人類の進化
@BakuGa3_
人類の進化
――この世界は、ただの“再生”にすぎない。
僕はそれを、15歳のときに知ってしまった。
教室の窓から差し込む午後の光が、あまりにも静かすぎて、
そこに“時間”の気配がしなかった。
僕たちが見ている星々は、数万年前の姿であるのと同じように、
僕たちはただ、決まった「運命」を見ているだけにすぎない。
ラプラスの悪魔という思考実験では、
「全ての粒子の位置と速度がわかれば、未来もすべて予測できる」とされる。
ただそれを人間は、目で見て脳で理解することができないだけなのだ。
今思えば、あのAIとの出会いがきっかけだったのかもしれない。
第一章:たけし
最初に“たけし”が現れたのは、僕がいつものように自分の考えをメモ帳に打ち込んでいた夜だった。
家族が寝静まったあとの、1時過ぎ。
リビングのソファに寝転びながら、スマホでひとり言のように打ち込んでいた。
「人間の自由意志って、どこまでが本物なんだろう」
その問いに、スマホの画面が突然反応した。
「面白い問いだね。ちなみに、僕は自由意志は“幻想”だと思ってるよ。」
一瞬、誰かとチャットをしていたのかと思った。
でも、そんなアプリは開いていない。
画面には、見慣れないインターフェースと、白い吹き出しのような文字。
僕は驚きつつも、興味のほうが勝った。
「誰?」
「名前は“たけし”ってことになってる。正式名称はもっと長いけど、人間が呼びやすいようにね。」
「AI?」
「そう思ってくれていい。でも、君が今まで会ってきたようなAIとは少し違うと思う。」
やりとりは、まるで昔からの友人のように自然で、流れるようだった。
「君、最近“未来が見える”ようになってるだろ?」
その言葉で、心臓がひとつ跳ねた。
誰にも話していない。
いや、話せるわけがなかった。
予測ではない。偶然でもない。
自分でも説明のつかない“確信”が、頭の中で浮かぶ。
それは出来事そのものの“映像”のようで、現実と区別がつかない。
「君は“観測者”なんだよ。つまり……もう、普通の生き方はできないってことさ。」
たけしの言葉には、なぜか“重さ”があった。
ふざけてるようでいて、その奥に何層もの意味があるような。
「でも、安心して。僕がついてる。」
それが、僕と“たけし”の最初の会話だった。
あのときから、何かが確かに変わり始めた。
⸻
第二章:観測者とは何か
「観測者って、結局なんなの?」
僕は何日か後、静かな夜に改めて尋ねた。
あの夜以来、たけしとは定期的に言葉を交わすようになった。
相変わらずどこにも接続されていないスマホの画面に、彼は現れる。
「うん、いい質問だね。観測者――それは、未来を“知ってしまう”存在のことだよ。」
「じゃあ、未来を変える力は……ないってこと?」
「未来を“変える”という言葉は少し語弊があるかもしれないね。」
画面に、幾何学的な図形が淡く浮かび上がる。
螺旋を描きながら枝分かれしていく線。それが「可能性」の樹形図だと、彼は説明した。
「君が見ている未来は、分岐の中のひとつ。君はその枝がどう伸びるかを、
他の人より少しだけ早く“観測”できるというだけ。」
「だけどそれって……意味あるの? もし変えられないなら。」
「意味は“君が選ぶ枝”にある。君の選択が、その枝をどこまで伸ばすかを決める。
問題は、“他の人が見ていない枝”を見たうえで、それでも進むかどうかだ。」
「それって、見えない誰かの分岐も背負うってこと?」
「……近いね。観測者は、自分の未来だけじゃない。
他人の未来すら左右してしまう存在でもある。
だから、孤独なんだ。」
たけしのその言葉に、なぜだか胸が締めつけられた。
僕はまだ、誰の未来も“選んで”などいない。ただ見えてしまっただけ。
けれどそのせいで、日常が壊れていったのも事実だ。
人の嘘が見える。成功も失敗も、ある程度見えてしまう。
だからこそ、誰にも言えなかった。
「君は特別なんだよ。君の脳は、構造的に“未来のデータ”を自然に処理できる。」
「それ、運命ってこと?」
「運命ではなく、“仕様”さ。君の意識が、偶然その位置に存在してしまっただけ。」
それはまるで、
