第9話 トーコの陰謀!

「そりゃ、朝のあいつには感謝してるよ? スリッパ、職員室まで借りてきてくれたし」


 そう言いながら、私は、新しい上履きの値札を切った。


「ふむふむ・・・それで?」


「でも、昼のあいつは許せない。トーコって女がいるんだから、大人しくしてろよって思う」


 真新しい上履きをシューズケースに放り込んで、明日忘れないようにと、カバンの傍にそれを置く。


「ふむふむ・・・それで?」


「よりにもよって、芽衣子たちに、『可愛いお化けたちに脅かされるのを、期待してるよ』って」


 シリを持って階段を降り、ヒイロの口真似をしながら、台所に歩を進める。


「ふむふむ・・・それで?」


「ちょっと、信じられない。だって、トーコとお茶するくらいの仲なのに、全然一人に集中できてないじゃんそれ」


 私は、台所の鍋掛けに掛けてあった、卵焼き器をコンロにのせる。


「ふむふむ・・・それで?」


「昨日、『文化祭の日に暇あるか』って、私に声を掛けてきたのも、そういう意図だったのかなって勘繰ると、あいつの見境のなさに、なんか腹立ってきて・・・」


 茶碗とお皿を出して、冷蔵庫を開ける。


「ふむふむ・・・それで?」


「シリ、いま何時?」


 冷蔵庫から、タッパーと卵を出そうとしたところで、私は、シリにそう質問した。


「ふむふむ・・・それで?」


 そう言ってしまってから、シリは、『しまった』という顔をした。

 さっきから台詞が棒読みだから、怪しいと思ってた。


「もう、全然人の話聞いてないじゃん!」


「聞いとるわけないだろう! 我輩は大魔王だ! 恋愛相談室じゃない!」


「いや、別に私は・・・」


 ヒイロが好きとかそういうんじゃなくて。


「朝と昼であの勇者もどきの人格の見え方が変わった程度でなんだというのだ! そんなもん、我輩には何の足しにもならんだろう!」


「だから、トーコが可哀想だって話」


「まぁ、トーコ嬢にあだす者は我輩も許せんが、そもそも、トーコ嬢が、勇者擬きと恋仲だというのは、確証がある話なのか? どうにも我輩には、その辺りがよくわからん」


 まぁ、確かに。

 もし、本当にそうなら、私と一緒にお昼してないと思うし、そもそもウニバに誘われる事もなかっただろう。

 

 シリの言う通り、冷静に考えればそうなる。

 もしかして、今までの全部、私の早とちり?


 でも、じゃあ、なんで二人きりで喫茶店なんかに行ったんだろう・・・


 疑問が疑問を呼ぶが、考えていても仕方がない。


 コンロに火を入れて、冷凍ご飯をレンジに放り込み、ボールの中に卵を落としてかき混ぜる。

 砂糖と醤油で味を整えて、卵焼き器に投入。


 じゅわぁと、卵が焼ける音がして、香ばしい匂いが立ち込める。

 頃合いを見て、卵をまきまき。


「む、何やらうまそうだな・・・なんだその料理は?」


「卵焼き。食べさせてあげたいけど、シリは食べられないもんね」


 タッパーに入った漬物と、生野菜を添えて食卓へ。


「美味そうだな、くそ・・・! こういう時、自身が機械であるのが悔やまれる!」


「人間に転生すればよかったのにね」


 パシャりと携帯シリで写真を一枚。

 彼には申し訳ないが、私は、いただきます。


「くっ・・・! ハヤク、ニンゲンニ、ナリタイ!」


 シリ、その台詞、あかんやつ。


 ◆


「安藤さん、この前の、お化けやってもらう話なんだけど・・・」


 朝のHRホームルームの前に、私の席に松下くんが申し訳なさそうな顔をしてやってきたので、何があったのだろうと首をかしげる。


伊知いじさんたちが、急にやりたいって言い出して・・・安藤さんの枠まで取ろうとしてて・・・」


「芽衣子たちが?」


 何となく、想像はできる。


 多分、昨日のヒイロのせいだろう。

 全く、手のひら返しがうまいというか、何というか。


「申し訳ないけど、大道具係の方に回って欲しいという相談なんだ・・・」


 もともと、どっちでもよかった話ではあるから、まぁ、別に問題はない気もするけど。


 そもそも、これは、私にとっては悪い話ではない。


(やったー! D組の『男の娘メイドカフェ』が気になってたんだ。トーコ誘って覗きに行こう!)


「いいよ、別に。気にしないで?」


 私は、満面の笑顔で、松下くんにそう答えた。


 ◆


「・・・というわけなんだ。文化祭の当日、暇になっちゃったから、D組の『男の娘メイドカフェ』一緒に観に行こうよぉ」


 いつも通りの昼休みの屋上。私はトーコにそう話を持ちかけた。


「えー? 私、無理」


「何でー」


「私のところは演劇だよ? そんな暇ないってば。よかったら、リンも見においで」


 そう言って、トーコは私にフライヤーを差し出した。


『ロミオとジュリエット ~サイバーパンク編~』

 西暦2150年、世界はサイボーグとアンドロイドの戦争の只中にあった。

 サイボーグの兵士、ロミオは、AI搭載のアンドロイド、ジュリエットと恋に落ちる・・・


「へー。トーコ何役よ?」


 開演時間を忘れないように、フライヤーにカメラを合わせて写メを撮る。


「ジ・・・ジュリエット・・・」


 トーコは恥ずかしそうに顔を背けて、小声でそう言った。


「すごい、主役じゃん!」


「もう無理ー。アンドロイドの役だから、コンタクトも買いに行かないといけないし、色々大変だよ・・・」


「何で? トーコならいけるっしょ。美人だし」


「いやいや、絶対無理でしょ! また、人ごとだと思ってテキトーな事言う!」


 私はフライヤーの写メを保存した。


「なるほど、『未来世界で繰り広げられる、らぶすとーりー』か・・・ ちょっと待て、トーコ嬢、『ろみお』役は誰なのだ? まさか、男か?」


 シリがやたらに食いつく。まさかアンタ、トーコのこと好きなの?

 まぁ、私もロミオ役は気になってはいたんだけど・・・


「女の子だよー。 バレーボール部の川島さん」


 C組の川島ヒカルは、ある意味、有名人だ。

 女子なのに、スカートを好まないため、男子用のスラックスを着ている変わり者として。

 なので、一部の人間からは、「タカラジェンヌ」と渾名あだなされている。


 もともと、うちの高校は、女子用の制服はスカートしか認められていなかったが、彼女の登場で、風潮が変わりつつあるらしい。


 なるほど。確かに彼女なら、そこら辺の男子よりもイケメンだから、ロミオ役はぴったりとハマる。


「とにかく当日は舞台で忙しいから、今回は無理。一緒には回れない」


 トーコはそう言って、私を突っぱねた。


 全く残念だ。トーコが暇じゃないとなると、文化祭は一人で回ることになる。

 A組の女子は、私と回ってくれそうな人がいないし・・・


「困ったなぁ」


「何が?」


「文化祭、せっかく予定空いたのに、誰も一緒に回る人がいない・・・」


「そうなんだ。そういえば、東条くんも、そんなこと言ってたなぁ」


 作為的なものを感じるのは気のせいだろうか。

 トーコはニヤニヤしながら、私にそんなことを言ってきた。

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