第二幕・タテハ

 リオとイスカの戦いを見守るエルクリッド達も緊張感に息を呑み、そこへちょうどヒガネがやって来てエルクリッドの隣に来てさり気なく手を伸ばすも、素早く彼女に腕を掴まれそのまま強く握られ苦悶する。


「賢者様ー? お触りは良くないんじゃないですかー? ぶっ飛ばしますよ?」


「いてぇって! わかったから!」


 ぱっと手を離してすぐにエルクリッドはタラゼドを挟んで反対側へとノヴァと共に移動し、手の跡がついた腕にわざとらしくふーふー息をかけるヒガネにタラゼドがくすくすと笑う。


「程々にした方がいいですよ。それよりも」


 あぁ、と答えながらヒガネは前を見てリオとイスカの戦いに目を向ける。ちょうど舞姫ルリをカードへと戻したところであり、リオはリンドウと共に警戒している場面だ。


 イスカはカードをカード入れに戻し次のを抜こうとしたが、ふと何かを思ったのか手を止めて離し、こっちでやるかと呟くと羽織を脱ぎ捨てそれを露わにしリオ達の視線を集めた。


「イスカ殿、それは……!?」


 イスカが羽織を脱ぐと同時に背中より翼が開くように伸びるのは金属で作られ、柔軟に動く機巧の腕であった。驚くリオにあぁこれねと言いつつカードを抜く。


「わえは人形使いで戦いにも応用してるけど、使う人形によってはどうしても両手が必要だったりする。でも両手使うとカード抜くのが難しくなるし隙ができるから、ヒガネに頼んでわえの魔力を使って自由に動く腕を作ってもらったんよ」


 リスナーはカードを扱う者、人形使いは人形を操る。その両方であるイスカは彼なりに自身の弱点を分析し克服する方法を見出した、ということなのだろう。

 機巧の腕は直接背中から生えてるわけではなく服のように着て身体で支える部分と繋がっており、着脱可能であるものなのも見て取れた。同時に緩やかに動く腕からはヒガネの確かな腕前がわかる。


「アセスにも糸使えるのがいるから機巧の腕なくてもいいけどさ……どうせなら新しい伝統も作っていきたいから。それじゃあ第二幕、オーダーツール……鬼火鳥タテハをご覧あれ」


 イスカが次なるオーダーツールを使用し、姿を現すのは骨のように空洞が多い白銀の身体の鳥のような機巧人形だ。イスカの背中の機巧の腕の指先から糸が伸びて人形に着くと、次の瞬間に人形から紫炎が噴き出して形を成し空へと舞い上がる。


 鬼火鳥タテハ。出現直後と売って変わり全身燃える紫炎の鳥となったその姿は妖しくも美しく、だがそれ故に戦いにくい相手であるのも容易に想像がつきリンドウは舌打ちしリオも目を細めた。


(燃える鳥かよ。どうなってやがる?)


(身体そのものが魔力に反応し発火する特殊金属で作られている。確かそういうものがサラマンカのごく一部で見つかるとは聞いてたが……)


 サラマンカには様々な鉱脈がある。その中にはかなり特異なものもあり

未だ研究中で扱えないでいるものも多い。

 そうしたものの一つとリオは分析しつつも初めて目の当たりする相手とそれを扱う術には驚きを隠せず、しかしすぐに心を静めてカード入れに手をかけイスカもまたカードを抜く。


「天より降り注ぐ紫炎の華には見惚れて焼かれぬようにご注意を。ホーム展開、壊れた油井」


 淡々とイスカが展開するのは壊れた油井なるホームカード。場の中心に井戸のようなものと何かの管やら作業機械が現れ、次の瞬間に動き出すと井戸から黒い液体が飛散し舞台へと落ちていく。


 それと共にタテハが翼を羽ばたかせ旋回を始め、火の粉を降らし液体に触れるとそれは燃え始め、あっという間に闘技場を火炎地獄へと変えてみせた。


(油を撒き散らすホームカード! ホームインパクトで吹き飛ばす事は可能ですが……)


 炎が広がる中でリンドウはするすると炎を避けているがどんどん逃げ場を失っていく。ここで焦って水属性スペルを使うという判断はリオはしない、それをしたところで火種となるタテハの炎が消える事はなく、カラード同様に水属性カードやホームカードを対処するカードを使わせる事を誘う戦術と見抜く。


 とはいえ空からただ火の粉を花吹雪の如く降らし続けるだけで攻撃となり、逃げ場を奪う状態は何とかしなければならない。リオは警戒しつつカードを引き抜き、リンドウと目を合わせ呼吸を合わせる。


「スペル発動アシッドレイン!」


 発動と共にポツポツと闘技場の空に現れる紫の雲より降り始める雨に舌打ちしつつイスカは機巧の腕を大きく引き、タテハをやや強引に上に向かせそのまま飛翔させ雲を貫かせる。


 降り始めの雨に合わせてリンドウも剣を鞘に収めつつ濡れぬようリオの傍らへと跳び退き、やがて雨に濡れた作業機械が動きを止めながら煙を上げ、雨の強さに比例し溶解していく。


(酸の雨を引き起こすスペルカードでホームカードを破壊せず効果そのものを止める。あわよくばタテハを壊す算段、悪くはない)


 ホームカードは展開し続ける間魔力を消費し続けるが、維持する事で発動する手間を省き支援し続けられる有用性もある。対策として直接破壊するカードはあるが、故に防御カードも多い。

 雨が止む頃には雲が消えて淀んだ水に油が浮いた水溜りが広がり、直後にイスカは壊れた油井のカードを解除しカードへと戻す。


 酸の雨は貴金属等への影響が大きい。元が金属であるタテハにとっては致命的とも言えるが、早くに雲より高く飛んだ事もありほぼ無傷である。

 そのまま再び戦いへ、となる前にリオはリンドウをカードへ戻しアセスを変える姿勢を見せた。

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