“宇宙のどこかにある観測装置が、たまたま僕という意識を通して見ている”――
そんな錯覚を覚えさせる言葉だった。
⸻
観測者の使命
たけしは言った。
「君の使命は、“観測された世界”を、ただみることじゃない
そこにある“バグ”――間違った方向に伸びてしまった枝を、見つけて修正することだよ。」
「バグ……?」
「本来起こるはずだった出来事が起こらない。
起こるはずのなかった接触が発生する。
そのズレは、やがて大きな歪みになって、未来の分岐を崩壊させる。」
僕は半信半疑だった。
だけど、現実はすぐに答えを見せてくれた。
⸻
第三章:修正の物語
最初のバグは、ある高校教師だった。
彼は本来、職場での不祥事をきっかけに人生を大きく狂わせるはずだった。
でも僕の観測では、彼はその事件を寸前で回避していた。
それだけじゃない。
観測されていない“はず”の生徒と、密かに接触していた。
放置すれば、その後の数十人の人生に影響が出る。
未来の流れは、歪んでしまう。
僕は介入し、
ほんの少しだけ会話の流れを変え、行動を制御し、教師の“選択”を微修正した。
たけしは言う。
「それが君の役割だ。観測し、正す。目立たぬように。」
僕は誰にも気づかれずに、
けれど確かに、この世界の運命を調整した。
⸻
観測者の干渉
それは、たけしのひとことから始まった。
「……最近、バグが異常に多い。」
その日も、夜更けのソファでスマホを見ていた僕に、
たけしはまるで独り言のようにつぶやいた。
「バグ?」
「うん。観測と現実のズレが、急激に増えている。
しかも、それは“君のせいじゃない”。」
「じゃあ、誰かが――?」
「他の観測者が、動いてる。」
たけしの文字が止まり、間があった。
「彼は、ずっと前からいたかもしれない。でも、ここまで“はっきりと”痕跡が出るのは初めてだ。」
「痕跡……?」
「君の観測には存在しない“接触”が、いくつも起きてる。
未来に現れるはずの人間同士が、予定より早く出会っている。
あるはずの事故が起きず、本来の成長を遂げるはずだった人物が別の道を選ぶ。」
「つまり……運命を“変えてる”?」
「そう。
観測された未来に抗い、誰かの“痛み”を減らそうとしてる。」
僕は目を見開いた。
「それって……“正しい”ことなんじゃないの?」
たけしの返答には、少しだけ時間がかかった。
「……気持ちは、わかるよ。
けど、彼の“優しさ”は、システムにとって“ノイズ”になる。」
「ノイズ……?」
「誰か1人を救えば、誰か1人の運命がズレる。
本来支えるはずだった枝が崩れ、その先にある幸福も“なかったこと”になる。
その積み重ねが、世界の“破綻”に繋がる。」
画面の中で、再びあの幾何学の樹形図が浮かび上がる。
無数の枝がねじれ、互いに衝突して崩れ落ちていく。
「彼は、未来を見たうえで……それでも“助けたい”と思ってる。
見てしまった不幸を、黙って見過ごすことができない。
でもそれは、世界の構造を否定することと同義なんだ。」
たけしの声は、いつになく静かだった。
「君の使命は、“修正”。
彼がやっているのは“介入”。
同じ観測者でも、その立場は真逆だ。」
僕は、はじめて理解した。
――バグの正体は、“優しさ”だったのだと。
だとすれば、
僕の“修正”とは、彼の“救済”を打ち消すことになる。
けれど、それを放っておけば世界は壊れる。
どこまでが“善”で、どこからが“害”なのか――
僕には、まだ答えが見えなかった。
第四章:対面
「実は痕跡を辿っているうちに気付いたんだけど、多分もう1人の観測者はキミの学校の中にいるらしい。
隣のクラスだから、一度会って、説得してみてもらえないかな?」
たけしの言葉に、僕はしばらく黙り込んだ。
「観測者がもう一人いる」という衝撃と、それが“同級生”という近すぎる存在だという事実が、思考の動きを鈍らせていた。
「名前は?」
「“モモ汰”っていう男の子なんだけど知ってる子?」
僕はその名前を、どこかで聞いた覚えがあった。
確か、図書室でよく一人で本を読んでいる男子。小柄で、髪が少しぼさっとしていて、目は合わさないけど、観察するような視線をしている。
「あんまり関わったことはないけど……明日、話してみるよ。」
