第4話

教室に行くと、佐々木先生は改めて自己紹介と挨拶をしてくれた。


『真凜』は漢字だった。まりんお姉さんの名前はどうだったんだろう?


それからあたしにとって衝撃的な話をした。


「先生もみんなと同じ白浜女学院の生徒だったんですよ」


この学校の卒業生?


いつ?何年前に卒業したんだろう?


「卒業したの何年前ですか?」


聞きたかった事を希望が聞いてくれた。


「えっと九年前だったかな」


九年前!先生はまりんお姉さんと同い年だ!


「じゃあ先生二十七歳だね」


「アラサーじゃん」


「そうだね、アラサーだけどそれが何か?」


教室のあちこちから笑い声が聞こえて、すっかりみんな美人で気さくな佐々木先生と打ち解けていた。


「はい、じゃあそろそろ出席取りますよ。浅田さやかさん、井上玲那さん・・」


出席取ってる間、あたしはずっと考えていた。


この学校の卒業生、同じ年齢、名前が真凜、これは偶然?


初恋とは言え、まりんお姉さんに会ったのは十年前の一度だけ。


はっきり顔を覚えているわけでもない。でもこれだけ共通点が揃っていたら、もしかして。


「永倉まりんさん、永倉さん」


「あ、はいっ」


あたしは呼ばれた事にすぐに気づかず、慌てて立ち上がってしまったら周りは大爆笑。


「どーしたまりん」「ボーッとしすぎ」


希望と花帆に突っ込まれた。


「す、すみません」


あたしは恥ずかしくて顔を真っ赤にして、ストンと椅子に座った。


「先生と同じ名前だね。よろしくね」


佐々木先生は優しい笑顔で微笑んでくれて、あたしはまた胸がギュッと締め付けられて、ドキドキが止まらなくなった。

朝のホームルームが終わって、号令をすませると、佐々木先生は教室を出た。


とにかく確かめてみよう。


こんな偶然あるわけないと思ったけど、でももしかしたら佐々木先生はあの時の・・


あたしはスクールバッグにつけていたイルカのキーホルダーを外して、先生を追いかけた。

「佐々木先生っ」


廊下を歩いて職員室に向かっていた先生は、あたしの声に振り向いた。


「あなた、確か永倉さん?」


「はい、永倉まりんです。先生、あの、これ何か分かりますか?」


あたしは震える手で、イルカのキーホルダーを先生に見せた。


「これは・・」


先生はキーホルダーを手に取ってしばらく見つめていたけど、やがてハッとした表情になった。


多分貝殻の形のレジンに彫ってある『Marin』という文字を見たんだと思う。


「えっ何で?これ私が昔スクバにつけてた」


当たりだ!この人はやっぱりあの時の


「ちょっと待って、これ確か電車で会った女の子にあげたんだよね。何であなたが」


佐々木先生は頭が混乱している様子だったけど、あたしは感動で胸がいっぱいになって、佐々木先生をじっと見つめていた。


「もしかしてあなた、あの時のまりんちゃん?」


「はい」


「ええっ、そっかぁ、あの時の・・こんな偶然あるんだ。もしかしてこのキーホルダーずっと大事に持っててくれたの?嬉しいな」


先生は何度も何度も信じられないと言った感じで、嬉しそうにあたしを見ていた。


あたしはちょっと照れ臭くなっていた。


「あっそうだ、あの時お母さんお腹に赤ちゃんいたよね?無事に産まれた?」


「はい、妹です。もみじと言って小四になりました」


「小四かぁ、早いなぁ。もみじちゃん可愛い名前だね。あ、もっと色々話したいけど、そろそろ職員室戻らないと」


「はい、引き留めてしまってすみませんでした」


あたしは一度頭を下げてからもう一度先生の顔を見ると、先生は少しだけ無言であたしを見つめて


「素敵な女の子に成長したあなたと再会出来て嬉しい。これからよろしくね、まりんさん」


と言ってくれた。


「こちらこそよろしくお願いします。真凜先生」


また後でね、と手を振って職員室に戻る真凜先生を見送った後、あたしはうきうきで教室に戻った。

「あ、まりんどこ行ってたの?」


希望と花帆が駆け寄ってきた。


「うん、ちょっとね」


「なんかニヤついてる?いい事あった?」


「うん、なんてゆーか、あたしって凄い奇跡を起こせる人間なんだなって思った」


自信満々に言うと、二人は「は?」と不思議そうに顔を見合わした。


そりゃあね、浮かれるよ。


だってあたしはずっと会いたいと思ってた初恋の人に、これから毎日会えるんだもん。


真凜先生と共に、最高の高校生活を送るんだ。


この奇跡の再会に感謝しながら。

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