第2話

5


結婚式は一気に決まって半年後になった、

この時代にしては異例の早さだ。


まわりからも祝福されて、

準備はとんとん拍子に進んだ。


「あっ、ベビードレスも買っておこうか?」

「言っておくけど、婚前交渉はあれっきりですからね、

子供ができて、新婦がつわりで吐きまくる結婚式なんて最悪でしょう?」


「ちぇっ、ケチ」

こいつはやっぱり性欲だけなのか?


でもまあ、媚薬を飲まされた時に、

変な方向に流されずに、私のところに来たことは、今となってはちょっと嬉しいかな、



その頃、王宮では騒動が持ち上がっていた。

王女様が懐妊されたのだ。


考えてみたら、今まで子供ができなかったのが不思議だ、

薬を飲んでいたのだろう

たまたま飲み忘れた時に、妊娠したのだ。


「お父様、この子の父親は騎士団長よ」

「何だと、きさまには妻子がおるではないか、

それなのに、娘に手を出したのか?」


「姫様の方から誘ってきたのです、

それに時期が違う

子供の父親は私ではありません!」

「何だと、おまえはクビだ!

出て行け!」


「お父様、この子の父親は神官長よ」

「今日は安全日だから大丈夫だとおっしゃったではないですか!」

「きさま、神に仕える身でありながら、

おまえもクビだ!」


「お父様、この子の父親は宰相よ」

「私は最後は外に出してー」

「おまえもクビ!」


「じゃあ、財務大臣よ」

「政務官よ」



6


高級官僚や神殿の高官が次々に免職され、

国家の中枢はガタガタになってきた。


ライナスのいる宮廷騎士団も5.6人免職になり、団長の家では離婚騒ぎになっている。


王女様は、次から次に関係した男の名を暴露した、

宮廷に残っている心当たりがある者は、毎日ビクビクして出廷していた。


「俺は、1年以上前に1回こっきりだから、

名前なんて覚えていないと思うけど、

先輩方は結構ハラハラしているぜ。」


「何で誰も名乗り出ないのかしら?」

「姫様の性格を知っているからね、

タガが外れた人を、いざとなったら誰も抱え込みたく無いんだろう。


昔はあんなじゃなかったのに、

俺が好きになった頃は、結構無邪気で可愛いかったんだ。」



ルルナは、王妃様から注文を受けたドレスを王宮に納めに行った。

お喋りな侍女さんたちとも顔馴染みだ。


「ライナス、姫様は王妃様の子供ではないんですって、」

「本当か?」


「陛下が踊り子さんに産ませた子供なんだって、

お母さんが亡くなった後、

顔が美しいから、政略結婚に使えると考えて、

王妃様の子供として引き取ったんだって」


「陛下はそんな打算的な人には見えないけどなあ、

でも、その話が本当だったら、姫様は何処かでずっと隠されて育ったんだろうな。」


ルルナは難しい顔をした

「ライナス、

もしかしたら姫様は陛下と側近の人たちに、復讐しようとしているんじゃないかしら、


一生、日の目を見ずに亡くなった母親と、

政略結婚の道具としか見られていない自分のために」


「確かにこのままでは、宮廷ごと崩壊しかねないな。」


ルルナは暫く考えを巡らせていた。

「ライナス、愛してるわ」

「なんだい、急に」


「あなたが名乗り出なさいよ、

姫様と寝たんでしょう?」

「1年以上も前の話だぜ」


「だけどその時できた子供なのよ、

あなたが子供の父親なのよ。」

「何言ってるんだ?」


「早く止めないとこの国が駄目になるわ、

姫様も恨みを買って殺されるかも知れない、


一度は姫様に気に入られたんでしょう、

向こうもまた思い出すわよ。」


「俺はおまえが好きなんだぜ?」


「助けられるのは、あなただけよ、

このままだと姫様が壊れてしまう、

あなたが昔の、

あなたが好きだった頃の姫様に戻してあげなさいよ!」


「ルルナ!」


「ずっと前に、何でもひとつお願いを聞くと約束したわよね、


別れましょう、

そしてあなたはこの国を救ってちょうだい。」


「ライナス、大好きよ、


どちらかが嫌って

一方的に別れるのは不公平だけど


両方とも好きなんだから

どちらも振られた、痛み分けのフィフティフィフティーなのよ

恨みっこなしじゃない。」

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