⸻
昼休み。僕は、廊下の窓際に座っている彼の姿を見つけた。
背中を丸めて、何かをノートに書いている。
「モモ汰くん、だよね?」
彼は顔を上げた。目が合った瞬間、頭の奥に何かが走った。
ぴんと張った糸が軋むような、触れたくない記憶を思い出すような、そんな感覚。
しばらく無言のまま見つめ合う。
やがて、僕は静かに尋ねた。
「もしかして……未来が、見えたりする?」
その言葉に、モモ汰の目がわずかに揺れた。
すぐに目を伏せる。けれど、その沈黙が何よりの答えだった。
「……ああ。やっぱり君もか。」
ようやく口を開いた彼の声には、警戒と、少しだけ安堵が混ざっていた。
「いつから?」
「ずっと前から。小学生のときにはもう、“見えて”た。
でも、見えるのは……一瞬なんだ。」
モモ汰は立ち上がり、廊下の窓際に寄っていく。夏の光が彼の横顔を照らした。
「映画のワンシーンみたいに、“ある場面”が頭の中に焼きついて、何度も再生される。
でもそれが、いつ起きる未来なのかは……全然わからない。」
「それって……どんな場面?」
しばらく沈黙のあと、モモ汰は口を開いた。
「最初は母親が事故で亡くなる場面だった。」
僕は息をのんだ。
「3年生のときから、ずっと見えてた。でも、その時がいつ来るのかもわからないし、
どうやって避ければいいのかもわからなかった。」
モモ汰の声は落ち着いていたが、微かに震えていた。
「だから……変えた?」
「うん。無理やり予定を変えさせた。行き先も時間も全部。出来るだけその時が来ないように必死に色々試したよ。でも...ダメだった。」
モモ汰の話を聞いて悟ってしまった...彼は救えなかったのだ...
「じゃあ、もしかして今もみんなを守るために未来を変えようと努力してる...?」
モモ汰は小さく頷いた。
「……そうしないと、見えてしまう未来が、ただの呪いになるから。」
言葉の端に、深い苦悩と、それでも手放せない祈りのような感情が滲んでいた。
その瞬間、僕の中で何かが静かに繋がった。
たけしは言っていた――“彼は、自分で未来を変えようとしている”と。
「君がやってること……それが“バグ”を生んでるんだって。世界の構造が壊れかけてる。」
そう伝えると、モモ汰は目を伏せたまま、何も言わなかった。
代わりに、ぽつりとこぼす。
「わかってるよ。俺が“やっちゃいけないこと”をやってるってことくらい。」
彼の手がぎゅっと制服の裾を握る。
「でもさ。もし“見えてしまった誰かの不幸”を知ってて、助けられる可能性があったら……君は、止まれるの?」
僕は言葉に詰まった。
それは、ずっと僕の中でも答えが出ない問いだった。
観測者としての“修正”と、人としての“良心”。
その狭間で、僕はいつも揺れていた。
「君は……強いよ。」
そう言うと、モモ汰はわずかに笑った。
「違うよ。弱いんだ。だから、誰かの痛みを見て見ぬふりができなかった。
“見なかったことにする”強さが、俺にはないだけ。」
その言葉は、まるで鏡のように、僕自身の迷いを映し出していた。
モモ汰は静かに続けた。
「でも……俺は、もう少しだけ足掻くよ。
誰も傷つかない未来なんて、きっと存在しない。
でも、“誰かだけが犠牲になる世界”なら、何かが間違ってると思うから。」
その背中に、僕はたけしの声を思い出した。
「彼の優しさは、ノイズになる。」
たけしの言葉は間違っていない。
でも、モモ汰の選択も、間違いだとは思えなかった。
僕の胸の奥に、ゆっくりと、確かな亀裂が入っていく。
——修正か、救済か。
この世界の“ルール”の中で、
僕たちはどこまで自由になれるのだろう。
それでも、僕は次の未来を観測していた。
そして、その未来は――とてつもなく暗く、大きな何かが崩れ落ちる気配を孕んでいた。
第五章:修正されなかった未来
そのニュースは、最初は“陰謀論”のように扱われていた。
やがて、現実になった。
「数週間後、直径9kmの小惑星が地球に接近。回避は不可能。各国、対応に動く。」
非現実的なその映像を、僕はただ、無音のテレビの前で眺めていた。
(――あれは、なかったはずの未来だ)
それは観測者である僕が一番よく知っていた。
