25、壁の安全部、結成
校長先生と話をしてから、一週間が経った。
わたしたちの学校の廊下にある掲示板には、今まで見たこともないような、手作りのポスターが何枚も貼られている。どれもかんたんなものだけれど、みんなの熱意がこもっている。
『新設クラブ員募集! 君も「しらさぎのまち」を守る一員にならないか?』
大きな文字の下には、「壁の安全部」「食料を大切にする会」「まちの歴史研究部」などなど、いろいろなクラブの名前が並んでいる。校長先生は、約束どおりそれぞれの「まちを守る活動」ができるよう、大人たちに働きかけてくれたんだ。それを受けて、わたしたちも動く。お互いに頑張って、これだけたくさんのクラブができたんだ。
「ミカンはどうするの? もう決めた?」
昼休み、セトカがわたしの隣で、掲示板を見上げながら尋ねてくる。
「『壁の安全部』かな。ナツメくんのことをいちばん近くで守れると思ってる。セトカは?」
「私は、『まちの歴史研究部』に入ろうかなって。ナツメくんがいた『からすのまち』みたいなことにならないように、『しらさぎのまち』のことをもっと知りたいんだ」
セトカらしいな、と思った。やさしい彼女なら、きっといろいろ調べ物をして、まちの歴史を大人たちに教えてもらう活動にすごく向いている。対してわたしは、掲示板の一番上に貼られた、「壁の安全部」のポスターをじっと見つめた。
『活動内容:まちの壁の安全点検。点検の技術と知識をもつ大人のひと一緒に、壁に弱いところがないか調べます』
これは、グループワークの時に、わたしが一番最初に提案した案をもとにつくられたクラブだった。壁の外で、たったひとりで戦うナツメくん。硬くて高い壁があるから、ナツメくんは戦えている。でも、もしも壁が壊れてしまったら? ナツメくんはまた、守ろうとしていたものをなくしてしまう。それに、壁が壊れて恐竜もどきがまちに入ってきてしまったら……壁の外を知ってしまったわたしには、答えはもう決まっていた。
わたしは、ナツメくんの一番近くで、わたしができるやりかたで、彼を守りたい。
そして、初めての活動日。放課後、指定された壁の前に集まったのは、わたしを含めた子どもが五人と、まちの大人たちが三人。合わせて八人の、ちょっと変わったクラブ活動の始まりだった。
「よう、みんな! 俺はバンペイ。ふだんは家の壁を直す仕事をしている。壁の修理も、実はいままで少しずつやっていたんだ。今日はよろしくな!」
日に焼けた大人の男の人が、にっと笑って手を上げる。まちで一、二をあらそう力じまんだってお父さんから聞いたことがあるけれど、本人に会ったのははじめてだ。バンペイさんは、わたしたちに小さな木づちと、白いチョークを手渡してくれる。
「壁の点検っていうのは、『くずれやすかったり、もろかったりするところを見つける』っていう仕事だ。もちろん、もろいところがないのが一番だが、壁はできてから何十年も経っているからな。急いで作ったっていうし、本当は補強……弱くなっているところを強くする作業をしなくちゃいけない。でもなかなか人手が足りなくて、はかどっていなかった」
バンペイさんはじぶんでも木づちをもって、後ろにある壁を軽くたたく。
「でも、やり方はそんなにむずかしくない。こうやって、壁を優しく、コン、コン、て叩いてみな。ふつうは、今みたいな音がする。もし、音が違うところがあったら、そこが弱ってる可能性がある。そしたら、チョークで印をつけるんだ。ためしに近くの壁でやってみよう」
木づちが壁にぶつかるたびに、固くて、重そうな音が鳴る。わたしも、おそるおそる木づちを手に取り、壁を叩いてみた。
コン、コン。
思ったよりも、軽い力で音が出る。なんだか、壁とお話ししているみたいで、少し楽しい。わたしは夢中になって、自分の背が届く範囲の壁を、ひとつひとつていねいに叩いて回った。隣では、同じ部活に入った男の子が、真剣な顔で壁の音に耳を澄ませている。
「ミカンくんたちの手が届く範囲がもろいことは、ほとんどないけどな」
不意に、うしろからバンペイさんの声がした。
「だけど、こうやってみんなが下の部分を点検してくれるだけで、俺たち大人は高いところに集中できる。もしも、下の部分がもろくなってたら大変だ。真っ先に修理しなくちゃならないからな。本当に助かるよ。みんなありがとうな」
その言葉に、わたしの胸は、じんわりと温かくなる。確かに、わたしがやっていることは、小さな取り組みだ。でも、この小さな木づちは、大人たちの仕事をほんの少し、楽にしてあげられる。わたしがつけたチョークの印があれば、大人たちが壁を強くする助けになるんだ。壁が早く、強くなれば、ナツメくんのためにも、しらさぎのまちのためにもなる。
わたしはもう一度、ぎゅっと木づちを握りしめた。わたしたちの活動を、離れたところから見ている大人たちもいると思う。そんな人たちにも、まちを守ることの大切さが伝わってくれたらいいなと思いながら、さらに横へと進んでいく。
コン、コン。
小さな木づちから鳴る音は、日がかたむくまで鳴り響いていた。
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