第7話 現場作業員の声
忘れられた日本の足跡
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現場の声:赤坂田市再開発と奇妙な噂
カテゴリ: フィールドワーク , 現代民俗学 , 赤坂田市
投稿日時: 2025年8月28日
こんばんは。久坂部です。
東京は台風が近づいている影響か、少し風が強くなってきました。
さて、郷土史家の三田村先生への聞き取り調査で、「公的な記録」という大きな壁に突き当たった私ですが、視点を変え、今まさにその土地と直接関わっている人々、つまり再開発現場で働く方々の「生の声」に耳を傾けることにしました。
先日、夕暮れ時の現場周辺を改めて歩いていたところ、近くの定食屋から仕事終わりの作業員の方々が出てくるのに遭遇しました。その中の一人に思い切って声をかけたところ、幸運にも、気さくに話を聞かせていただくことができました。吉岡健二(よしおか けんじ)さんとおっしゃる、快活な印象の方です。
今回は、その吉岡さんから伺った、現場で囁かれているという奇妙な噂についてご報告します。
【以下は、吉岡氏の許可を得て、スマートフォンのボイスメモで録音した会話の文字起こしです。】
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音声記録:ボイスメモ 20250827_1905.m4a の文字起こし
・場所: 赤坂田駅近くの居酒屋にて
・話者: 久坂部誠、吉岡健二
【記録開始】
[居酒屋の喧騒。テレビの野球中継の音、他の客の話し声が混じる]
久坂部: 吉岡さん、本日はお仕事終わりでお疲れのところ、ありがとうございます。
吉岡: いいってことよ。アンタみたいな若いのが、俺らの仕事に興味持ってくれるなんて、嬉しいじゃねえか。で、何だっけ? 現場でなんかないかって?
久坂部: はい。何か、変わったことや、不思議なことなどあれば…。
吉岡: 不思議なこと、ねえ…。まあ、変な話なら、いくつかあるぜ。みんな、疲れてるだけだって笑ってるけどな。
久坂部: 例えば、どんなことでしょう?
吉岡: まず、工具がなくなるんだよな。特に、スパナとかレンチとか、金属のやつ。で、さんざん探しても見つかんねえのに、次の日の朝、全然違う場所…例えば、誰も触ってないはずのコンクリートの基礎の上に、ポツンと置いてあったりするんだ。気味が悪いだろ?
久坂部: それは…不思議ですね。
吉岡: あと、夜勤の連中が言うんだけどさ。誰もいないはずの北側の区画から、子供が歌ってるような声が聞こえるって…。まあ、風の音か、電車の音の聞き間違いだろうけどな。気味が悪いから、夜は誰もそっちには近づかねえよ。
久坂部: 子供の歌声、ですか…。
吉岡: ああ。それから、これは昼間でもそうなんだが、妙に空気が冷たい場所がある。三号クレーンの真下あたりなんだけどな。カンカン照りの真夏なのによ、そこだけ空気がひんやりしてて、汗がスッと引くんだ。ベテランの職人ほど、あそこは何かいるって言って気持ち悪がってるな。
久坂部: 何か、特別なものがあった場所なのでしょうか。
吉岡: さあな。俺らにはただの更地にしか見えねえけどな。まあ、そんなとこだ。大体、ただの思い過ごしか、誰かのイタズラだろうけどよ。
【記録終了】
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吉岡さんは最後に笑っていましたが、その話は私にとって非常に興味深いものでした。
工具が移動するポルターガイスト現象、いわゆる「音の怪」としての子供の歌声、そして局地的な冷気。これらは、古くから怪異譚として語られてきた現象の典型例です。特に「子供の声」というモチーフは、笹川トメさんの語った「神隠し」の伝承と不気味に共鳴します。
現代の建設現場で囁かれる奇妙な噂話が、まるで古くからの土地の記憶をなぞるかのように現れている。私は、その事実に強い衝撃を受けました。
そして、もう一つ。
帰宅後、この録音データを改めて聞き返してみて、ある一点に気づきました。
吉岡さんが「子供が歌ってるような声」について話している、まさにその部分(録音開始から1分32秒地点)で、彼の声に重なるように、非常に微弱ですが、金属的で、擦れるような「キィ…」という高周波のノイズが一瞬だけ記録されていました。
居酒屋の喧騒の中では全く聞こえなかった音です。それが何を意味するのか、今の私にはまだ分かりません。
この土地は、今まさに、それ自身の「声」で何かを語り始めているのかもしれません。
(久坂部 誠)
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