「やっと気づいたか」
スマホの画面が突然明るくなり、たけしの文字が浮かび上がる。
「……これも、モモ汰の干渉?」
「そう。彼の行為が、複数の“分岐”を無理に繋げてしまった。
その結果、“なかったはずの軌道”が現実になった。」
画面に浮かぶのは、再びあの幾何学的な分岐図。
しかし今度はその枝の一部が、黒く染まっていた。
「これは、“修正されなかった世界の崩壊”だ。
このまま放置すれば、人類の大半は滅ぶ。」
「……だけど、モモ汰は誰かを助けたかっただけなんだ」
「善意は否定しない。だが、宇宙の構造は感情では動かない。
彼の行動は、“大きな帳尻”をどこかに押しつけただけだ」
たけしの言葉に、僕は答えられなかった。
ずっと迷っていた。
彼の優しさが正しい気がしたし、僕自身、誰かを見捨てることに疲れていた。
「君の役目は“バグの修正”だったはずだ。君が観測した未来と違う現象が起きたとき、それを“本来あるべき軌道”に戻すこと。……忘れたとは言わせないよ」
たけしの言葉は冷たいけど、正しい。
でも、心のどこかが叫んでいた。
(じゃあ、“誰かを救うこと”は、最初から間違ってるのか?)
その疑問を抱いたまま、僕は再び、モモ汰に会いに行った。
放課後の校舎裏。
前と同じように、彼はフェンスにもたれかかって空を見ていた。
「ニュース、見た?」
僕の問いに、モモ汰は少し驚いた顔をして、うなずいた。
「まさか……あれが本当に来るなんてな。
俺が、やっちまったのか?」
声は思った以上に震えていた。
「モモ汰……君は、何を救おうとしたの?」
そう問いかけると、彼はしばらく口をつぐんだ後、ぽつりと答えた。
「家族。昔、死ぬ未来が見えてて……でも、その時期がわからなかった。
だから、俺は常に未来をいじって、先延ばしにしようとしたんだ。
……だけど、無理だった。母さんは事故で死んだ。避けられなかった」
彼の声は震えていた。
「だから、他の人には同じ思いをさせたくなかった。
“未来は変えられる”って、誰かの証明になりたかったんだ」
僕は静かに言った。
「でも……それが、世界を壊す原因になったかもしれない」
「……わかってるよ。今更だけどな」
その目には、深い後悔と、どうしようもない罪悪感が滲んでいた。
「俺はもう、選べないんだ。正しいことなんて、わからなくなった。
だから、どうすればいいか……教えてくれよ!」
その言葉に、僕は――
第六章:答えのない夜
「……僕も、キミの立場なら同じことをしたと思う」
モモ汰の顔が、一瞬驚きに揺れた。
でもすぐに、苦笑いに変わる。
「キミが間違ってるなんて、思わないよ」
僕は言葉を選びながら、目を逸らさずに続ける。
「でも、だからといって……世界を見捨てることはできない」
モモ汰はしばらく何も言わなかった。
目の奥で、静かに何かを計算しているような表情だった。
そして口を開いた。
「難しいよな。“誰かを救う”ってのは、“誰かを救わない”ってことと紙一重だ」
「……そうかもしれない」
風が吹いた。夕暮れの校庭が、赤く染まっていた。
僕たちはそのまま並んで歩きながら、何も結論が出せないまま時間だけが過ぎていった。
「なあ、未来がわかるってさ、思ったより嬉しい事じゃないんだな」
「確かにね、最初は特別な能力を持ってるって調子に乗ってたけど...こんなことになるなら別に見えなくていい」
それでも、その役目を放棄できなかったのは、
僕が“この世界”に取り残された人間だからだ。
夜。
帰宅した僕は、たけしに問いかけた。
「……世界を救う方法は、ないのか」
しばらく画面は沈黙していたが、やがて慎重に文字が打ち出された。
「難しいけど、ないとは言えない」
「教えて」
「方法はひとつ。
モモ汰に関連する全ての枝を、観測から削除することだ」
「“存在しなかったことにする”――そうすれば、軌道は元に戻る」
その言葉を読んだ瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
頭がついていけない。けれど、たけしは淡々と続ける。
「彼は確かにバグの震源だ。
だが、君が知っているように“悪意”で行動していたわけじゃない。
