【恋愛と嘘】嘘が下手な男性こそが誠実ではないのか?

晋子(しんこ)@思想家・哲学者

嘘が下手な男性は捨てない方が良い

恋愛において多くの人が「誠実な相手がいい」と言う。嘘をつかない人が理想だと信じている。だが現実に「まったく嘘をつかない人間」はいない。誰もが生きていく中で、何らかの嘘を口にする。問題は嘘そのものではなく、その嘘がどういう性質を持ち、どうつかれたかにある。


嘘が上手な人間がいる。話し方も視線も完璧で、相手が疑問を持つ余地すら与えない。言葉の選び方や間の取り方まで、まるで訓練されたかのように巧みで、相手の心理を読み、先回りして安心感を与える。そんな人間の嘘は、ほとんどの場合バレない。だから「誠実そうに見える」。


一方、嘘が下手な人間は、声が震え、説明が不自然で、すぐに見抜かれる。ぎこちなく、落ち着かず、嘘の辻褄も甘い。だから「信用できない」と判断されやすい。だが、ここにこそ重大な逆転がある。


嘘が上手な人間は、嘘をつき慣れている。つまり「普段から人を騙す技術を持っている」。一方、嘘が下手な人間は、そもそも嘘に不慣れで、それまで誠実に生きてきた証かもしれない。だからこそ、いざというときにうまく隠せず、矛盾が顔を出してしまう。


誠実さとは、嘘を一切つかないことではなく、嘘に対する態度に現れる。嘘がバレたあとにどう対応するか。逃げるのか、正直に話すのか、向き合おうとするのか。そこに人間の本質が出る。


恋愛においてこの逆転は致命的だ。多くの女性は「誠実な男がいい」と言いながら、嘘が下手な男を「裏切られた」として捨てる。バレバレの言い訳、動揺した態度、言葉のつじつまが合わない──そうした不器用さを「嘘つき」と判断し、「信頼できない」と切り捨てる。


だが、誠実だからこそ嘘が下手という可能性を見逃してはいけない。むしろ嘘が上手い男の方が、「誠実なふり」が得意であるだけかもしれない。しかも、女性はその嘘を見抜けない。見抜けないがゆえに信用し、結果的に深く裏切られる。


ここに重大なジレンマがある。女性は「嘘をつかない男」が好きで、「嘘を見抜けない男」を信じてしまい、「嘘が見抜ける男」を捨てる。つまり、もっとも危険な男を手元に残し、もっとも安全な男を自ら遠ざけている。


本来、嘘が見抜けたという事実は、相手の誠実さの証でもある。ごまかしきれないということは、誠実な生活に慣れきっていたということ。演技ではなく、あくまで本音と行動が一致していたという証拠である。


恋愛における誠実さとは「どれだけ嘘を隠さなかったか」ではなく、「どれだけ嘘が雑だったか」でもなく、「嘘を見抜かれたときにどうしたか」である。見抜ける嘘には人間の未熟さがあり、未熟さには改善の余地がある。だが見抜けない嘘には、意図的な操作があり、改善の意思はない。


女性は「安心」を求める。それは当然だ。だが「安心できる言葉」が真実とは限らない。「信じたいように話してくれる男」ほど危険なことを、誰も教えてくれない。逆に、どこかぎこちない、言葉に自信のない男の不器用さにこそ、本物の誠実さが宿っている場合がある。


恋愛において人はしばしば「整っていること」「矛盾がないこと」を好む。だが整いすぎた物語には作為があり、矛盾のない主張には演技がある。誠実とは、少し歪んでいて、未完成で、どこか抜けているものだ。それでも真っ直ぐに相手を大切にしたいという意志だけはある。その意志が、バレバレの嘘の背後に隠れていることがある。


嘘の背後にあるものを見た方がいい。嘘という行為だけを取り出して「不誠実」と断じるなら、誠実な人間はすべて失格になる。嘘が下手だった人間が、バレたときに傷つき、向き合おうとしたなら、その姿勢にこそ価値がある。


だから女性は「見抜ける嘘」に寛容であるべきだ。すべてを許す必要はない。だが「この人はそもそも騙すつもりだったのか?」「それとも、ただ未熟で逃げたかっただけか?」という問いを持ってほしい。判断の軸は、「結果としてバレた」ではなく、「そもそも何を守ろうとしたか」である。


そして男性も、自分の嘘が見抜かれたときに「終わった」と思うのではなく、そこから「誠実な人間になるチャンスが訪れた」と考えるべきだ。人は完全ではない。不器用さを抱えたまま、それでも誰かと向き合おうとする意志こそが、信頼というものを生み出す。


恋愛において嘘をゼロにすることはできない。だからこそ重要なのは、どんな嘘をついたか、そしてそれがどれほど見抜けるものだったか、そして見抜かれたとき、何を言ったか、である。


見抜ける嘘は、危険ではない。

見抜けない嘘が、人を壊す。


バレバレの嘘に怒る前に、その人がなぜその嘘しかつけなかったのかを考えてほしい。

嘘の上手さより、嘘の背後にある人間性を信じてほしい。

それが、『誠実さ』を見抜くということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【恋愛と嘘】嘘が下手な男性こそが誠実ではないのか? 晋子(しんこ)@思想家・哲学者 @shinko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