてしまった。
「いい映画だったよね。希望も来れば良かったのに」
「今月いっぱいやってるから、そのうち彼氏と観に行くんじゃない?」
映画館の出口に向かって花帆と話しながら歩いていると
「まりん、花帆」
と呼ばれる声がしたので振り返ると、男の人と腕を組んでいる希望が手を振っていた。
「えっ希望?」
「ちょっと何してんの?こんなとこで」
「何って彼氏と映画観にきたんだけど。やだ凄い偶然」
照れくさそうに笑う希望。
あたしと花帆は気まずそうに愛想笑いしながら、チラッと彼氏の方を見た。
彼氏はあたし達の方を見ると笑顔で会釈してくれたので、あたしと花帆もつられて会釈した。
「俊ちゃん、この二人がさっき話していた友達のまりんと花帆」
「あー、いつも仲良しの三人組だっけ?希望がいつもお世話になっています」
男性はあたし達に爽やかな笑顔を向けた。
俊ちゃんって呼んでるんだ。年は二十五歳くらい?三十は行ってなさそう。
背が高くてスラッとしていて、今流行りの塩顔イケメンってやつ?あたしの好みの顔ではないけどモテるタイプだと思う。
でもSNSで知り合った女子高生と付き合うなんて、軽い男かも知れない。
希望が遊ばれていないか心配だ。
「良かったらこれからみんなで一緒にランチでもどう?近くに美味しいフレンチのお店があるんだけど。もちろん僕がご馳走するから、ね、希望」
「そうだね、みんなで行こうよ」
二人の提案にあたしはちょっと引いてしまってチラッと花帆の方を見たら、花帆も引いているようで目で訴えていた。
「あ、いえ、二人の邪魔したくないし、あたし達は他に行きたいお店があるので」
と言うと、希望と彼氏は少し残念そうな顔をした。
「じゃあまた学校でね」と希望と別れて、その日は花帆と二人でパスタを食べて、可愛い雑貨のお店を少しブラブラして帰宅した。
次の日学校の中庭で、あたしと花帆は昨日の彼氏について希望に聞いてみた。
「ああ俊ちゃん、萩原
希望はお菓子作りが趣味で、よく自分の作ったスィーツをインスタにアップしていた。
「でも希望、SNSで知り合った人と簡単に会ったりするのは危ないんじゃない?変な人だったらどうするつもりだったの?」
あたしが言うと、花帆も「そうだよ」と相槌を打った。
「まあ、タイプじゃなかったらバックれようと思ってんだけどさ、予想以上にイケメンだったし。それに社会人って学生と違ってお金持ってるじゃん。高い店連れて行ってくれるし、時々服とかコスメとか買ってくれるし。どうせ期間限定なんだから、今だけ楽しんじゃおうと思って・・」
「え?期間限定って」
「俊ちゃん、来年の春結婚するから、今年のクリスマスでお別れするんだ」
あたしと花帆は固まってしまった。
「え、ちょっと待って、あの人婚約者がいるって事? 希望浮気相手にされているんだよ。それでいいの?」
「だから納得して付き合ってるんだから、別にいいでしょ。真面目すぎるんだよまりんは」
「真面目も何も、婚約者の人はその事知らないんだよね。希望さ、その人の気持ち考えた事ある?二人で酷い事してるんだよ」
「知らないんだから婚約者も幸せじゃん。別にあたし俊ちゃんの事奪う気もないし、どうせあと二ヶ月で別れるんだから問題ないでしょ」
「問題あるよ!」
あたしと希望が口論になってしまったので、「二人ともやめようよ、ね」とオロオロする花帆。
「あーあ、まりんなんかに話すんじゃなかった」
希望はブツブツ言いながら言ってしまった。
希望と喧嘩してしまった。
あたしは家に帰るとため息をついて、ベットに腰かけた。
いつもならお昼休みは、希望と花帆の三人で何でもない話で盛り上がって、あっという間に時間が過ぎてしまうのに、今日は希望は一人でどこかに行ってしまい、帰りも一人でさっさと帰ってしまった。
あたしと花帆は、希望に彼氏と別れるように説得するか、それとも友達と言えどもプライベートの事だし、このまま放っておくか色々話し合ったけど、結局答えが出なかった。
あたしはふとベットに置いてあるイルカの抱き枕に目をやって、それをギュッと抱きしめた。
真凜先生だったらこういう時どうするんだろう?
この抱き枕は、真凜先生に再会した後、ネットで検索して購入した。
十年前、真凜先生からイルカのキーホルダーを貰った事がきっかけで奇跡の再会が出来た。
あたしの中で真凜先生の代理キャラがイルカになってしまったので、部屋のカーテンも枕カバーもイルカの柄に変えて、ペンケースやノートなどの文房具もイルカ要素があるものばかり買ってしまって、いつのまにかイルカグッズを集める事にはまってしまった。
「相談してみようかな、真凜先生に」
まだ十七時過ぎだし、今ならまだ学校にいるかも知れない。
あたしは抱き枕をベットに置いて、素早く立ち上がり学校に向かった。
真凜先生が車で通勤している事はリサーチ済みなので、あたしは白浜女学院の職員用の駐車場で待ち伏せする事にした。
真凜先生の愛車は白のスポーツカー。まだ車があれば学校にいるはず。あたしは先生がいつも駐車している場所に行ってみた。
車がない。もう帰っちゃったんだ。
あたしはがっかりしてトボトボと歩いていると、裏門のところに真凜先生が立っているのが見えた。
あれ?帰ってなかった。今日は車じゃなかったのかな?
「真凜先・・」
あたしが声をかけて駆け寄ろうとしたら、反対側から黒のアウトドア向きのスポーツカー(SUV)が真凜先生の目の前に止まったので、あたしは思わず電信柱の影に隠れて、様子を伺った。
運転席に乗っているのは男性だった。
もしかして彼氏?真凜先生彼氏いたんだ。
あたしはみぞおちの辺りがズシっと重くなるのを感じた。
そうだよね。真凜先生は大人だし美人だし、いない訳ないじゃん。何で今まで考えつかなかったんだろう・・
あたしが泣きそうになっているのと裏腹に、真凜先生はその男性の方を見て嬉しそうに微笑んで、助手席側のドアを開けた。
「えっ⁉︎」
あたしは思わず声が出てしまった。
ドアを開けた時、車内のライトに照らされて、一瞬男性の顔がはっきり見えた。
その男性は、先日映画館で会った希望の彼氏だった。
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