仕置
世界の何処かに存在し、未だ誰にも悟られていない場所にネビュラの研究室はある。
薄暗く様々な機材が置かれた研究室に木霊するのは、ラスターの絶叫であった。
「やめてやめて! いたいいたいぃぃ!」
台に縛り上げられ身動ぎするラスターの腹を裂いて内臓を取り出し、溶液に満たされた器へと入れていくのはネビュラであった。
眉一つ動かさず淡々とラスターが苦痛に藻掻き苦しみ叫ぼうが手を止めず、それを腕を縛られ吊るされたポーラは直視できず目を逸らしながらも、自身も下半身を酸性の液体が満ちる器に少しずつ入れられ溶かされる。
「アルダが失敗した者には罰を与える、って言ってたから、考えてみた。これでいいかな?」
「申し訳、あり、ません……反省、してますから……やめ、て……」
弱々しく謝罪するポーラの言葉を聞き流すようにネビュラはラスターから内臓を手で引きちぎり、噴き出す血を見てラスターは筆舌し難い絶叫を上げポーラの耳にもつんざき脳裏へと刻まれていく。
その後もネビュラは淡々とラスターの内臓を取り出し、ほぼ出し終えると今度は戻す作業を始め返り血まみれなのも気にせず丁寧に縫合し、魔法を使い、後ろにある装置を操作しポーラを引き上げ上半身だけになった彼女を見ても何も思わない様子であった。
白目を剥いて生きてるかどうかわからないラスターの手術を終えると、今度はポーラの拘束を解いて台に乗せ、懐からカードを取り出す。
「発動、強制再生」
使われたカードが黒き光を放つと共にポーラの溶けて失われた下半身がみるみるうちに生えていき、だがその苦痛にポーラは海老反りになりながら悲鳴を上げ、やがて再生を終えると息を切らしぐったりとする。
ネビュラは使ったカードが砕けるように消えると何度か手を握っては開き、首を傾げると何かを訴えるような目を向け手を伸ばすポーラと目を合わせた。
「ごめん……なさ、い……」
「このくらいならいくらでも直せるか……もっと壊しても大丈夫そう」
ネビュラが向ける言葉は涙を流し反省するポーラへ向けたものではないどころか、道具としての耐久性を考えている。それにはポーラはリオへ言い放った兵器として欠陥品という言葉が自分に返って来たと自覚し、身体を起こし台から落ちながらもネビュラの足にすがりつく。
「なんでも、します……だから、どうか捨てないで……ください……」
「まだ君らは使えるみたいだから廃棄はしない。材料集めもしてほしいし……でもそうか、戦力差をどう埋めるかを考えないといけないのか」
懇願をあっさり受け入れながらもポーラに構わずネビュラは歩き進み、その姿に俯きながらもポーラは処分を免れた事を安堵する。
やがてラスターも目を覚まし、ポーラが拘束を解いてやるとすぐに姉弟は寄り添い合う。
「わたしたちは、まだ廃棄されない」
「姉貴……ごめん」
「構わない。わたしたちは作られた存在、成果を出さなければ処分される……今度は、成功させよう」
姉弟が目を向ける先に立つネビュラはその奥にあるものを入れる水槽を見つめ、ボコボコと蠢く姿に首を傾げながらも静かに頷く。
「うん、もう少し……もう少しでアスタルテが完成する。おいでポーラ、ラスター」
呼ばれた二人が弱々しい足取りでネビュラの隣に立ち、甘えるようにしがみつきながらそれを見上げる。
水槽の中に丸くなって眠る尻尾を持つ裸の女性の姿。背中や手足の一部が鱗かトゲのようなものが生えており、アスタルテと名付けられているそれが何かはわからずともネビュラの目的がそれだとわかり、身体をさらに寄せた。
「ネビュラはこれの為におれらを使うんだよね? ならもっと使って」
「わたしもラスターと同じです。もっと利用してください、わたしたちはあなたに作られた……あなたの為に壊れて死ねれば、それでいい」
そうだねとネビュラが即答する事に意味などないとはわかっている。だがそれでも、二人は創造主に付き従うしか生きる道はない。
そんな姿を水槽の中のアスタルテが微かに目を開いて見つめた。何を思うのか、何を考えるのか、何を認識したのかは作り手たるネビュラですらわからないが、確かにそこに何かあるのだけは感じ取れてネビュラは水槽に手を触れる。
「アスタルテが完成して、エルクリッドもいれば目的に必要なものは揃う。答えに、辿り着ける」
目を閉じるアスタルテの水槽から手を離しながらネビュラは目的へと突き進む。数多の生命を玩ぶ事すら過程に過ぎず、禁忌の創造をしてきた事すらも全ては求める答えの為に過ぎない。
皆が明日を目指し進む。それが光か闇かは、その者次第であるのだが。
To the next story……
星彩の召喚札師Ⅴ くいんもわ @quin-mowa
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