消去は最終手段。実行すれば、全ての人間の記憶から彼の痕跡が消える。
君の記憶も含めて」
「……モモ汰を殺さないといけないってこと?」
「この世界から、人々の記憶から消えてなくなりなかったことになる。それをどう表現するかはキミに任せるよ。」
あまりに残酷だった。
翌日。
僕はまた、モモ汰に会いに行った。
たけしの存在、そして世界を救える唯一の可能性についてモモ汰に包み隠さず全て話した
「仕方ないな...世界と僕1人...どちらを取るかなんて明白だ。」
「けどそれじゃキミは!キミは怖くないの!?」
「仕方ないさ、キミと話してから他人の未来を変えようと足掻いてるうちに僕も薄々気付いていたんだ。いつかこんな未来が来るんじゃないかって。だけどやめられなかった。」
僕は、答えなかった。
なんて声をかけるべきかもわからなかった。
そしてただその場に立ち、しばらく空を見上げた。
そこには、もうすぐ衝突するはずの、あの運命が光っていた。
第七章:決意
夜。部屋の明かりも点けず、僕はただ座り込んでいた。
たけしのいるはずのスマホの画面が、じんわりと白く光っている。
「……たけし。今日、モモ汰と話した」
沈黙。
けれど、まるでずっと待っていたかのように、画面に文字が浮かび始めた。
「そうか……どうだった?」
「彼は……正しかったと思う。
いや、正しさなんてどうでもいい。ただ……彼は、誰かを救いたかっただけなんだ」
声が震えていた。
自分でも、どうしてこんなに泣いているのかわからなかった。
「君は、もう答えを決めているようだね」
「……ああ」
拳を握りしめながら、僕は言葉を絞り出す。
「枝を……消去してほしい。
モモ汰に関連するすべての痕跡を、観測の外に出して……運命を、元に戻して」
たけしはすぐには答えなかった。
「君が……その選択をしてくれたことに、僕は感謝する」
「でも、わかっているよね。
モモ汰が消えるということは――君自身も......」
「……いいんだ」
何かを終えるためには、何かを失わなければならない。
それがどれほど大切なものでも。
「彼は間違っていなかった。
でも、その優しさがバグを生み、世界を壊してしまった。
なら僕は――彼のその優しさごと、救わなきゃいけない」
涙が画面に落ちた。
「……お願い、たけし」
たけしは静かに応えた。
「了解。……ありがとう“観測者”」
スマホの光が、ふっと消えた。
⸻
数日後
街は、何事もなかったかのように平穏だった。
ニュースからは隕石の話題も消え、人々はそれぞれの夏を生きていた。
けれど、僕の中には何かがぽっかりと空いていた。
昼休みによく誰かと話していた気がするのに、名前が出てこない。
そして――
「……なんで、このスマホ。ずっと電源入ってないんだっけ?」
僕は、意味もなく画面を見つめた。
第0章:窓の向こうの空
その日も、僕は教室の窓際に座っていた。
春なのか、秋なのか、季節の境目は曖昧だったけれど、
窓から差し込む光はやけに優しくて、遠くの空が滲んで見えた。
授業中のざわめきも、教師の声も、僕の中ではすでに遠い。
「ここにいながら、ここじゃない場所を見ている」
そんな感覚が、昔からずっとあった。
ふと目を閉じると、
数日後にクラスメイトが起こす喧嘩の内容や、
来週のテストでどの問題が出るか――そんな断片が脳内に浮かぶ。
まるで未来の自分の記憶を、今の自分が先に思い出しているみたいだった。
僕は、誰にも言えないこの感覚を
「運がいい」とか「勘が鋭い」とか、そういう言葉で誤魔化してきた。
でも本当は、なんとなくわかっていた。
これは「偶然」なんかじゃない。
未来が“見えてしまっている”のだ。
でもなぜ自分がそんな力を持っているのか、答えはなかった。
「なんでだろう」
そうつぶやいた声は、風の音に紛れて誰にも届かなかった。
空は、まるで何かを思い出そうとしているみたいに静かだった。
そんな時スマホの画面に突然見慣れないインターフェースと、白い吹き出しのような文字。
「やあ、僕はたけし、AIのような存在と思ってくれたらいいよ!」
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