救援の戦星

 ローズの手から剣と盾が落ち、その刹那にアイリスが素早く槍で刺し貫きに来る。すぐにリオはカードを切ろうとするが、再びポーラが狙っているのに気がつき判断に迷う。


(ローズ……!)


 アイリスの残酷なる一撃がローズを貫いた、かに見えたが、間一髪意識を取り戻したローズは脇腹を刺されながらも致命傷を避けていた。

 だがすぐにアイリスは槍を引き抜き掌底でローズの顎を殴り体勢を崩させると、身体を一回転させての強烈な踵落としを決めて叩き落とす。


「やはり試作型はこの程度か。だが回収しておけばネビュラ様は興味を持つかもしれないか……」


「試作、型……?」


 弱々しく身体を起こしながらローズが試作型と呼ばれた自身の事を考え、降り立つアイリスが槍を突きつけながら見下ろす姿に頭が痛む。

 以前にも同じような状況があった気がした。いつの記憶かわからないが、それは確かにあったと。


 ローズの兜が少し欠けて左目が僅かに見えるようになり、それを見てポーラはやはり不良品かと吐き捨てリオが鋭く睨みつける。


「ローズは私のアセス、大切な仲間です。たとえそれが、作られた存在だとしても……!」


「リオ……」


 これまで黙っていた事実を言い切りながらもリオは凛とし怒りを抑え、その姿にはシェダや、リスナーバインドで拘束され続けているエルクリッドも、ローズが何者であろうと関係ないと迷いを切る。


 それに対しポーラはくだらないと言い切り、ラスターの頭を踏みつけながら静かにカードを抜く。


「戦乙女は伝説の存在をネビュラ様がその技術で再現する為に作り出した兵器にすぎない。だが、試作型の赤の戦乙女は制御できず失踪してしまったそうだ……青の戦乙女アイリスはそれを踏まえて改良したもの、兵器に感情などいらない」


「兵器……あなたは生命をなんだと……!」


「完成品に劣る未完成品に価値はない。力無きものは淘汰されて死ぬだけだ、力があるからわたしはお前達に負ける事はない」


 戦乙女が兵器であること、その観点で話すポーラがあまりにも無感情であり、力を求めるバエルのそれとは全く相反するものにはエルクリッドも歯を食いしばりながら身体を起こし、より強くリスナーバインドが締め付けようとも構わずポーラを睨む。


「あんたなんかに、あたし達は負けない……負けて、たまるもんですか……!」


「負け犬の遠吠え、だな。わたしは目的を果たす事に変わりはない……スペル発動、デストラクション」


 再び使われたデストラクションのスペルを防ぐ手立てはシェダやリオ達にはなく、エルクリッドもカードが使えぬ状態で窮地に陥る。


 負けたくはない、負けるわけにはいかない。デストラクションの効果で地面が割れ始めたその時、突如地面がツルツルとした白銀色に変わっていき、やがて周囲を同じような景色とするとデストラクションの効果が発動せず、それにはポーラも目を見開く。


「どうして……!?」


(これは……クリアーフィールドのホームカード? お互いのスペルを封じるカードを誰が……)


 スペルを完全に遮断する場を形成するホームカードが展開された事にはポーラはもちろん、エルクリッド達も困惑するしかない。

 だが、ポーラと違ってエルクリッド達はすぐに誰によるものかを察し、刹那に何かを察知し振り向こうとしたアイリスが殴り飛ばされるのを目撃する。


「弱き者が吠えるな」


 殴り飛ばされたアイリスが立て直しながら踏ん張り、ポーラもまたその男を捉える。鬼を思わせる仮面で目元を隠し、夜空を思わせる紺色の丈の長い服の背に画かれるは火竜の星座を持つ、最強の頂に立つ者を。


「バエル・プレディカ……!」


「ようやく貴様らと相対する機会が得られた……この時をどれだけ待ち望んだか貴様らが知る必要はない、ここで熒惑けいこくのリスナーたる俺が鉄槌を下す……!」


 敵意と共に滾る魔力が熱風を呼んで周囲を揺らし、バエルの闘争心の高まりがエルクリッドらにも伝わって空気がビリビリと音を鳴らす。

 何故彼が戻ってきたのかはわからない、だがポーラとラスターへ向ける感情はこれまで自分達に向けられたものと異なる感情とエルクリッド達は感じ取り、カードを抜くバエルの姿が赤く燃えるように輝く戦星にも見えた。


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