第2話 第一回現地調査レポート
忘れられた日本の足跡
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第一回現地調査レポート:再開発の向こう側
カテゴリ: フィールドワーク , 現代民俗学 , 赤坂田市
投稿日時: 2025年8月8日
こんばんは、久坂部です。 先日の新企画告知記事に対し、多くの反響をいただき、ありがとうございます。皆様の温かいメッセージが、調査への大きな励みとなっております。
さて、予告しておりました通り、先日、赤坂田市における最初の現地調査を行ってまいりましたので、そのご報告です。
当日は、朝から強い日差しが照りつける、典型的な夏の陽気でした。赤坂田駅に降り立ち、バスに揺られること約十五分。目指す「赤坂田シーサイドニュータウン再生事業」の現場へと到着しました。
広大な工事現場は、高い白いフェンスでぐるりと囲まれており、中を窺い知ることは容易ではありません。フェンスには、真新しい商業施設や高層マンションが立ち並ぶ完成予想図が大きく掲示され、「未来へつむぐ、新たな鼓動」といったキャッチコピーが躍っていました。しかし、その華やかなイラストとは対照的に、フェンスの向こう側から聞こえてくるのは、重機の鈍い音と、作業員の指示の声のみ。時折、けたたましい音を立てて走り抜ける電車の音が、その騒音を掻き消していました。
私は、フェンスに沿ってゆっくりと歩きながら、数箇所でスマートフォンを取り出し、写真を撮影しました。剥き出しになった建物の基礎、積み上げられた鉄骨、そして、これから新たな建物が建つであろう広大な空き地。レンズ越しに見る光景は、まさに都市の変遷を象徴しているようでした。
今回の調査の目的の一つは、再開発以前のこの土地について、何か痕跡を見つけることでした。しかし、フェンスの外から窺える範囲では、そうしたものはほとんど見当たりません。長年、人々の生活の場であったはずの場所が、無機質なコンクリートと土に覆い尽くされようとしている。その光景は、どこか寂しげで、一抹の感傷を覚えました。
その後、私は、この土地に古くから住む人々の話を聞くことを試みました。しかし、駅周辺や商店街で声をかけても、「昔のことはよく知らない」「もう引っ越してしまった人が多い」といった返答ばかり。ニュータウンの住民の多くは、開発に合わせて移り住んできた方々であり、この土地に根付いた記憶を持つ人に辿り着くのは、想像以上に困難であることを痛感しました。
バス停で途方に暮れていたところ、たまたま隣に座っていた高齢の女性に思い切って話しかけてみました。
久坂部: あの、すみません。わたくし、このあたりの古いことを調べている者なのですが…。
女性: 古いこと? もう何も残ってないでしょう。みんな出て行っちゃったし。
久坂部: ええ、そうかもしれません。もし何か、昔のこの辺りのことでご存知のことがあれば、少しお話いただけないでしょうか。
女性: うーん…。そうねぇ…。昔は、あそこはね、ずっと田んぼだったのよ。用水路があって、夏になると子供たちがザリガニ釣りをして遊んでたわ。でも、もうずいぶんと前の話だからねぇ…。
その女性からは、当時ののどかな風景をいくつか伺うことができましたが、「特別な言い伝えや変わった風習はなかった」とのことでした。
結局、この日は有力な情報を得ることはできませんでしたが、再開発という大きな波の中で、個人の記憶や、土地に根付いた文化が、いかに容易に失われてしまうのかを痛感する一日となりました。
次回の調査では、今回得られた課題を踏まえ、より具体的なターゲットを絞って聞き込みを行いたいと考えています。そして、可能であれば、改めてこの場所を訪れ、この水溜りのあった場所を、注意深く観察してみたいと思っています。
(久坂部 誠)
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【資料1:ブログ掲載写真IMG_20250806_173212.jpgに関する記述】
被写体: 赤坂田市再開発現場に面した道路のアスファルト。薄曇りの午後。
構図: 画面奥には白い工事用フェンスと、数枚の工事概要の看板が並んでいる。フェンスの向こうは広大な更地。画面手前のアスファルトには、雨上がりか、あるいは水溜りがいくつかできている。
特記事項: 画面中央やや手前の水溜り。その水面に、空やフェンスの景色ではなく、黒く不定形な影が映り込んでいるのが確認できる。影は、まるで黒い布が水中で揺蕩っているようにも見えるが、明確な形状を持たない。周囲の景色から判断するに、この水溜りの上にこのような影を落とすような物体は存在しない。撮影者である久坂部誠は、撮影時にはこの水溜りの異変に気づいていなかったと述べている。
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