006/04/波乱の道中
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気を付けて先へ進もう、という方針と言っていいかすら怪しいあやふやな方針を立ててから数時間。
索敵魔法の索敵範囲は、魔法を行使した側の魔力量によって左右される。そして、リリウムは魔法学校を優秀な成績で卒業できる程度には魔力量が多い為、相手がマコト達に気づくよりも先に仕掛ける事ができたのだった。
つまりは奇襲。
奇襲を仕掛ける側だった筈の敵が、マコト達の奇襲を受ける、という状況。
あまりにも想定外だったのか、襲撃者達――正確には襲撃する筈が襲撃されていた者達だが――は困惑のまま二人の攻撃を受ける。
あっという間にマコトとリリウムの二人で四人を無力化するに至り、四人ともをロープで縛りあげる。
前回と同じようにマコトが彼らに聞き込み――半ば拷問である――をするが、得られた情報は前回と同じ。
雇い主については伏せられている状態のままで、何かしらの対策を考える事には至らない。
はぁ、とマコトはため息をつく。
そんな様子を見てアービーは「せめてこの書類を見たら何かわかるかもしれませんが……」と口にする。
これには「いや、冗談だとしてもそれは言わないで。大変な事になりそう」とマコトは慌てて彼女を制する。
アービーが手にしているヘルヴィア共和国がガルディ王国に渡す予定の封筒。
ヘルヴィア共和国の外交官であるアービーがここまで襲われるという事であれば、その持ち物に何かしらの秘密があるのではないか、という考えそのものは自然かもしれないが、封のされているものを開けて確認するのはマコトとしても気が引ける。
忍の里で諜報員としての教育と訓練を受けて来たからこそ――あるいは、前世で最低限度の社会人経験を積んでいるからこそ、そのあたりについては敏感になっているとも言える。
「まあ、流石に開ける事はしませんが……気にはなりますよね」
アービーは念を押すように“開ける事はしない”と口にしつつも、気になる、という素直な気持ちも吐露する。
実際問題、このように襲撃が繰り返されるとなれば気になってしまうのは無理ないだろう。
――自分はいったい何を持たされて、何を運ばされているのだろう、と。
「……とりあえず、国境には辿りついたな」
「そうですわね……」
それから約二時間。
三人はヘルヴィア共和国とガルディ王国の国境に到着した。
眼前には関所の建物が建てられており、中にはヘルヴィア共和国とガルディ王国からそれぞれ派遣された兵士が詰めている。
そこで本来ならば、通行税等の支払が発生する訳だが今回はアービーが外交官としてガルディ王国に向かうという都合上、それは発生しない。
事実、関所の中に入った三人はアービーが外交官である事を示す札を両国の兵士に見せれば、その護衛であるマコトとリリウムも含めて通行税を要求される事なくガルディ王国側へと抜けられる事となった。
「思ったよりも、あっさりしていましたわね」
「まあ、両国から兵士を派遣している関所が設けられている時点で、両国の関係が見てとれる。少なくとも、ああして両国の兵士が一か所にまとめられていて、表面上だけでも落ち着いた振る舞いができるんだから」
リリウムのなんだか拍子抜けと言わんばかりの感想に対して、マコトはそう口にする。
これには「確かにそれはそうですわね」とリリウムは納得する他ない。
「それに、今回はライアンさんがいたっていうのも大きい。外交官は冒険者のように外交官の札っていうのがある。それのおかげであっという間にライアンさんは外交官である事が証明されて、護衛の私達も通れたって事だ」
冒険者が冒険者札を用いて冒険者組合で本人確認されるのと同様に、外交官は関所や役所で外交官札を用いて本人確認される事になっている。
これは、冒険者組合から各国への技術提供がされた結果可能となった代物――であるとマコトは前世でRTOのメインストーリーで知っていた。
専用の機械を用いて札の情報を読み取る事で、偽の外交官札ではないのか、外交官札を持っている者が本当に外交官であるかをあっという間に識別できるという訳だった。
その精度は極めて高く、偽造も不可能とされている。
「外交官なり立てで先輩の付き人みたいな形で初めて関所を通った時はビックリしましたね……」
アービーもまた、関所を始めて通った時の感想を漏らす。
関所というのは怪しい者を通さない為の最後の壁と言い換えてもいい。
その為、国境を渡ろうとする者が危険なものを持っていたりすれば通さないようにしたり、商売をするのであれば関税を払わせるといった役割がある。
つまりは、面倒そうな場所というイメージがつく。そして、実際に面倒である。
しかしながら、その面倒そうなところを外交官というのはあっさりと通る事ができる。
その事実にアービーは当初驚いたのだった。
関所を通過して数時間。
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ガルディ王国側に入ってからの襲撃は今の所ないものの、魔獣の群れと遭遇したのだった。
とはいえ、銀級冒険者の中でも実績は兎も角実力は上澄みでありマコトが遅れをとる訳はなく、後衛にリリウムが控えている事もあって、護衛対象であるアービーに魔獣が近づく事無く撃退する事に成功したのだった。
「襲撃はなくなりましたわね」
「楽観するのは早いけど……そう感じたくなる位にはヘルヴィア共和国側の時よりは大丈夫そうに感じるかな」
リリウムが楽観的な事を口にしマコトはそれを注意しようとするが、実際その感想を漏らしても仕方がない位には、ヘルヴィア共和国側にいた時よりも、襲撃者による襲撃の頻度というのは下がっていた。
魔獣に襲われこそしても、人による襲撃はない。
結局のところ、ごく一部の危険な魔獣を除けば魔獣よりも脅威となるのが人である。
徒党を組み、作戦を立てたり連携をしたりといった動きというのは魔獣にはあまり見られない動きである。
そして、冒険者の多くは対人戦闘よりも対魔獣の経験の方が豊富という事もあって、対人戦闘に対して苦手意識を持つ冒険者というのは珍しくない。
マコトは忍の里での鍛錬で対人戦闘を経験しているからマシな方ではあるが、一般的にはそう考えられている。
「ここから目的地まではあとどのくらいでした?」
一先ず襲撃者云々についてはさておき、目的地までの時間についてマコトはアービーに尋ねる。
依頼書に目を通した時にある程度は頭に入れているマコトではあるが、念のためそう口にすると「そうですね……」とアービーは地図を取り出し暫し考える。
「……あと二時間程度、ですね。そこまで行けば、ガルディ王国の王宮に着きます」
アービーのそんな答えに「随分と国境の近くに王宮があるんだな……」とマコトがポツリと零す。
「今、本来の王宮が老朽化で大規模修繕中のようでして。臨時の王宮らしいですね」
マコトの問いにさらりとアービーが答えるとマコトは「世知辛いなあ」と素直な感想を口にする。
老朽化による修繕、というのはおかしな話ではないだろう。
どのような建物であっても、耐用年数というのは決まっているもの。
勿論、文化的価値があるものは数十年数百年――時には千年単位で長持ちする事はあるが、それは定期的な修繕あっての事である。
そして何より、王国にとっての王宮――つまりは国の中心たる王族が公私の両面で多くの時間を過ごすだろう住まいが老朽化しているとなれば、大規模な修繕を行うのは何もおかしくない。
――だがしかし、である。
マコトとしてはRTOというゲームでこの世界を多少なりとも知っていた身で、前世とは違う世界として認識していただけに、前世と似通った部分を見つける度に複雑な気持ちとなるのもまた、おかしな事ではなかった。
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